第27話
グランディニア大陸歴 1075年 トゥールーズ 仮設天幕内
指先に感じる
夢と言えば、 昨夜――と言うのも
自分とそう変わらない年頃に見えた少年は、 外見と内面から感じる印象が何処かチグハグで。 頼りがいがあるのか無いのか、 何とも判断に困る人柄であった。
もう一人の方は声色から男性だった気もするが、 最近では
御使いとそのお供にしては、 何だか砕けたやり取りばかりでえらく気安い存在だったのだが。
「また、
夢と現実が、 面倒な感じで絡まりあったすっきりとしない、 それでいて何故か心地の良い思考を打ち切るように
到着に三日、 帰りは文字通りのひとっ飛びでもって、 前世を含めても初めての人質救出作戦を終えたリュートは、 軽めの食事と着替えだけを手早く済ませた後、 家屋を失った――被害を受けた――者が出た為に設けられた天幕の一つへと飛び込むと、 それはそれは深い眠りについた。
当然、 領主で村長で父親のラグナだけでなく、 村内に居合わせたほぼ全ての人間がリュートへと事の
襲撃事件から続いた緊張の連続、 更にはハンナの体調の回復と眼球部分への根本的な治療とを天秤にかけた結果、 トゥールーズ村への帰還をまず第一とした事による、 問答無用の強行軍は神界で様々な経験を重ねたリュートの《精神力》を以てしても、 到底耐えられるようなものでは無かった。
完徹三日目の
食って寝て、 たまに思い出したかのように
ある日の朝、 食事を済ませて当然のように寝袋へと戻ろうとしたリュートを、
そのまま外へと連れ出されたリュートの姿は、 村の南西部、 具体的に示すのであれば村を流れる小川を工房から五分程度
これまた久しぶりにゆっくりと眺める故郷の大地には、 もう根雪の欠片も見当たらない。 寒々しい空の旅が続いたからか気が付くのが遅れたが、 春はもうそこまで処か、 すでに到着していたようであった。
「もう、 寝癖くらい自分で何とかしなよ 」
「兄さんが急かすからじゃんか 」
スウェントと日常のあれこれを話しながらのんびりと歩いたその先には、 恐らくリュートを呼び足した張本人であろうロイの他に、 何やら固い表情で話し込む様子の
「んで、 こんな所まで来て何の話? 」
「まぁ、 取り合えず掛けようか。 アル、 頼む 」
「はいっ 」
開口一番、
揃った顔ぶれから、 疑問と言うかいまいち会合の要領を得ないリュートであったが。 ここでごねても何も始まらないので、 渋々ながらに腰を下ろす。 その際に、 デヴォリの
「まぁ、 お前にも関係ある話だ、 リュート。 何も世間話をしようって訳でもねぇ 」
座ったまま、 首から上だけを後方へと向ける鼠色の
「あれか……あの後、 公都の各ギルドに向けて要請を送ってな。 ちょっと久しぶりに集まってもらった 」
「なるほど、 ここを
「そういう言い方をするのはどうかと思うが……まぁ、 そんなもんだ 」
リュートの抱いた疑問が顔に出ていたのか、 ラグナが殊更感情を込めないように淡々とした口調で説明を加えた。 ラグナからしてみれば、 デヴォリに対しては隔意がないとは言えない一方で、 いつまでも済んだ話を蒸し返すような真似もやりたくは無い。 である以上、 どうしてもこう言った物言いになってしまう事は避けられないようであった。 せめて戦場がトゥールーズで無かったのであれば、 また違った関わり方もあったのかもしれない。
ただ、 当の本人であるリュートにとってはその辺りはあまり気にならないらしい。 魔物の領域の開放と、 人為的な襲撃を一緒くたにされたラグナからしてみればたまったものでは無いが。 リュートの中では、 デヴォリは既に信頼できる人物となっている。 無論その事をデヴォリに伝える暇など無かったので、 今の所は一方的なものでしかないのだが。
「さて、
「はい。 リュート殿、 アルフレッド殿、 この度は―― 」
ラグナからの視線を受けたデヴォリが、 間髪入れずに姿勢を正してから、 二人に対して一連の出来事に対する謝罪を始めた。 先ほどの発言からも分かるように、 リュートにとってみれば茶化す余裕がある程度にはある意味で
「――俺も、 あんたには借りがある。 だからこれで
放っておけばいつまでも謝罪の弁を続けそうに思えたので、 リュートはデヴォリに対して簡潔にこう告げた。
結局の所、 リュートが先ほどまで安眠を超えた惰眠を貪る事が出来た事も……その直接の原因となったデレーブでの救出劇に関しても。 先日、 故郷の生家を燃やしてくれやがった相手を丸腰で目の前にしても、 こうして平然といていられる事も。
リュートにとってみれば、 もう済んだ事なのだ。
レイラの食堂内での戦闘時、 デヴォリがリュートに対して殺さない様に手加減してくれた事も理由の一因ではあるものの。 万が一、 レイラが帰らぬ人となっていたならば……リュートは自分の全てを賭けてでもデヴォリとフォンタナの命を奪いに行っていたであろうし。 誰に何を言われても、 ハンナを助ける為の行動等、 一切起こしていなかったに違いない。
とどのつまり、 かつて神界にて自分を見つけてくれて、 グランディニアと言う異世界で生き抜く術を授けてくれた、 かの暴君が“ケツを持つ”と宣言した時点で……リュートには、 迷いや不安等は微塵も無かった。 いや、 そもそも浮かばなかったのだ。
ただ、 この雛鳥が親に向けるような無条件での信頼感を遥かに超えるこの感情を……親子や兄弟とは言え、 自分以外の誰にも理解出来ないだろうと感じた上で。 その張本人を前にして、 この気持ちを周囲に
「あんたはギリギリの所で間違え無かった……いや、 正解を掴み取ったって所かな 」
こう、 取り繕う事で精一杯であったと言えるだろう。
リュートの
何せ、 齢十歳でしかない少年が仮にも一部であったとは言え、 このグランディニア大陸に七つしか無い国家の内の一つから、 その身柄を狙われたのである。
「僕は……僕が弱かっただけだから 」
「アル…… 」
「……そうか 」
「…… 」
しかし、 この小柄なエルフの少年は
この、
「まぁ、 人生なんてそんなもんだ 」
アルに釣られる形となったのか……自然と足元に生えた雑草をぼんやりと眺めていたリュートであったが。 頭の上から降り注ぐようにして耳へと届いたその言葉に、 思わず
励ましは勿論の事、 まるで体中を包み込むような優しさが込められたそれは、 ロイの口から出たとは思えない程には真面目さで溢れており。 いつの時であっても不変の、
「つう訳でリュート、 アル。 お前達にもいよいよ教える事になった―― 」
しかしながら、 リュートの視線がロイの表情を捉えた時には既に。 彼はいつもの
「――
リュートはここへ来て
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