第12話
「毎回こんなことしてるけど、サユったら美扇くんのこと、良く思ってるもんね?」
「ちょっ! 成本くんの前で恥ずかしいこと言わないで!」
実花さんの言葉を、何も考えずにそのままの意味で捉えて相槌を返す。
『へぇ~ さゆ先輩ってさくま先輩のこと好ーーー』
それ以上は言わせないわっ! と強固たる意思がさゆ先輩の心を突き動かす。大胆にも綺麗な手で口を塞がれてしまう。せっけんの香りが直に鼻腔へ広がり、実花さんとはタイプの違う女性の手が、なんとも言えない高揚感を与えてくれるのだった。そんな状況の中、この手の平を舐めるか舐めないか、なんて考える間もなく拘束された口は無事に解放されたのであった。
「ご、ごめんね成本くん。でも成本くんも悪いのよ…? 変なこと口に出すから…」
「もうっ、サユったら私の彼氏に、許可もなく触って…私でもそれは怒るよー」
「それはごめんだわ実花」
彼氏、と初めて実花さんの口から聞き、心臓が跳ねた。それと同時にこんな年下の俺を彼氏として認めてくれることに喜びを感じずにはいられない。
『ふふ、この事はご本人には内密にしておきますね!』
「べ、別にそういうわけじゃないからね! それよりもアンタ達のこと聞かせなさいよっ!」
「えーどうしよっかなー」
と小悪魔的フェイスで俺を見る。俺は不意にさゆ先輩の気持ちを知ってしまったので、実花さんとの甘々デイズを語っても全然大丈夫だと思う、と了承の意味で頷いた。
「じゃあサユには、武くんのカッコ良かった話でもしちゃおうかなー」
普段から実花さんは、俺が自分のためにしてくれた事に対してのお礼や気持ちを打ち明けてくれている。そんな俺も、実花さんを見習っていて「ありがとう」 や「ごめんなさい」は、包み隠さず伝えているため、付き合ってから喧嘩という喧嘩は一切していないのである。
その中には些細なものや交際に直結したものなど数多く含まれているので、それを他人に開示するという事は、告白する時みたいでなんとも恥ずかしい気持ちになるので心して臨まなければならない。
「あれは、私がまだ武くんの事を可愛い後輩としか意識してなかった時の事なんだけど…」
これから語られるのは、おそらく実花さんが俺に恋愛感情を抱き始めた時の話だろう。だとしたら、おそらくアノ話なので、赤面せずにはいられないはずだ。
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