第9話

部屋に案内されると、いかにも女の子らしい部屋ではあるが、やはり本人の見た目と変わらずベッド周りにはお人形さんやらぬいぐるみさんで溢れていて、ピンクを基調とした異国のお姫様的ルームコーディネートであった。





「私、ちょっとお茶用意してくるね」

「あ、俺も手伝うよ」

「う、うんお願いします……」





安原さんが退室すると同時に手を伸ばし、自然におててを繋ぐ優男テル。耳まで真っ赤に染まった安原さんを見送り、用意された座布団に腰を下ろす。






「武くん、久々のテニスだったから疲れちゃったんじゃない?」






自分も疲れているはずなのに、真っ先に俺のことを心配してくれるなんて、一瞬だけ地上に降り立った天使かと思った。






『そんな事ないですよ、それより実花さんの方がアレだけスーパーショット決めてたから、相当疲れちゃったんじゃないですか?』






「そうだねー、疲れちゃったかなー」





何を思ったか、彼女は俺に肩を預けてほぼ0距離空間を作り出した。女性経験が皆無の俺には男としての器量を試されている気がしてならないのだが…?





「このまま、こうしてたいなー」





そう耳元で囁かれると、首筋がゾワっとして何とも言えない心地よさと、先程の甘いシャンプーの香りが混合し、俺の心を満たしては揺れ動く。だが、ここはあくまでも親友の彼女の部屋だ。激甘えモードに入ってしまった実花さんを止めるには、このまま肩を抱いてしまえばいいのか? それともこのまま彼らが帰ってくるギリギリまで、シアワセタイムを満喫してればいいのか? 経験がない俺には、分からない…







グルグル頭の中を思考が巡り、結論が出る間もなく…扉が不自然に開いた音がした。その隙間から安原さんとテルが上下にコチラを覗いていたことに気付いた。







「ふふ、残念。りんちゃんが見てるの気付いてたから人生の先輩として、密かに彼への甘え方を教授してたのに。バレちゃったー」







『え!? 2人ともいつから覗いてたの???』






「いやぁ、割と最初の方からだな。まどかさんが全部準備してて、それ持ってきただけだし」






「み、実花しぇんぱい! 人の部屋でイチャつかないでくださぁい!!!」





まさか自分の部屋でイチャコキをされるとは思ってなかった彼女は、プルプルと震え恥ずかしさで顔が赤くなっていた。今日1日で安原さん何回赤くなってるんだろう…?






というか実花さん、最初から気付いてて激甘えモードになってたの? さすが、経験豊富なオトナの女性は違うなぁ。と感心してしまった。









それから、各々勉強道具を取り出し、実花さんに試験に出そうなところを見繕ってもらい、適度に談笑しては集中し、また談笑しては集中を繰り返し、運動の後に勉強をすると捗る、効果は立証されたのであった。

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