第28話
ーーー薄れゆく意識の中で、彼女の体温を感じながら、夢をみようと眠りにつく。
眠りにおちて数分程度経ってから、意識が混在し、自分が夢の中で自由自在に動けることを、自覚する。これは明晰夢というやつか。確か、心理学で習った気がする。自由自在に夢を操れるんだっけかな。
あたりを見回すと見慣れぬ街で、地元とは違い結構な都会で、喧騒と言っていいほどに、活気に満ち溢れている。自分の知っている人がいるか探すと、何故かまなとさんが、雨でボロボロに成り果てたベンチに座っていた。
まなとさんに挨拶しようと、近付いて声を掛けるも向こうは全く、気付くどころか、顔を俯かせ盛大にため息をついていた。普段意気揚々としている姿からは、想像もできない姿だったので、何か悩んでいる様子であるのは確かだ。先輩が楽になるのであれば、俺に少し話すだけで楽になってほしいモノだ。
『まなとさん、どうしたんですか? いつもより、元気ないみたいですね』
ギョッと飛び上がり、目の前の人物を視認したのか、表情を変え、いつもの自分に戻る。
「お、タケシか。ビックリさせんなよな。俺以外の知り合いがこんなところにいるなんて、驚きだよ」
『ココって見覚えがないんですけど、都内になるんですかね?』
「いや、ココはちょっと特殊な空間でな、お前も薄々気付いているだろうが、今は眠っているだろう? 夢の中で俺たちは会していて、この場所は“自由の都”と言う。最も俺がそう呼んでいるだけで、正式名は分からないけどな」
自由の都…文字通り、明晰夢の中に居るから何でも出来るんだろうな、という意味で自分の中に落とし込む。
『自由の都、ですか。コレって明晰夢…の中なんですよね』
「お、よく勉強してるな! そう俺たちは今、明晰夢の中にいる。ココでは何者にも邪魔されず、自由にハネを伸ばすことができる。でも、お前がココに来たってことは…」
何かを思案するまなとさん。俺がこの場所に来た理由で思い当たる節があるのだろうか…?
「今から言うことをよく聞いてほしい…確かお前の彼女は新井…だったよな?」
そうです、とうなずく素振りを見せると、途端に表情を曇らせる。親指の爪を噛みながら、貧乏ゆすりを始め心の内を吐露した。
「新井とはもう金輪際会わないでくれ。まさかアイツの過去にとんでもねぇモンが眠っているとは知らずに…」
『な、なんですか! いきなり会わないでくれって…! どういう事か説明してくださいよっ!』
思わず感情が昂る。彼女の親でもなんでもないまなとさんに、そんなことを言われるのは心外だった。ましてやサークルの代表なのに、大して顔を出さない事に憤慨している事を思い出すが、他人に対してあっけらかんとしている先輩が、ここまで強く介入してきたことがあっただろうか。
「いきなり無粋なことを言って悪いな。でもコレは俺のような愚かな人間を増やさないために必要なことなんだ。1度しか言えない。新井と別れてくれ」
…別れる? 何を言ってるんだ。様子を見て追及しようと思ったが、興が醒めた。大好きな者同士を離れ離れにさせるなんて何を考えているんだ。俺にはまなとさんの考えていることが分からない。第一、愚かな人間を増やさないために別れてくれってどういうことだよ!?
『俺は実花さんとは別れません。なんでまなとさんにそんなこと言われなきゃいけないのか分かりません』
そうか…と重いため息を吐き、こう続けた。まとめると、実花さんの中に心核(コア)と呼ばれるものが存在しており、愛のある性行為によって破壊すると、とんでもないことが起こるらしい。とんでもないこととは…? と詳細を尋ねたが、頭を抑え答えてくれなかったので、情報は不明瞭だ。
「俺から言えることは、こんなところだ。忠告はしたからな。もうじき俺も、消える運命にある。くれぐれも愚かな選択だけはするなよ…」
まなとさんはベンチから立ち上がり、喧騒まみえる都会へ吸い込まれていった。終始おとぎ話のような話のようで現実味を帯びていなかった事もあり、記憶にはほとんど残らなかった。
ただ、それよりもーーー
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