第12話 下僕げっちゅ

 とうとうブチ切れた俺はルカの部屋にいた。

 24時間体制で守ることにしたのだ。

 父ちゃんも宮殿にお泊り。

 リディア母ちゃんは騎士隊に戻ると強弁したが、メアリと家で待機。

 俺はルカとゲームをしながら、小さな外部ユニットを出す。外部ユニットBとしようか。

 外部ユニットBは近衛騎士隊に見つからないように移動。

 途中出会ったネズミやムカデ、蜘蛛なんかを取り込みつつ移動。

 とある場所を目指す。


【外部ユニットB、宮廷魔術師の研究所に到達】


 俺はニヤッと笑い、盤に石を置く。


「あ、負けたぁ……」


 ルカが悔しがる。

 俺の勝ちである。えっへん!

 偉そうにしてるがすでに俺とルカのリバーシにおける勝率は変わらない。

 俺は脳筋なのだ!


「もう一回やろうか」


「うんッ!」


 喜ぶルカを見てほっこりしながら、俺は外部ユニットBで研究所を盗み見る。

 毒を使うんだからインテリから疑ったほうがいい。

 研究所の中は職員が実験をしていた。

 ほとんど現代の研究所と同じと思ってもいいかもしれない。

 今日の食事とかどうでもいい話をしながら作業をしていた。

 毒とかの実験はしてないようだ。

 俺は隙間から資料室に入る。

 部屋に入るとピリッと体がしびれた。


【警告! 防犯用装置に引っかかりました!】


 くそッ!

 セキュリティがあったか!

 入り口から出るわけにはいかない。

 職員が来たら隙をうかがって逃げよう。

 俺は触手を使い天井に張り付いてから移動、棚の上に移動する。

 物音を立てないように静止する。

 石だ。俺は石になるのだ!

 バタンとドアの音がした。

 何者かが部屋に入ってくる。

 足音が聞こえてくる。


「ラルフ様。そこにいらっしゃいますね?」


 誰だ?


「憶えているかわかりませんが……私はジェイソン。あなたの味方です」


 俺は外部ユニットBをスピーカーモードにする。


「所長さんですね。なぜ私だとわかったんですか?」


「うわッ! 肉ッ! 気持ち悪ッ!」


 外部ユニットBはむき出しの肉から眼球カメラが出ている形状だ。

 足がないから機動性は低いけど、骨格がなく形状を固めてないのでどこでも入れるのだ。えっへん!

 でもちょっと見た目には問題があるだろう。

 あー……そう。肉のままじゃだめか……。

 次はネズミの毛でも生やすか。


「次は毛を生やしてきますね!」


「そういう問題なのですか! ……いえいいです。

あなたの宮殿への出仕は噂になってます。

そして隠蔽されてますが、近衛騎士団が忙しく走り回ってます。

おそらく両者には関連性があるのだろうと結論づけただけです」


「……ただの五歳児なのに?」


「あなたがただの五歳児じゃないことを知っているからです。地母神の使徒にして亜神のラルフ様。

こう言ってはなんですが……私は使える男ですよ。私を使ってみませんか?」


「なぜ売り込みをかけるんですか?

私は亜神でも、権力もなにもないただの五歳児ですよ」


 するとジェイソンはふふっと笑う。


「心の底からあなたが怖いからですよ。

村人が全滅した吹雪の吹き荒れる山でただ一人生き残ったのが赤ん坊。

たったそれだけ充分ですよ。

あなた様は人知を超えた地獄から生還し亜神になった。

それも生と死、再生と破壊の神の使徒として……。

私は死んでもあなたの敵にだけはなりません」


 ……そこまで俺って怖いか?

 害のない肉繭型幼児だよ。


【専門家ほど怖いパターンなんじゃないですか?】


 それだ!


「交換条件は?」


「そうですね……あえて言えば月一回ほど健康診断に来てくれればうれしいですが……。

……それと私が死ぬ時には……絶対に生き返らせないでください。

貴方様にはそれをする能力も権利もおありだ……だけど私は生き返りたくないのです」


 その気持ちはわりとわかる。

 所長との約束はしっかり記憶しよう。


「了解。協力感謝する。

なにから話そうか……」


 俺は王子の暗殺未遂があったことを所長に話した。

 所長はブツブツとつぶやいている。


「なにか……腑に落ちませんね。

こちらでも調べておきましょう」


「よろしくお願いします。所長さん、私は昼は会議室で夜は王子の部屋にいますので」


「ラルフ様わかりました」


 外部ユニットBを戻し探索終了。

 宮廷魔術師たちは一旦容疑者から外そう。

 俺本体はルカと遊ぶ。

 しばらく遊んでるとルカがぽつりと漏らした。


「あのさ、ラルフくん……ぼく、本当はすごく怖かったんだ。

でもラルフくんがいるから我慢できる……と思う」


「大丈夫だ。どんな手を使っても俺が守るから」


【ご主人様の場合、本当に手段を選びませんもんね】


 ぬははははは!

 ガキを殺そうとするやつに人権など、ない!

 てめえら人間じゃねえ! 叩き斬ってやる!


「うん……ありがとう……でも……」


 またルカは下を向いた。

 確かに俺もガキである。

 武力を信頼できるはずがない。

 俺は燭台を取る。


「ないしょだよ。

炎の神よ。すべてを浄化する炎を我に」


 ぼうっと蝋燭に火が灯る。

 するとルカは目を輝かせる。


「古代呪文! それ古代呪文だよね!

ジェイソン先生がやってた! すごーい!」


「え……古代呪文?」


 ちょ、賢者ちゃん! どういうことなの!


【ちょっと待っててください……えーっと、人間さんは神様たちがちょっと気に入らないだけで邪神扱いするんだそうです。

それでここ数百年ほど神様たちは人間に手を貸すのをやめたそうです。

古代魔法は神様との契約で用いるもの。なので古代魔法をごく少数しか使えなくなったそうです。

今は力技で発動する魔法が主流だそうです】


 うっわ!

 え……邪神扱いの被害者って地母神様だけじゃないの?

 ちょっと引くわ……。


【アデル様、ご主人様が正体を見破ったのがよほど嬉しかったみたいです。

数百年ぶりに神の意志を正しく汲み取ってくれるものが現れたと他の神様の間でも評判だそうです】


 ……この世界の神様。

 本当に苦労してたんだね。

 心の底から同情します。

 つまり俺の呪文はほぼ固有スキルなのか。


「ぼ、ボク、こ、古代呪文使えるヨ。これ内緒ネ」


「どうしてラルフくん片言なの?」


「とにかく俺は強いから。ルカは絶対に守るから。毒も効かないしね」


 するとルカは笑顔に花を咲かせた。

 あとでジェイソン所長に相談しようっと。


「僕も魔法使いたい!」


 ぺかーっとルカのテンションが上がる。

 ……待てよ。近衛騎士連れてジェイソン所長のところに行けば安全じゃね?

 俺の戦略も相談できるし、普通の魔法も教えもらえる。

 対価はゲームと古代魔法、それに外部ユニットを見せることで支払えるんじゃないかな?

 あと帳簿とか。


「わかったルカ! あとで父上に相談してみるね!

それじゃ、次なにして遊ぶ?」


 そのまま俺達は遊びに興じる。

 なんというかルカはボードゲームの達人だった。

 あっという間に上達して俺は……あまり勝てなくなってきた。二日目で。

 自分の脳筋仕様に危機を憶えてきたぞ。

 今やバックギャモンと軍人将棋が最後の砦だ。


【どちらも思考の読み合いゲームじゃないですか! どんだけ泥仕合仕様なんですか!】


 泥仕合の神に俺は、なる!


【やめてくださいね。本当に。アデル様はいつも見守ってますからね!】


 それはまずいな。

 社長に恥をかかせるわけにはいかん。

 ねえねえ賢者ちゃん。俺はなんの神になればいいと思う?


【肉……】


 地味にへこむからやめて。

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