第21話
ついつい目を伏せがちなネオン街の看板も、ずっとは見続けていられない卑猥な夜のお店も、彼女と一緒に歩いているだけで、景色がこんなにも違うのは、一昔前の自分には想像のつかないものだと思う。
西洋風の城門を彷彿とさせる入り口然り、上を見上げると異国のお姫様が住んでいても、違和感のないお城が、ズブな俺を見下しているようで、心に緊張が走る。
今では手慣れた手繋ぎにも、それが現れ、手汗でベットベトなはずなのに、実花さんがそれを離さない。ぬっとりしてるから汚いですよ、と注意しても、武くんは汚くなんかないよー、と宥められる始末。
やれやれ、と思いつつ満更でもないので門を潜る。実花さんは分からないけど、俺は人生初ラブホなので、使い方が分からないし、システムがどうなっているか全く分からない。かと言って「えー武くんってラブホ初心者なのー? ぷぷぷー」と笑われないためにも、多少の見栄張りは大事だと思うんだ。
フロントに一歩踏み出すと、同い年くらいの男性がおり、「お客様、宿泊と休憩どちらになさいますか?」 と聞いてくる。内心ドキドキしつつも、宿泊と答えルームキーをもらう。実に自然な対応が出来て良かったよ。
イタシベヤは6階らしいので、エレベーターに乗り込む。実花さんの酔いが心配なのもあり、腰に手を回しておく。もちろん、いやらしい意味ではない。その結果そう捉えられてしまったのか、実花さんも俺の腰に手を回し、向かい合う形になってしまった。
幸いにも、エレベーター内なので、邪魔する者は誰もいない。ここで致してしまうと、部屋まで我慢できるか分からない。飢えに飢えた男の子だもの。それは両者共にだったのか、実花さんの方から唇を近付けてきた。俺はそれに応えるしかないと思った。
静まり返るエレベーター内で、リップ音がやたらとこだまする。次第にそれは激しさを増し、頬や鼻、首に胸元まで数多くのポイントにマークしていく。6階を示す矢印が音と共に点灯するが、そんなのお構いなしだ。
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肩で息をするように、呼吸を整え、乱れた服を直す実花さん。夢中でお互いの好意を重ね合う様を思い出し、余韻に浸る。営みはまだ始まったばかりだ。
「ふふ、武くんってば、明日私が大学に顔出さなきゃイケないってこと忘れちゃったの?」
気付いた時にはもう遅く、艶やかな首筋には、虫刺されのような跡ーータケシマークが受印されていた。これでもかっ! というほどの跡が点々と刻まれており、1日2日じゃ消えないようなアザになりつつある。
あ、忘れてた。そういえば、実花さんレポートの提出と自主学習で図書室に籠る、みたいな話してたような気がする。ちょっと怒ってるような雰囲気を感じ取ったので、迷わず俺は悪戯に唇を奪うことに成功した。
「ンー! ンンンー! ンッンンッンー!!」
離すまい、と舌を絡み付けると、実花舌は槍を突くように抜け出そうともがく。互いの唾液が絡まりあい、口の中がいっぱいいっぱいになるも、少しずつ飲み込んでいく。Mix味は無味だが、クセはないので、ゴクゴク飲めてしまう。実花さんも負けじに喉を鳴らし、飲み込んでいく。その間も、お互いの口内では唾液は産生されていくので、無限に飲めてしまう。
「ぷはぁ…ちょっと…武くん、今キスに夢中で気付かなかったかもしれないけど、今扉開いて私たちと同じくらいの年のカップル、ドン引きで階段の方走って行ったからね?」
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