第2話 リカ

私は次の日、少年から借りた力を試しに使ってみる事にした。

使う相手はすぐに決まった。

私が所属しているクラスの学級委員。

彼女は容姿端麗で文武両道、誰が見ても美人だとうなずくほどで、この高校の学級委員長でもある。だが、それは表向きの話で、この学校で起きているいじめの大半は裏で彼女が関わっている。

そんな彼女が私は嫌いだったのだが、少し羨ましくもあった。

あんなふうに自由に生きれたら。

そう思っていた。



気がつくと私の目線は少し高くなっていた。

私は、彼女の方が背が高かった事に気づき、少し劣等感を覚える。

でも、この体はもう私の物なのだ。

そう考えると少し嬉しく思う。


私が能力を使ったのは学校が終わってすぐの放課後だったのだが、能力を使ったのはいいものの何をすればいいかわからなかった。

悩んだ末に思い出したのは、彼女は放課後、決まって学校の屋上へ向かっていたという事。

それ以外に何も思い浮かばなかった私は、とりあえず屋上へと向かった。


「あ、リカやっと来た!遅かったじゃん何してたの?」


そう、時代遅れのガングロ女子に話しかけられた。

自分でも今更かと思うが、すっかり忘れていた。

そうか、彼女はリカという名前だった。


「あ、ちょっとトイレに行ってまして、ごめんなさい。」


我ながら素晴らしい演技力だと思う。

私は慣れない敬語で、普段の彼女の口調を真似した。


「ど、どうした?リカがあたしに敬語使うなんて、」


私の努力は無駄に終わった。

どうやらリカは本物の猫被リストのようだ。


「い、いやぁ、さっき先生と話してたからさ、敬語が抜けてなくてね!」


「そっかぁ、リカは成績優秀、学級委員長だもんね!で、今回のターゲットだけど...」 


ターゲット。その言葉が耳に引っかかる。

いじめの話だろうか。

その予感は的中し、ガングロ女子はスマホの画面を私に見せた。

そこには、同じクラスの貧乏そうな女子が写っていた。


「こいつって…」


誰かはわかったものの、クラスから浮いていた私は、彼女の名前を覚えていなかった。


「こいつこの前、アタシにガンつけてきてさ、めっちゃむかついたんよ。リカも付き合ってくんない?」


ガングロ女子はそう言って私に肩を組んできた。

ガングロ女子とリカは相当仲がいいのだろう。

今までいじめられる事はあったが、いじめというものをしたことがない私は、少しわくわくしてしまった。


「そう言えば、こいつ、給食の時は何時もトイレに入って行くな。」


「うわ、トイレで弁当かよ、汚ねぇ。よし、じゃあ明日の昼休み試しに行ってみるかな。」


そう言ってガングロは嬉しそうに屋上を出ていった。


屋上で1人になった私は、明日のことを少し楽しみに思いながらその場を去った。




自分のクラスの教室に戻ってリカの鞄を持ち、校門を出ようとしたところで、私はある重大な事に気づいた。


「あ…私、こいつの家知らない…。」


私はこの人生で一番と言っていいほどの絶望感を覚え、体に冷や汗をかいたと同時に焦りを感じた。

この歳でホームレスは流石にどうかと思う。


私は一旦落ち着こうと、校門を出て行先もなくぶらぶらと歩き出した。


数メートル歩いた所で私は、知らない男性に話しかけられた。

いや、リカは知っているのだろうか。


「あ、リカちゃんだよね、待ってたよ!」


その男性は30歳後半に見えた。

スーツを着ているところを見ると、仕事終わりのサラリーマンだろうか。


「あ、そっか、顔を見せるのは初めてだよね。僕だよ、コウヘイ。ほら、昨日連絡した。」


とりあえず、適当に話しておこう。


「あ、コウヘイさん?すいません、昨日の連絡って?」


「え、忘れちゃったのかい?でも、ここで話すのはちょっとな...まぁいいや、とりあえずホテルに行こうか。」


突然その男は信じられない事を言った。

一瞬ビジネスの方を期待したのだが、生憎そんな事はなく私はピンク色に光るホテルの前に立っていた。

急な事で頭がついていけてなかった私は、ようやく状況を理解した。

(あぁ…うん。援助交際ってやつか…。)

慣れた動作でその男は私を連れてホテルの部屋へと入った。


「じゃあ、始めようか。」


逃げようとも思ったのだが、初めての事で恐怖を感じ、体が動かなかった。

気づくと私はベッドに座らされ、着ていた制服を脱がされていた。


知らない男性に体を触られる事に最初は嫌悪感を覚えたのだが、今この体はリカの物だと気付いた途端、それは快感へと変わっていった。

嫌いなリカの体が汚されているのだ。

そう考えると少し嬉しいと思ってしまう。



男は慣れた手つきで私をエスコートし、私は今まで感じたこともない快感に負け、気を失った。

気がつくとあの男性はいなくなっていて、部屋には金だけが置いてあった。


ふと部屋を見回すと部屋の時計は7時を指していた。

窓から日が差している所を見ると夜の7時ではなく、朝の7時のようだった。

登校するにはちょうどいい時間だ。


「はぁ、学校行くか。」


歩くと股が痛い。

リカは初体験ではなかったらしいが、きっと私が気を失った後も男は続けていたのだろう。


私は深くため息をついた。

なんだか超えてはいけない壁を超えてしまったようで、私は今まで感じたこともない喪失感を覚えるのだった。



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