第54話

「…じゃ、じゃあアタシ用事あるから帰るね」




連絡先を一方的に渡すと慌てたようにして、パタパタと手を振り背を向ける。そのまま早歩きで何処かへ去ってしまった。




『あいつ、なんだったんだ?』


「さぁね、僕たちも帰ろうか」





休憩室に残された気配に気にも止めず、俺たちも仕事場を後にした。それから俺たちは合宿まで忙しい日々を過ごした。そして、合宿の日がやってきた。






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「人数確認するぞー! 1…!」





マナトさんが大きな声で点呼をとる。上位10組、男女20名による2泊3日の夏合宿が幕を開ける。北峰大学では高等学校体育連盟(通称:高体連)のような大きな大会は無いが、交流戦と称した遊戯があるらしい。それに向けたチームでの実力UPを兼ねて、毎年合宿を行なっているのだそうだ。でも…





「成本くん、成本くんってば!」






小声でペアである安原さんが耳打ちしてくる。なんだなんだと思考を中断すると、前を見ていたテニサー員たちが一斉にこちらを見ていた。





「タケシ、お前で18だぞ」




『え? あ…』





そういえば人数確認で点呼を取っていた最中だったか。でもなぁ、俺たち1年だけが宿に泊まる準備と一緒にテニス道具持ってきてるのに先輩方、一切テニス道具持ってきてないんだよなぁ。このままじゃ気が晴れないので意を決して聞いてみることにする。




『あ、あの…質問があるんですケド…』


「な、なんだ?」


『テニス合宿なのに先輩方はなぜ道具を持っていな…』


「あぁ、それはなーーー」







ーーー毎年毎年行われる夏合宿。つい4,5年前までは多くのテニサー員を引き連れて、海やら山やらで合宿と称した交流会を行なっていたらしい。だが、若い男女たちがこぞって集まる場に何も起きないわけもなく、ある問題が起きてしまい、しばらくは大学の近くの滝でキャンプをしていたのだとか。それが今年に入り、西月・東陽高校の合同理事長の娘さんが北峰大学に編入したもんだから、合宿先を改めて元に戻したのである。





それで更に万全を期して、少人数で参加するために上位10組のみ参加できるようにしたらしい。あとはサークル長の腕の見せ所であり、その後問題報告として西東理事長に報告を頼まれているらしい。





つまり…? ウキウキでワクワクな学生旅行2泊3日の夏合宿の幕開けってことかあぁあ!?






下級生全員が説明を聞き終えたあとに歓喜の声をあげる。インドやシュンキはもちろんのこと、テルや去年合宿に参加していなかったさゆ先輩や実花さんまでもが喜びを評している。





「んで、18,19,20…と。これで全員いるな。今からこのバスで海に向かう。水着を忘れた者はこのトランクに西東理事長から預かった水着が入っている」





「古林先輩、このテニス道具は…?」


「そんなものはいらんっ! 部室に置いてこいっ!」





テニサー長らしからぬ発言である。

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