第50話

「おはよう、起きた?」





覗き込むようにして顔を見合わせる形になった。きめ細やかな肌が夕日に照らされて、少しだけ染まっているようにも見える。時間が止まったように何秒か見つめ合う。だが、さすがに何度も見つめ合ってChu♪ってのは味気ないものだと思うし、自分からはしないでおこう。





『はふァ…寝過ぎて頭が痛いかもです』






口元に笑みを浮かべて、我が子を宥める母親のように髪を撫でてくれる。それがとても心地良くて気持ちが良い。永遠とこんな時間が過ごせれば良いのに。






「ふふ、気持ち良さそうだね。武くんったら頭撫でてもらうの好きだもんね~」






だがいつまでも楽しんではいられない。明日からはバイトも始まってしまうし、合宿のための練習もやらなきゃいけないしで、このままって訳にもいかない。






『ずっとこのままでいたいですけど、そろそろ帰らなきゃですね。具合は良くなったんでもう歩けますよ』






名残惜しくも膝枕をやめてもらい、立ち上がる。久々に立ち上がったせいか、少しふらついてしまう。







「じゃ、そろそろ帰ろっか」








テニスコートを後にして並んで歩きながら家を目指す。夏休みの予定やイベントなどを話しながら、ひとしきり盛り上がったあと、話題はアノ話へともつれ込む。






「ねぇねぇ武くん」


『なんですか』


「どうして武くんは私の弱いところ全部分かっちゃったの」


『んな、なんの話ですか』


「さっきのすごかったんだからね! 足腰立たないし気持ち良すぎて何も考えられなかったし…ホント恥ずかしかったんだから……」


『テニスと同じで女性を悦ばせる才能があったんじゃないですかね…』


「あんなことされちゃったらクセになっちゃうよぉ…そのくらいすっっごく良かったんだよ」





そりゃあ、あんなにカクカクと腰をヒクつかせて、白目になって気絶してたくらいだから、想像の数十倍スゴかったんだろうなと検討くらいはつく。そういえば、目の前で気絶されたことが無かったから興味本位で顔撮ってたんだっけ。見せてみようかな。




『実花さん…その時に撮った写真があるんですけど、見ますか?』


「え…そんなの撮ってたの!? 恥ずかしいから消してよー」




とは言いつつ、端末を寄越せと言わんばかりにひったくり、その様をみて青褪める。見たことのない鬼の形相でにじり寄り今すぐ消して、と。なるほど、本気で怒ったら実花さんはこんな感じになるのか。やっぱり普段怒らない人を怒らせると、ロクな事にならないね。

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