第19話
「え、あ、はい、打点を合わせて振り下ろすんです、よね?」
心なしか、いつもよりは、緊張しているように思う。でも上手くなるためには、このレクチャーを続ける必要があると思い、話を続ける。
『それで、距離感が掴みづらいから、利き手じゃない方の手をーーー』
私は気付いてしまった。話に熱中しているため考えてなかったが、レクチャー相手は男の子だった。そんな相手に密着されて集中できるわけがない。そりゃそうだよね、背中や脇腹に女の子の胸が当たってたら集中できないよね、ごめんね。日本の女性の平均より上のサイズを誇るモノを女の子慣れしていない男性に当て続けてたら、コッチに集中してない方がおかしいもんね。ほんとごめん。
とっさに離れて、レクチャーを再開させる。武くんの少し残念そうな顔が可愛く思えたけど、 無事にレクチャーを完遂させる。
『とまぁ、こんなもんだけど、実戦を交えながら習得していこうか』
「はい、ありがとうございます新井先輩っ! 色々と…」
「さぁ、成本くん、私に実花せんぱいから教わった、スマッシュを打ってきて!」
「任せてよ、安原さん! これでも運動大好きな男の子、なんだからっ!」
フワッとした球が自陣コートにバウンドする。天高く舞う球が彼のスイング内に侵入する。そこで勢いよく振り下ろす。ところが、勢いを失いネットに引っかかってしまう。
「あと何回かやれば、コツが掴めそうです!」 と自信ありげな彼を見ると、応援したくなる気持ちが増す。手塩にかけて育てた後輩の頑張る姿、が昔のりんちゃんを彷彿とさせ、成長を見守る。
「もう一回、いくよー!」 とりんちゃんが球を放つ。今度は少し速めの球種が飛び出してきた。あとはタイミングとラケットの位置が物を言う。それを見極めてスマッシュを打つべし。打つべし。
パコン! とボールが当たり、自陣コートの向こう側へ入ったが、まだ威力が足りないため、りんちゃんに届くまでには至らない。
「くっそ、基本を忘れて力が出しにくくなっちまった…!」
彼の言う通り、基本ーーー腕が伸び切ってしまい、威力が激減してしまう事態ーーーに陥り、フォームは良かったがこの有り様になってしまったのである。
「まだまだいくよー!」 と球が放られる。4月下旬に差し掛かるこの時期は、まだ冬を感じさせる風が吹いており、長居すると風邪を引いてしまう恐れがある。それでも練習は続き、100球目が過ぎようとしていた。
練習を引き上げる人たちがまばらに出始め、コート内にいる人は、いつもの4人と彼らの友達がベンチで談笑しているだけになった。
「タケシー! 今日はもう暗いから帰ろうぜーっ!」
「また明日にでも、練習付き合うから、引こうっ!」
田嶋くんや君津くんが、心配して帰るように促す。しかし、当の本人はまだやる気だ。一体彼のどこからそんな気力が湧いているのか、不思議で不思議で仕方なかった。しかし、目が離せないほどになっているのは私だけではない。何故か失敗し続けているのにもかかわらず、いつもの面々は次の1球で習得してしまうのではないか、という気がしていた。
「これで、最後…だよー!」 と息を切らしたりんちゃんが、スマッシュを放つ。スマッシュを打つにはスマッシュを打ってあげようと、途中から方法を変えてりんちゃんは、スマッシュを打ち続けていた。
途中加速して、彼のコート内に球が侵入し、スイング内にまで接近していた。そんな彼は、漫画の必殺技みたいな技の詠唱を始めた。
「天に雷鳴、地に召喚、迫る球を灼き払え!
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