第33話

慌ただしくも、果敢ない時は過ぎ去り、4日間に渡る試験は終わりを迎えた。もっとやっとけば良かった、なんて毎回思うことなのに、いつもしがらみから解放された時に考えてしまうのは、毎度お馴染み恒例のことである。これから迎える夏休みの間、机に向かわなくて良いことを考えると、安堵した気持ちになり、夏に向けての計画を、本格的に始めようと気分が高揚するのだ。





「…あー! やっとこさ終わったな!」


「先輩たちのおかげで、ほとんど答え暗記するだけで何とかなったね!」


『ソレが無かったら、俺たち留年するとこだったな』


「いや、それホント笑えねぇよな…でもこれで俺たちの夏がやって来るって事だよな?」


「まとまった休みの間に、同期旅行でも行きたいね」


『そういえば街に遊びに行くことはあっても、俺らで旅行とかはしたこと無かったな』


「運転は任せろ、浪人中に取ったから、遠出するなら言ってくれ」


「あとは各自、彼女との予定があるだろうから、大体の空いてる日をツクレで、教えてねー」





それから、なんのかんの言いながら、同期たちとの会話を弾ませ、迫る夏を心待ちに旅行計画を練る。大学生とはいえ、まだ学生の身分でありアルバイトをしながら生計を立てている奴らがほとんどである。そんな彼らが旅行先に選ぶのは、県外なんてもってのほかで、近場で融通の効く施設と言ったら限られてくる。





ポケットに入れてある携帯端末を取り出し、簡易連絡ツール[ツクレ~これで君も友達ツクレル!]を起動させる。既にポツポツと何人かからメッセージが届いており、優先度の高いモノから目を通していく。




実花さんからは、試験が終わったから会いたいとの連絡が入っていた。彼女と言えど、今は素敵な学友たちと居るので離れるわけにはいかない。悪いけど実花さんには後日会う約束を取り付け了承の返事をもらう。




次に、先程の同期グループでの予定を確認する。試験前は控えていたホームセンターでのバイトを、週3~4で入れるとしても、休みを入れるのは月末まで待てるから、みんなの予定に合わせることができるので、その旨を伝える。各人も大体そんな感じだったので、明日明後日には、決まるだろう。




そして、テニサー代表のまなとさんからの連絡事項。学年代表者に通達される飲み会合のお知らせ。俺は1年の代表者になってしまったため、毎度会合のたびに連絡が入る。今日の会合は試験後の慰労会、という名目で行うらしい。時間は夜6時30分で、会費は3000円と安価だな。参加者は5時までにまなとさんまで…ね。




『それはそうと、まなとさんから連絡来て今日の会合は、夜6時30分かららしいよ!』





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空のグラスに注がれた、喉越しの良さそうな液体をぶつける音があちこちで鳴り響く。ある者は喉を鳴らしお代わりを頼み、ある者は早くも雰囲気に酔い、ダル絡みし出す者までいる。同じ人間と言えど千差万別、色んな人がいて見ていて飽きない。




俺たちは相変わらずジュースだが、先輩たちが美味しそうに飲み干す様を見てしまえば、飲みたくなるのも当然の如し、現にインドがツマミを食うては飲み、食うては飲みを繰り返すのをマザマザと見せつけられては、試してみたくなるのも分かるだろう?





「…なんだ? まだお前はハタチじゃないだろ、ハタチと19の差は天と地との差があるんだぞ。やめとけやめとけ、お前にゃまだ早い早い」





視線に気付いたインドが、見せつけるようにゴクゴクと喉を鳴らす。挑発に乗ってはいけないと、分かっていながらもアレを飲みたい気持ちは強まるばかり。





「お? そんなに飲みたいなら、頼んでみたらどうだ? 未成年ならコッチのノンアルコールビールがあるだろう。アルコールは入ってないけど、風味は普通の麦酒となんら変わりないぞ」





…ノンアルコール? そんなのがあるのか! これで大人の気分を一足早く味わうことが出来るとは…これを頼むしかあるまい。酒には嫌なことを忘れさせてくれる魔法が掛けられているらしいから、あの事も忘れさせてくれると良いんだけどね。





店員さんから、空のグラスと酒瓶が届けられた。栓抜きで開栓すると、炭酸が勢い良く飛び出し、徐々に大人しくなる。それを見計らってグラスに注ぐ。






「最初に言っておくが、オレはこれを飲むのに結構な歳月を費やした。過度な期待はするなよ? 決してな…」





インドがそれを一瞥し、遠くを見つめるように過去を振り返る。そんなことはどうでも良いと、忠告を聞かずにそれを舌で堪能することなく、イッキに飲み干す。周りの先輩方のように、ゴクゴクと喉を鳴らし喉越しとやらを確認する。なるほどコレが大人の飲み物と言われる所以か……!

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