第38話
「なるほどね、それでインドくんなんだね」
どうやらやはり、俺たちにはあだ名を付ける才能があるらしい、と言ってもインドの事しか名付けられてないため、これ以上の名付けは到底及ばなかった。
「あと、膝枕の相手って誰だったの?」
ジトーッと嫉妬じみた視線を向けられて、動けなくなってしまう。インドの話で終わらせられると思ってたのに。膝枕の相手が気になるんだね…仕方ない代役を立てるとしよう。
『え…とですね…優しく頭を撫でられたものだから、実花さんだと思ったんです…でも目覚めたらその人はいなくて、ですね…』
「ふーん…嘘は言ってないみたいだね。男の子で武くんの髪を撫でるなんてちょっとオエーだから、女の子だと思うんだけど…他意は無さそうだね」
あんなことをされた後に詳細を状況説明するなんて、地獄の所業だといえよう。先ほどのジト目は、見透かされそうでとても恐怖した。浮気じゃないけど、これからは気を付けようと肝に命じた。
『それよりお腹空いちゃったなー』
誤魔化すように、上目遣いとやらを使ってみると、心を打たれたようなオンナの顔をする実花さん。数秒、動きが止まってしまい、声を掛けると再び動き出す。
幼少期に聞き慣れた音が、他人の家で聞けるとは思ってもいなかった。キャメル色のミニスカートに紺色のワイシャツを着たむっちりスタイルで、身体のラインが出ており、特にイイのが後ろ姿の純白な太ももが堪らんのです。
野菜を切る音、グツグツ煮込む音、全てが俺のために作ってくれているのかと考えると、とても微笑ましく思う。こういう何気ない時間に、愛を伝えておくってとても良いことだと思う。だから俺は、背後から忍び寄り後ろから抱きしめたんだ。
「…ちょ! ちょっと今包丁使ってるから離れてよー アマエンボサンなのは分かってるからー! 後でねっ!」
『実花さん、好き…大好き…』
ほんの冗談のつもりだったけど、気付いたら言葉が溢れていた。試験期間中に会えなかった寂しさが、無意識下に積もっていたなんて、自分でも驚きだ。
「も、もう…ごはん作ってるのに…ダメだよ…」
会えなかった時間がスパイスとなり、会えた瞬間が喜びに変わる。まるでそれは、織姫と彦星のように待ちに待った瞬間であった。ふたりはそれを心の底で理解し合っていて、再び繋がることを望んでいた。鍋の火を止めて、冷静に向き合う。覚悟を決めて目を閉じる。
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