第3話 いじめ

「おはようございます!リカさん!」


そう、知らない男子生徒に挨拶され、私は学校に着いた事に気付く。

昨日の事が頭から離れず、上の空で歩いていたのが原因だろう。


「おはよう。」


ガングロ女子と話した時とは違う、クラスで見るリカを演じた。


ネクタイの色が私と違う所を見ると、彼は他学年の生徒だろう。

学校ではこんなに人気があるのにと、改めて思う。


ブブッとスカートのポケットが揺れた。

メールだろうか。


「昨日の話だけど、午後の授業楽しみにしといてよ!あ、あとそれと、アイツの体操着隠しといて!」


一瞬誰だかわからなかったが、文面から察するにガングロ女子だろう。

すっかり忘れかけてた。

ようやく私は現実に戻ったように感じた。  



その日の午前の授業は、異様に進むのが早いように感じた。

そして午後の授業、あの貧乏そうな女子はずぶ濡れで席に座っていた。


濡れてるところを見ると、トイレで昼食中に上からバケツで水でもかけられたのだろう。

ガングロ女子に言われた通り、彼女の体操着を隠していたので、着替えられずそのままなのだろう。


当然、この時限を受け持っている先生は動揺している。


「お、おい、どうした?そんなに濡れて...。」


そう先生が彼女に声をかけた途端、他の生徒達が先生に訴える。


「せんせー、受験近いんで授業始めてくださいー」


「もう、鐘なりましたよー」


それを聞いた先生は戸惑いながらも授業を始めた。


狂っている。

私はそう思った。

その後の授業は、とても悲惨なものだった。

この教室から、彼女が消えてしまったみたいだった。

誰も、彼女を見ようとしなかった。


その光景を見て、私は吐き気を感じた。

何が羨ましいだ。

リカの体を取り上げ、嬉しいと思っていた自分が嫌になった。


授業が終わり、放課後になると、私は屋上へ向かった。

屋上でガングロ女子と色々話たのだが、何も頭に入らなかった。

私の頭の中には、午後の授業風景だけが残っていた。



ガングロ女子が帰った後、私は頭を冷やそうと屋上に残った。

ずっと、午後の授業風景が頭から離れない。


あれから何分経った後だろうか、コツコツコツと、階段を登る音が聞こえてきた。

本当は屋上は立ち入り禁止なので、私は見つからないよう隠れた。


屋上に来たのは彼女だった。

制服はまだ乾いていない。


私は少し、嫌な予感がした。

彼女は笑っていたのだ。

その瞳に涙を浮かべながら。


彼女はフェンスを越え、足場というには程遠い縁に立つ。

後一歩前に踏み出してしまえば、落ちてしまうだろう。


そして彼女は、その一歩を踏み出した…。



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「  」 鳩の唐揚げ @hatozangi

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