第14話
次の恋は高校1年生の時だった。前の恋は、いくら知らなかったとは言え、浮気に当たる行為だと、世間一般的に考えられていた。普通の恋を知らない私は、それを経験したかった。同じクラスの女の子たちは、好きな男の子の話で盛り上がっていた。
そんな私にも彼氏ができた。相手は1年先輩の野球部のキャプテンをしている人だった。その当時、保健委員だった私に、部活中に足を捻って、保険の先生がいない中手当てをしてもらったところを惚れてしまったのだという。同じ高校生で大人っぽい先輩と付き合えるなんて、夢みたいだと思っていた。友達も皆一様に羨ましい、と口を揃えていた。でも、現実は違った。
他の男の子と話すと、メールで「今、何してるの?」友達と至福の休日を過ごしている時に電話で「今から、会える?」それだけならまだしも、自分の時間を楽しんでいる時に、家のチャイムが鳴り、出ると彼が居て、「今から遊びに行こうよ!」と始まる。内向的な私とは対極な存在で、積極的な彼とお出かけするのは好きだったので、多少の我慢は慣れっこだった。
そして付き合いが2ヶ月経ったある日、彼の家にお呼ばれした。おめかししてクッキーを焼いてから、会いに行った。いつも落ち着いていた彼が、妙にソワソワしていたのが気になっていたが、中に通してくれた。自室に案内され、殺風景な部屋だと思っていたが、棚に置いてあったトロフィーや、昔のアルバムなんかを見せてくれて、昔の彼を知るには良い機会だった。話も弾み、彼の持ってきてくれたお茶を飲むと、久しぶりにクッキーを焼いて疲れていたのか、ウトウトしてやがて眠ってしまった。
目覚めると、夕陽が沈んでいて、部屋の中を紅が覆っていた。とても幻想的な空間になっていた。彼は額に汗を滲ませて、私の顔を覗き込んでいた。驚いた私は、仰け反りそうになるも、彼が私の腰を支えてくれた。寝起きの顔を見られたくないので、フッと顔を逸らしたが、「寝起きの顔も可愛いね」 と指で頬を突かれてしまい、顔がみるみる上気してしまう。そして見つめ合ってちゃんとしたキスをする。この素敵な空間の中に閉じこもりたいほど、胸がドキドキしていた。
スンと鼻を鳴らすと、部屋の中にはフローラルな香りが充満しており、彼の匂いが、私を包んでくれるようでとても安心した。「我慢できない」とベッドに押し倒され、唇を塞がれてしまう。好きな人との幸せな、ひとときが過ごせることに心が満たされていく。もう一度、香るように鼻を鳴らすと、そこで奇妙なニオイの一端を感じ取ってしまった。元凶は横にあるゴミ箱からだ。このニオイは昔、嗅いだことのある不快なニオイ。あの事を思い出させる不快なニオイ。
胸に気を取られている間に、器用にゴミ箱の中を足で物色すると、そこには使用済みの避妊具が、中に液体を満たしたまま捨てられていた。外側には血と思しきものがべったりくっ付いていた。
深いキスで頭が蕩けているにも関わらず、頭を働かせて真実へと辿り着く。と同時にこの男は危険だ、と脳が警鐘を全力で鳴らす。この真面目で誠実で気の良い男性だと思っていた者…
実は
お茶の中に睡眠薬を入れ、強制睡眠中に彼女を襲った強姦魔だという受け入れ難い現実が彼女を襲う。
あぁ、私はまた…
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その過去を忘れるために始めたテニスも、今じゃ頼れる後輩とともにダブルスで優勝を積み重ねるほどにまで至った。その腕と美貌から他校の男の子に言い寄られることが多かったが、過去の経験から全て遮断してきた。もう恋なんてしない、と自分に言い聞かせながら。でも、恋というものに憧れてしまうのが、乙女というもので、本当に困った生き物だと自分でも思う。
そして私はまた恋を知り、後悔を知った。
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