第55話
中型のバスにゆらゆら揺られ、北峰大学テニスサークル員一同は、しばしの歓談と洒落込んだ。俺たちを乗せてくれる運転手さんは、理事長の友人で物腰が柔らかくとても気の良いおじさんだ。西東さんの事は幼少期から知っているらしく、彼女が1番前の席を陣取ることで懐かしの話に花が咲いていた。
道中も賑やかな声であふれる車内の一端で、静かに愚考を働かせている俺の脳内に占めているのは、実花さん他女性陣の水着姿だ。下着姿とは訳の違う格好であり、輝く太陽に照らされた肌を直に見ることのできる希少な時間は神に授けられた恩恵だといえよう。
「タケシ、気持ち悪いくらいニヤニヤしてるけど何企んでんだ」
通路挟んで右に座るインドが俺の様子がおかしかったのを指摘する。仕方ないだろう、同年代の女性の水着姿をモロに見たことないんだから、楽しみなんだよ。気持ち悪い言うな。
『なんも考えてねぇよ…それより海ついたら何するよ』
本来は夏合宿と聞いていたので、宿に泊まる準備とテニス道具しか持って行く予定だったため遊び道具は現地調達になるだろう。西東理事長の用意した水着は、着いてからのお楽しみということでまだ手元に無いし…
「うーん、そうだな無難にスイカ割りで良いんじゃないか?」
…うーん、それはギリギリ高校生までのような気がしなくもなくもない。大学生がスイカ割りってどうなんだ? ちと微妙じゃないか?
テルもシュンキも表情を曇らせインドの案はきれいに闇に葬られた。じゃあ何がいいんだよ、と突きかえされるけれど特に良い案が浮かぶわけでもない。
いつもは割と賑やかな部類に入っている方だが、海に着いたら何をするか議論が、それぞれ個人の脳内であつく交わされており俺たち4人がそれ以降口を開く事はなかった。その光景は彼女らにとっては些か珍しかったと思う。
「ねぇ、実花せんぱい…急に静かになったと思ったら今度は難しい顔をしてますけど、なにかあったんですかね?」
「うーん、気にしなくて良いんじゃない? それよりあんまり後ろ向いてちゃ気持ち悪くなっちゃうかもだから、ちゃんとコレ飲んで詳しくさっきの続き聞かせてね」
「えぇ!? まだ話さなくちゃだめですか! 私これでも恥ずかしいんですよ…薬ありがとうございます」
りんちゃんに酔い止めを手渡し飲ませておく。高校生の頃にも遠征の時にハメを外して、後ろを向きながらお喋りに夢中になっていたところ気分が悪くなってしまい、その後の練習は休息に時間を使っていたから念のために持ってきて正解だった。しかも今は滅多に聞けない惚気話を聞いている最中だから、ここで倒れられてしまうのはもったいない。
「えぇぇとですね、その、あの…」
モジモジと恥ずかしそうに一言一言言葉を紡ぐ後輩の女の子。可愛くってつい笑みがこぼれてしまう。
「うぅ…笑わないでくださいよ~笑うんなら宿まで話しませんっ!」
なんとここで宿までお預けをくらってしまった。珍しく反抗されてスンと拗ねてしまう。そんな彼女も可愛くってついつい笑みがこぼれてしまう。
「あぁ~!? また笑った~! もう実花せんぱいっ、イジワルですっ!」
側から見ると仲の良い姉妹のようで、ほっこりする場面だが、中にはそれをよく思わない連中が居て、イライラで顔を歪ませている者もいた。
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