第48話

「ッカーっ! ギリギリ負けちまったぜ」






悔しそうに天を仰ぐテルと項垂れる安原さん。ギリギリの戦いではあったが、見事に勝利を収めることができた。9割方実花さんのおかげではあったが、ほんの少しだけ活躍を魅せられたこともあり、俺は満足している。








「お前いつからあんな動き出来るようになったんだよ! 試験前の試合の時、そんな動きしてなかったろ」







『ふふん、まぁ俺にはテニスの才能があったんだろうよ。もっと早く気付いていれば良かったかな』







確かにそうだ。あの時はボールの動きを追うのもやっとなほど翻弄されていたが、今日の試合は翼があるかのように身体が軽く、強攻撃も打ち込めるように成長していた。やはり、アレのおかげなのか…? …いや、深く考えるのはよそう。そんなことが現実であってたまるか。アレは夢、だったんだ。そう割り切ることにしよう。









「うぅ…成本くん、完敗だよ…君にそんな力があったなんて…次は負けない、からね…?」








俺の実力を測りつつ、最終的にはいつもの穏やかな目つきが一変して肉食獣のような目つきになった安原さんを見たら、怒らせるようなことはしないでおこう、と心に誓うことにした。








「はい、お疲れ様」







ジャッジを終えた西東さんが、皆に飲み物を配ってくれている。気が利くな。






『お、ありがとう、いくらだった? 悪いから返すよ』







「いえ、良いのよ。良い試合を見せてもらったんだからこのくらいしないと。私も“電光石火の安原”が見られて嬉しかったのだから」







意外とその二つ名は浸透しているらしい。それもそのはず高校最後の試合が白熱に白熱を重ね、プロの実況の人が付けた二つ名だから、観戦していたものは記憶に残るだろう。






「あの安原さんを跳ね除けて、勝利を掴んだのは凄かったわ。完全に試合を我がモノにしていたものね。獣乃眼ビーストアイに睨まれても凄まずプレイ出来たのは凄かったわ」






ベタ褒めの西東さん。そんなに良かったのだろうか? ヨイショされるのは慣れていないため気恥ずかしい気持ちを抑えられないが、嬉しい限りだ。







ふと目線を下におとすと、汗で濡れたTシャツが身体に纏わりつき、なんとも言い難い光景が広がっていた。とても良い眺めだ。







…ドクン








脳とある部分に血が昇ってくるのが分かる。これは…なんだ? それはやがて意識が飛びそうになるほどに精神を飲み込む。目が焼けるように熱い。しかし痛みはない。急にうずくまったせいか、みんなが心配そうに近付いてきた。






「お、おい大丈夫か」

「日射病かな? すぐに冷却シート持ってくるよ」

「武くん、どうしたのだいじょうぶ?」







発作のようなものは終息し、大丈夫だと手を挙げる。一体なんだったんだろう、と立ち上がると……






「だいじょうぶ? 成本くん」







手を差し伸べられ、思わず西東さんの手をとりそうになる……視える。西東さんの身体の中にユラユラ揺らめく心核が視える。彼女だけじゃない、安原さんにも小粒ではあるが複数個内在している。テルとシュンキは無いな…やはり、女の子にしか存在しないのか。

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