第52話

いただきます、と手を合わせそれぞれ頼んだものに口をつける。本日は塩チャーシュメンの大盛りをいただく。シュンキは辛味噌ラーメンの大盛り海苔トッピングだそうだ。俺たちのシフトは殆ど被っており、開店から夕方の5時までを占有している。





今年は色々とイベントを控えているためたくさん入れることはできないが、空いた時間で生活費を稼いでいる。大学で出来た気の合う友人だし、バイト仲間だから共に飯の食える時は一緒に食べることが殆どだ。





「それで、昨日の立ちくらみは何ともなかったのか」





残り半分以下となったタイミングで、話を切り出す。よほど心配だったのだろう。とても良い友を持ったな。




『あぁ、少し寝たら気分良くなったよ。心配してくれてありがとな』


「それなら良かったよ、心配し過ぎて眠れなかったくらいだったから」



ハッハッハと笑い合う俺たち。さすがにそれは、嘘だよな? 平然を装い嘘をつく才能は天下一品だ。





スープまで飲み干し、ラーメン屋を後にする。おばちゃん達の言いつけを守り、休憩明けはレジ前のお菓子補充をやりに行こう。





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サービスカウンターの奥にある事務所へ入りシフトカードを切る。残り数時間、品出し補充要員として頑張ろう。まずはレジ前の整理を…






ピークが過ぎ去ったのかまばらに点在する客達。レジ係はおしゃべりに夢中で、目に見えて作業はしていない。楽で良いよな、と思いつつ作業を開始する。





「ねぇねぇ成本さん、ちょっとちょっと」





なんだよ、人が作業してんのにおしゃべり係…レジ係の女性が話しかけてくる。先ほど昼に見かけたレジ係の奴だ。不服そうな眼差しで見ると、彼女はニヤニヤと笑い返す。




「その目やめてよー、アタシだって暇じゃないんだからっ! それよりさー、今夏休みじゃない?」




『そうだね、夏休みだね、で?』




「反応ヒドーッ! あ、お客さんキタ! また後で話すっ!」





嬉々として対応を始めるレジ女。おしゃべりしてるだけでお金が入るなんて良いご身分ですね、なんて寛大な心を持つ俺からは言えないセリフだ。




「成本さん、ごめんなさい…相坂さんが邪魔しちゃって、そ、それよりも私からお願いがあるんですけど良いですか?」





JKバイトとは名ばかり、2年間働いているという大先輩の飯田志帆-いいだしほ(呼び名は飯田さん)-が相坂の代わりに謝罪を行なう。年齢は俺の方が先輩だが、仕事上は飯田さんの方が先輩なので、敬語を使って対応する。




『良いんですよ、飯田さん。相坂のことは気にしないで、それよりそのお願いとは…?』





「実は先ほどから……」







レジ係を行なうと、ピークを過ぎ去るのを待つか他の男性アルバイトが通り過ぎるのを待つしか、やり遂げられない事がある。それは宿命であり避けられない事象があるのだ。





『了解です、少し代わりますね』






言動と体調からその答えにたどり着いた。今までは察知できなかった女性の心を、こうもたやすく察知できるようになるとは自分も成長したもんだ。





足早に去る飯田さんを流し見、2番レジの対応を始めた。背中合わせで相坂が営業スマイルを振りまいている。それがトリガーになったのか、点在していた客が溢れ出しレジ対応に追われることとなった。バイトの中では1番レジ打ちが速いと自負しているだけあって、速やかに対応していく。これぞ、神の御業。





普段使わない5番レジ、6番レジを一時展開するほど客が押し寄せ怒涛の勢いで溢れ返る。冷静かつ大胆に対応を終えると、事情が終わって帰ってきた飯田さんが慌てて駆け寄る。





「ご、ごめんなさい成本さん…私が抜けてからすぐに、お客さんで溢れかえってしまうなんて…!」





『いやいや良いですよ、気にしないでください』






足早に品出しの作業を再開しなければ、残業になってしまうので急いでバックヤードに戻る。あと2時間でどこまで終わるかな?

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