第32話
パンパンに知識を詰め込んで、学食へと向かう途中、さくま先輩とさゆ先輩に遭遇。肩を並べて歩く様子を見ると、仲の良さが伺い知れる。
「よっ、タケシとシュンキじゃねぇか。ちと待ってろよ」
ガサゴソとリュックの中を漁り、目的のものが排出された。物理に、経済学に、古文に……他7教科ほどの過去レジュメと、さほど良くはないテストの点数とその答えが開示された。
「美扇先輩っ! こ、これは…!」
「ふ、驚くことなかれ。これはお前たちが求めているテストの答えと範囲だ。これが欲しければ、それ相応のものを渡してもらおう……」
言い終わる前に金銭交渉をしようとした、さくま先輩の頭にイカヅチが落ちる。さゆ先輩、容赦なく叩き込んだな。とても痛そうだ。
「痛ッてぇな、小百合…じょ、冗談に決まってるだろう? 可愛い後輩たちに牙を剥くなんて、そんなのあり得んだろうが?!」
「ほんと、冗談は顔だけにして欲しいわ。それと、私も持ってきたから良かったら、みんなに配ってあげて!」
さくま先輩とは真逆で、ほぼ全てのレジュメを持っており、テストの点数は高得点を叩き出している。答えが分かれば、それを暗記して挑めば良いわけだが、何だかそのまま覚えて、テストに挑むというのはちょっと違う気がする。シュンキは涙を流してさゆ先輩を女神と称しているが、俺はあくまで参考ということにしておこう。
『先輩方、ありがとうございます。この御恩は決して忘れません…』
「良いのよ、それくらい。私たちも過去の先輩方に尽力してもらったから、この伝統が継がれてるんだから! 成本くんも君津くんも、後輩が入ってきたら優しくしてあげてねっ!」
網羅されたテスト範囲とそのテストをもらい受け、カバンにしまう。ふたりはお昼まだだったので、ご一緒させてもらって談笑しながら、昼を過ごした。
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「いやあ、島松先輩イイヒトだね、美扇先輩をことごとく叩く人っていうイメージしか無かったから、優しくしてもらったことで、そのイメージ変わったよ」
多分その印象を持っている人が、俺たち1年生の中にも結構いると思うんだよな。可憐だけど暴力を振るう女先輩という噂を聞いた事が多々あるから、さゆ先輩のツンが無くなれば、テニサーの幽霊部員と化した他の1年生も、戻ってくるのでは、と思うけど、さくま先輩への照れ隠しであることを知れば、理解を示してくれると思うんだよな。
『それは良かったよ。これでテニサーの仲が深まればもっと楽しくなるからな』
「そうだね、普段組まない人とも組んでみたりして、混合ダブルスしてみたいね!」
それから昼からの授業を卒なくこなし、ヘトヘトで疲れている中、シュンキと協力して他の知り合いのテニサー1年生全員に、範囲のpdfファイルをメール送信してやったのである。
後日、感謝のメールが多数寄せられて、テニサーの1年生2年生の絆が深まったことは言うまでもないだろう。
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