第11話 不穏な日々
そのまま家に帰った俺は、父ちゃんに様子を報告する。
「父上。殿下はたいへん退屈だと仰られていました。
あの部屋には娯楽がなにもありません!」
父ちゃんの顔が固まる。
「え……気がつかなかった。
そうか。ははは……まさかそんなことになっていたとは……。
本当に我らはだめだな……」
あれ……?
落ち込んじゃった。
しょぼーんとしている。
その。なんだ。おやつ取り上げられたラブラドールレトリバーみたいな顔やめろ。
「ラルフには話しておこう。
ルカ様のお母上であるエリザベート様はルカ様を産むときに身罷られた。
それ以来、悪戦苦闘の毎日でな……」
「乳母の人とかいないんですか?」
「その……いるにはいるのだが……こういうのには興味がないようでな」
無能めが!
「気づいたときには殿下は閉じこもりがちに育ってしまってな。
その、なんだ……それでお前に白羽の矢が立ったということだ」
「わかりました。それじゃあこういうの作ってください」
俺は家にあった板に蝋石で書き込んでいく。
思いつく限りのボードゲーム。それに外遊び用のボールやグローブだ。
「お、おお! ふむ……なんと!」
どういうおもちゃなのかを教えていくと、父ちゃんはかぶりつくように説明を聞いていた。
「やはり……ラルフは神の子らしい……」
「どういう意味ですか?」
わざとすっとぼける。
信頼してるからこそ嘘をつくこともあるのだ。
「いや、いつか話そう。
これらは大急ぎで職人に作らせよう。
陛下に献上せねばな」
よっし、これで暇な時間を持て余すことはなさそうである。
翌日、おもちゃのプロトタイプが完成。
父ちゃんがとてもいい笑顔で持って来た。
確実に徹夜仕事である。
その笑顔の裏でどれだけの犠牲が払われたのか……ごめんね職人さん……。
すると父ちゃんがドヤ顔をした。
「どうだラルフ。我ら近衛騎士隊の手作りだぞ」
ごめんね父ちゃんの職場のみんな!
リバーシは玉石の両面に印をつけたもの。
オセロは商標なので使わない。商標権に気を使える俺、しゅごい!
【どこへの配慮ですか! ここ異世界ですよ!】
石は宮殿の修復工事の現場からもらってきたらしい。
将棋も石にこちらに翻訳した文字を描いたもの。
リバーシ用の石を多く作ってもらい、バックギャモンとかも作ってもらった。
こちらにも、すごろくは存在するみたいだけど、ルールが全く違う。
知ってる方で遊ぼうと思う。
駒はリバーシ用のを使う。
応用すればかなり遊べるようにしたのだ。えっへん!
手作り感満載。クオリティは低いけど一応遊べるようになっている。
すごろくがあるのでサイコロはこちらに存在した。
今日はこれを持って行こう。
しばらくは遊べるはずだ。
【ご主人様のデータベースは遊びの情報でいっぱい……】
賢者ちゃん、人は遊ばなければ死ぬんですよ。
わかりますね?
俺は今日も出勤。基本毎日だって。
つまり王子様の友達オーディションは通過したっと。
俺達は山ほどのゲームを持って宮殿に行く。
今日は父ちゃんも宮殿で仕事だってさ。
門の受付で別れて子供部屋というか昨日の会議室へ。
着いてゲームをセッティングしているとルカがやってくる。
「おはようラルフ!
って、なにやってるの?」
昨日は下を向いてたルカだけど、今日はなれたのかテンションが高かった。
俺は襟と袖を調べようとした。
【なにやってるんですか?】
虐待チェック。
ネグレクト受けてる子は襟と袖の汚れが放置されやすい。
「な、なに!」
あ、警戒されちゃった。
「うん、ごめん。ゴミついてたから。
それよりルカ、ゲーム作って来たよ!」
ばんざーい!
「なにそれすごーい!」
よくわかんないけどバンザイ!
二人でバンザイすると俺は駒を並べる。
「これはリバーシ。こう並べてっと、交互に石を置いていく。
挟んだ石はひっくり返して自分の紋章と同じになると。
置けなくなったらゲーム終了。石の数で勝負が決まる」
「すごーい!
やってみよう! やってみよう!」
二人でリバーシを始める。
教えながらやるとルカはすぐに上達していく。
娯楽に飢えていたようである。
がぶりつきでゲームをプレイしている。
一時間ほどで集中力が切れたら、次はバックギャモンっと。
まだまだゲームはたくさんあるのだ!
「おおおおおお……こんなにゲームがいっぱい……」
すっかりルカはゲームの虜である。
「外遊び用のおもちゃは革職人に作ってもらうので、ちょっと時間がかかるんだ。期待してね」
「お外のゲーム! すごい!」
まー、キャッチボールとかにあきたらカタツムリ取りに行こう。
そしてポケットに詰め込んで廊下を全力ダッシュ……。
【トラウマなんですね。本当に嫌な思い出なんですね】
こうして時間を潰すのに成功したのだ。
腹時計換算で昼頃、メイドさんが軽食を持ってくる。
二人でもしゃもしゃ食べてると王様と父ちゃんがやってくる。
「ルカ、ラルフ、どうだ? 楽しんでるか?」
やや心配そうな顔で王様が言った。
うん……父ちゃんから報告受けたんですね。
男親で完全に失念してたんですね。よくわかります。
「はい! お父様、とても楽しいです!」
「それはよかった。うむ、私もやってみようか。ラルフ教えてくれ。
スタンリーお前も加われ」
「御意」
こうして王様と父ちゃんに説明しながらリバーシやらバックギャモンをプレイした。
結果は増産が決定。
まだ作ってないものも国家プロジェクトとして支援が決定した。
贈答用のきれいなの作るんだって!
著作権の制度はないけど、俺には多額の報奨が入ることになった。
小姓の給料も入るので懐は暖かい……両親に全額管理されてるけどな。
さらに数時間、王様たちとゲームに興じる。
するとメイドさんがお茶やお菓子を持ってきた。
一応小姓なので賢者ちゃんで毒をチェック。
【ルカくんのお茶から毒の反応。植物毒です】
まっさかー、毒なんてあるわけないよね。
あっはっはー!
【だから毒ですって! ルカくん毒盛られてます!】
横目でルカを見ると今まさにカップを手に取ろうとして……。
どわあああああああああッ!
俺は慌ててルカのカップを手で抑える。
「だめだルカ! 飲むな!」
俺の様子に王様も父ちゃんも言葉を失った。
「陛下……毒です……」
するとカップに手を当てた俺の手を父ちゃんが握る。
「触るなラルフ! 世の中には触るだけでも危険な毒がある! 今すぐ治療をせねば!」
俺は父ちゃんを見た。顔が真っ青になっている。
次に陛下を。こちらも驚いたまま固まっている。
うーん、言わねばなるまい。
「父上……大丈夫です。私には毒は効きません」
「ラルフ……お前はなにを知っている?」
情報は小出しにしようっと。
父ちゃんと血が繋がってないことを知ってるのは隠しておこうっと。
【いいんですか?】
いいの。
父ちゃんがいつか話してくれると思う。
そのくらい信頼してるっての。
言わなかったら跡継ぎ問題が出る年になったら自分から言うよ。
さあ、告白しようっと。
「地母神様のことなら。私は加護を受けてますから」
父ちゃんは、ふうっとため息をついた。
「話し合わないといけないことができたな。今はそれより毒のことだ」
父ちゃんは俺の頭をなでた。
「陛下……私に調べを一任してもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ……そうだな頼む。だが処分はなるべく最小限でな。
ただ茶を運んだものまで命を奪うのはやめてほしい」
「御意」
俺は茶のついた指をぺろっと舐める。苦い。
【アルカロイド系です】
俺はルカを見る。
「安心しろ。ルカは俺が守る」
泣きそうになってたルカが俺を見た。
なんだか腹が立ってきたぞ。
ガキを狙うなんて……こんのクズ野郎が!
生まれてきたことを後悔させてやる!
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