第16話

「じゃあ、みんなグラスは手に持ったかー? 今年は全1年生550人中46名もの新入生が入ってくれたぞ! 先輩たちは優しい人が多いから、ドシドシ相談してくれよなぁー! じゃあ今日という素晴らしき日にKP~!」





各々グラスを持ち、古林先輩が音頭を取る。さぁ、今年も始まりました、新入生歓迎会のお時間です。






新入生は原則成人では無いので、飲み物はジュースだけど、それに合わせてお酒を飲む人は居らず、今のところみんなシラフだ。






「いぇーい、けーぴぃー!」

「うぃぃぃーひぃやぁぁぁー!」





頭の悪い大学生ノリが、辺りを闊歩していて少々頭が痛い。さすがは中堅の文系大学と言ったところか。





「実花せんぱいっ! かんぱい、です!」





カチンとグラスを下に、私のグラスと乾杯をする。そんなことやんなくて良いのに…と内心、思ってしまうが、後輩ゆえの作法を身につけてきたのであろう。そういうところは案外しっかりしているのだ。






「あ、新井先輩、これからどうぞよろしくお願いします」


「新井先輩、俺とも仲良くしてください」




先ほどまで談笑していたりんちゃんの友達、山坂後輩と成本後輩もグラスをぶつける。そして流れでりんちゃんともグラスをぶつける。





「や、山坂くんは…高校の時、部活はな、何をしてたの? 体格がしっかりしてるから野球かな?」





りんちゃんが、珍しく男の子に興味を持ったのか、合同コンパのような、話の振り方をし始めた。それに対しての回答は、「お、安原。俺に興味を持ってくれたのか! 確かに野球やってたけどこの腕、触ってみる?」






現時点で山坂後輩は、女の子のことがよく分かっているタイプの人間だと判明した。私のりんちゃんを誑かすのだけはやめてね、と向かいの席に鋭い視線を送ると、屈することなく、微笑み返してきた。





「い、いや、さ、触りはしないけど…それより野球やってたんだね~ なんでテニサーに来たの?」






先程は成本くんの所属理由しか聞いておらず、 山坂後輩の所属理由は、同調することで受け流されていたが、聞くまでもなかったみたい。





「いや、タケシとは長い時間一緒にいるけど、退屈したことはなかったんだ。だから、タケシと同じことをすれば、また楽しい時間が過ごせるかなと思ってさ。」






す、素敵…! と目を、輝かせているりんちゃん。どうやら2人とも、ちゃんとした理由があって所属したんだね。私もエライエライと内心感心してしまう。







「まぁ、それはあくまで表向きの理由で、本当はせっかく大学生になったんだし、可愛い子と青春を過ごしたいって思ったからなんですけどねっ!」







……感心してたのに、結局それかいっ! とツッコんだのは私だけじゃないはず。いつの間にか私たち4人で話していた内容が、周りの人たちに伝播して、「山坂、良く言った! 可愛い彼女出来るといいな!」 とか「良いぞ! 若人よ! その調子で俺たちのテニサーを盛り上げてくれ!」などと男先輩たちを魅了していた。事実、後輩の女の子たちも同調して、「テルくん私とかどうかな?」なんて、始まったくらいだし。







チラッとりんちゃんを見ると、気持ちの変化が著しく、ムムッと顔を曇らせていた。高校の時に興味がなかった恋愛ごとに興味が湧いたんだね。ガンバレリンチャン!

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