第13話 フェイのおっちゃん

 お泊り四日目。

 勉強したいっすと父ちゃんに申告したら、ジェイソン所長が来ることになった。

 そんなジェイソン所長は……。

 今、将棋を前にうなっていた。


「ルカ様、待った……だめ?」


「だめー」


 大人の所長が将棋でルカに勝てない。

 ルカの凄さがわかるだろう。


「ぐっ! まいりました……」


 投了。

 なお俺は所長にも勝てない。

 現在この国の将棋王者はルカだろう。

 負けが決定すると所長が血走った目で俺の手を握る。


「……ラルフくん。将棋を世界に普及させましょう!

そのためなら私財でもなんでも放出します!

まずは軍の作戦室に持っていって……ぐふふふふ!」


 将棋ジャンキー出現!

 元の世界のゲームはやばいな。

 ありとあらゆるゲームが楽しめる日本でトップクラスのゲームコンテンツだもんな。

 そりゃ最強だわ。

 うん、しゃれにならんわ。

 そのままジェイソン所長は外で警備していた兵士に書類を渡す。


「ジェイソン先生。なにを渡したんですか」


「友人を呼びました。くくく、仲間を増やすぞ」


 友人まで沼に引きずり込むその行動。まさにゾンビである。


「はあ……」


 すると大柄の男が入ってくる。

 年は40代。髭面でだいぶ寂しくなった髪を後ろで結んだおっさんだ。


「ジェイソン、呼んだか……って殿下!」


「おう、フェイ! ここだ! ここに座れ!」


「ばか、ジェイソン! 殿下の御前で!」


「いいから! 殿下の命である!」


 フェイと呼ばれたおっさんは、恐縮しながら椅子に座る。

 俺は小首を傾げる。

 するとルカが教えてくれる。


「軍参謀室長のフェイ・ダームス伯爵。ジェイソン先生と仲が良かったんだね」


 本来ならうちの家と同格の宮廷貴族か。(俺のせいでうちだけ階級が上なのだ)

 たぶん父ちゃんの同僚だな。

 俺は遅れて自己紹介する。


「ラルフ・マーシュです。殿下の小姓を勤めさせていただいてます」


「あー、あの噂のスタンリーの息子か! いやあ、よろしく!」


 手を握られてブンブンされる。

 うわ、力が強い! このゴリラ親父め!


「おう、それで……ああ、申し訳ありません殿下。拙者、武人ゆえ礼儀作法が苦手でして……」


「いえ、いいです。そのままでお願いします」


 ルカはピコピコと手を振りながら愛想笑いした。

 いま……俺……ショタコンの気持ちがわかったかもしれない。


【しょたこんってなんですか? 検索しますか?】


 賢者ちゃん。もうちょっと大人になるまで我慢しようね。

 俺のSAN値がなくなるから。

 本当にやめてね!


「それでジェイソン、要件はなんだ?」


「こいつを見ろ。新しい軍議板だ」


 やっぱり似たようなのあるのか。

 そりゃあるよね。


「は? こんなに駒が少なくて小さいのか?」


「だが完成度が段違いだ。必要最小限なのにすべてが一つにまとまっている」


「珍しい。お前が考えたのか?」


「いいや、そこのラルフくんが古い文献を見つけてな。文献にあった遊びを三人で復元したのだ。

太古の昔に軍の訓練で使われていたものみたいだ」


「ほう、そりゃ興味深い。ちょっとやらせろ」


「おう、んじゃ、教えながらやるからな」


 そしてゲームが始まる。

 最初こそルカと俺はおとなしく見ていたが、だんだん暇になって別のゲームで遊ぶ。

 よこではフェイの「ふむふむ」という声が聞こえ続ける。

 しばらくすると「んがー!」という声が聞こえた。負けたな。

 そうすると俺達のほうが気になったらしく声をかけてくる。


「ラルフ、そりゃなんだ?」


「バックギャモンですよ。えーっとすごろく?」


「おいおい、騎士たちの夜勤の暇つぶしにいいじゃねえか。

いやーいいもん作ったな。おっちゃん、ほめてやる」


 そのままラルフは俺とルカの頭をなでた。

 ちょっと力が強くてぐりぐりだったが、それでもルカは笑ってた。

 このおっさん……人懐っこいな。

 これがコミュ力か……。眩しいぜ。


【ご、ご主人様には私とルカくんがいますから!】


 慰めないで!

 ガチの慰めやめて!

 死にたくなるから!


「どうだフェイ。騎士団で導入しないか?」


「おう、そうだな。こりゃ流行るぞ」


 フェイのおっちゃん、ホクホク顔である。


「あ、でもフェイ参謀。父上も贈答用の作るって言ってました」


「フェイおじさんでいいっての。参謀なんて肩書だが、要は軍の雑用係だ」


 あー、要するに軍の裏方のトップだ。

 ……待てよ。実質、軍のトップじゃん。

 将軍がやろうと思っても、この人がダメと言ったらダメになるタイプの偉い人だ!

 ジェイソン所長! どんだけ太いパイプ持ってるんだよ!


「つまりジェイソン、俺達には普及用の汚いのを作れってことだな」


「そうだ。一般兵には降りてこないからな。

でもこれだったら小石の両面に駒の名前を書いて木の板でやればいい」


「おうラルフ! お前は天才だなあ」


 フェイのおっちゃん俺をグリグリ。


「それで……ジェイソン。交換条件はなんだ?」


 お、本題に入った。

 どうやらジェイソン所長はただの勉強バカじゃないらしい。


「ルカ様の暗殺未遂があった。犯人を探すのに協力しろ」


 フェイのおっちゃんは一瞬だけ驚いた顔をすると下を向いた。


「ここ数日の騒ぎはそういうことか。騎士じゃ情報収集にも限界があるか。

わかった、ルカ、もう怖い思いはさせないからな。おっちゃんに任せろ!」


 そう言っておっちゃんはルカの頭をなでた。

 もうね、雪山以降はまともな大人ばかり。

 俺、涙が出てきちゃう。

 これで解決だ。うん解決だ。

 とはいえ念には念を入れる。

 俺は外部ユニットをいくつも宮殿にはなちパトロールをしていた。

 でも心は安心しきっていた。

 だって有能な大人が真剣に調べてるもの。

 だけどそんなある日……。


 フェイのおっちゃんが死んだんだ。

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