第34話
『な…にこれ、不ッ味…!』
一気飲みしたおかげで、後味のみが舌を支配し、苦味がジワジワと広がる。やがてそれは、胃を逆流し喉元まで迫ってくる感覚に陥る。やべ、吐きそう…。
「…お、おい…大丈夫か?」
心配そうに声をかけるインドだが、内心自分がノンアルコールとはいえ、ビールを未成年に勧めてしまった罪悪感があるのだろう。声が震えている。
『心配すんな、これくらい大丈夫だ。ただ、ちょっと横になりたいから、座敷で寝てくるわっ』
よっこらせと重い腰をあげ、一歩踏み出す。ところが、よろけてしまいそのまま倒れ込む。思いの外、酒毒が全身を巡り、感覚が麻痺していたのだろう。ほっぺたに暖かい感触が当たり、脳がとろけるような感覚に陥る。これが酒の酔いによる付随効果なのかな…という境地に至り、髪を撫でられながら、ゆっくりと目を閉じる。意識の外でインドと誰だかが、会話をしていて彼は気分が落ち着いたように笑っていた。これなら大丈夫…だな。
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ツクレで1年生のグループに会合の案内を送信した後、ものの数分で前回とほぼ同じくらいの人数が参加を表明した。そのことをまなとさんに報告した後、私用で会う約束を取り付けた。“自由の都”での一件について、聞き出すために。
「お、どうしたタケシ? 会って話がしたいだなんて珍しいな」
『すみません、お忙しい中時間を割いてしまって…実は“自由の都”での話の続きがしたくて…』
相手の顔に冷や汗が流れる。時が止まり、沈黙が続く。…あれ、なんか言っちゃいけなかった感が否めない。相手の出方を伺うよりも先に、もう一度こちらから攻めよう。
『あ、あの…自由の都……』
「…あ、あぁ?! それはだな、マップ右上と左下に宝箱があるんだが、右上の井戸の中に入ると、ボス部屋の鍵となる白のオーブが手に入って……左下には幼なじみのヴィンチが大切そうに黒のオーブを抱えているから、隙を見て強奪するんだ」
…いきなり、早口でなんの話? それは、どこかのファンタジーゲームの攻略のようだったが、分かった事は何故かはぐらかされてしまったということだ。聞きたいことはそれだけか? と言い残し、先輩の絶対的な圧によって、その場を潜り抜けられたのである。
何故、足早に逃げられてしまったのか。理解することができず、心の中はモヤモヤしていた。このモヤを晴らすには記憶を飛ばすほどのショックが必要だーーーと考え、インドの酒酔いを思いついたのだが……。
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「目…覚めた?」
眠りにつく間、彼女が膝枕をしながら髪を撫でていてくれたことを鮮明に思い出し、恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。大衆の目前でそのような行為を見せつけるなど、恥ずかしくてたまったもんじゃないのだ。慌てて飛び起きると、実花さんーーーいや、今日は体調不良で欠席していたなーーーではなく、同じ1年生の西東留美-さいとうるみ(呼び名は西東さん)-と向き合う。
『わ、悪いな…膝借りちゃってたみたいで…』
「…ふふ、良いのよ。気持ち良さそうに寝てたみたいだったし。実家の猫を思い出したわ」
彼女は毅然とした態度で謝礼を受け取る。その大人びた対応は、さすがお嬢様といったところか。彼女の父親は西月高校と東陽高校の2つの高校を、代々運営している理事長様なのである。過去にこれらの高校に通っていた生徒は、1人も問題を起こしておらず、その手腕は全国的に認められているほどの実力者だという。
「この後2次会があるらしいのだけど、貴方は行くの?」
『あぁ、場所はどこだっけ?』
「…案内するわ」
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