第49話
『ありがとう、もう大丈夫みたいだ…』
西東さんの差し伸べられた手を断り、テルに支えられて立ち上がる。心を落ち着けるように渡された水を一気に飲むと、身体の中を隅々まで巡っていき全てがあらわれるようだ。
「タケシ、これ部室にあった冷却シートだ。木陰に連れて行くからそこでちょっと休もう」
テルとシュンキに連れられ、日射がある程度軽減できる木陰までやってきた。冷却シートを患部に貼り付け、身体を休められる体勢で天を仰ぐ。フカフカとした芝生で寝ても良かったんだが、せっかくだからと実花さんが膝枕をしてくれている。
「よし、これでちょっと休んだら寄り道せずに帰るんだぞ。帰ったら実花さんに看病してもらえよな!」
心配そうに様子を見守る彼らには、せっかく楽しく試合をしていたのに、水を差してしまったみたいで何だか申し訳ない気持ちになる。後日また合宿前に模擬試合の日程を組んで、解散することにした。
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「ねぇ、まだ寝てる?」
寝息を立てて安らかに眠る彼の髪を撫でながら、2月前に行なわれた合宿参加メンバーを決める試合を思い出す。上位10組を選出するまで行われた試合は、過去に類を見ない波乱を生んだものだった。中でも見応えのあったものは、優勝候補の古林先輩と芽衣先輩vs武くんとりんちゃんの試合だったなあ。
経験者の争いにひとり初心者が入っちゃって、最初はあたふたしていたのに、ひたむきにボールを追っていく姿に心を打たれちゃって、気付いたら活動があるときはいつも彼を目で追ってしまっていた。
いつもの面々は無事に上位10組の枠の中に入ることが出来たが、りんちゃんを目の敵にしている女の子たちが気になる。恥ずかしがらずに交際を公表すれば、なんてことはないんだろうけど…みんなに周知されるとなると、恥ずかしい気持ちは何となく分かる。
初めて友達同士で過ごす夏休み…色んな波乱が待ち受けていそうだけど(特にりんちゃん)、その波乱も含めてドキドキが止まらないよ。大好きな人たちと大好きなテニスをして、お昼にはバーベキュー、夜には肝試しなんかしちゃったり? いや、大学生にもなってお化けがどうのとか言ってる場合じゃないか…
あとは武くんのことをお母さんに紹介したいと思っていたりもする。あまり学生時代は喜ばれた恋愛をしていないから、親孝行…とまではいかないけどイイヒト捕まえた報告も兼ねて、実家に戻らないとね。
なんて、考えていると夢から目覚めた彼が、寝ぼけ眼で下を向く私と目を合わせた。
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