第8話 ゴーレムの強さ
目の前に土の壁が現れたと思ったら、どんどん壁が広がり自分達とゴーレムを囲い込んだ。
壁を拳で軽く叩いてみるが、ちょっとやそっとじゃ壊れそうにない。本気で叩けば壊せると思うがあまり目立ちたくもない……
「ちっ、逃げ場を失ったか。やるしかないな」
アルスは戦いを覚悟したようだ。
……おかしい。ここまでの戦いで相手がただのゴーレムでないことは分かる。しかし今ゴーレムは、たしかに魔法を使った。しかも手を合わせていたことから高度な詠唱魔法をつかったと思われる。
上級までは魔法の名を呼べば、一定の魔力があれば使える。ほとんどの冒険者は初級までしか使えないのだが。だが、それ以上の魔法、至高、究極、神域となってくると詠唱が必要となるのだ。あのゴーレムは実際半径五十メートル程の土の壁を作ってみせた。かなりの魔力を持っていることもわかる。
が、ゴーレムは普通魔法を使えない。高い攻撃力で殴りつけてくるだけである。 知能も低いはずだか、自分達の逃げ場をなくすように魔法を使った事といい、知能もある程度ある。さっきは弱点のはずの水魔法を防いでいた。見た目はゴーレムだが、中身は全然違うものである。
ゴーレムは少しずつ近づいてくる。動きは遅いようだ。
「俺が突っ込む。二人は下がって魔法で援護してくれ。必ず生きて帰るぞ」
「私は剣の方が得意です。二人で攻めましょう」
「いや、あいつは危険すぎる。もはやC級クエストではない。A、いやS級並みの強さはある。ルミナちゃんにケガさせるわけにはいかないからね。サポートに回ってくれ」
さすがにアルスもゴーレムの異常さに気づいているようだ。
ルミナは納得いかない表情ながら頷いた。
「ルクス、ルミナちゃんを守るんだぞ。男の子なんだからな。守りきったらルミナちゃん好きになってくれるかもよ」
いつものようにニヤニヤして、こっちを見てきた。
こんな状況でなに言っているのだか。まぁまだ余裕があるってことか。死ぬ気ではないらしい。ルミナはまた顔が赤くなっていた。
「わかったよ、お父さん。まかせて」
「よし、いい子だ。ルクス、俺がもし負けたら……………………」
「えっ、なに?」
最後何を言ったのか聞き取れなかった。もう一度聞き直そうとしたが、アルスはゴーレムに向かい走り出していた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
アルスは雄叫びをあげながら、ゴーレムに向かって飛び上がって切りつけた。
強烈な一撃にゴーレムがよろめいて膝をついた。
アルスはチャンスとばかりに強烈な連撃を浴びせていく。ゴーレムは身を固めて守っているようだ。
アルスは攻め疲れたのか、俺達の所に戻り距離をとる。肩で息をしている。
「ぜぇ、ぜぇ、最近サボりすぎたかな。まじめに修行しとけばよかったぜ」
その隙に、魔法で援護する。
「ルミナ、水以外の属性で攻撃してみよう」
「うん、わかった」
「サンダーボール」
「ファイアボール」
雷と炎の中級魔法をゴーレムに向かい同時に放ちゴーレムに直撃した。しかし舞い上がった土煙が晴れると何事もなかったようにゴーレムが立っていた。
いや、よく見ると剣による傷はついている。しかし、ゴーレムには表情がないため効いているのか分からない。
ルミナもそれに気づいたのか、
「やっぱり私も剣で戦います」
と決断して、腰に携えているショートソードを抜く。
「まっ、待て!」
アルスが止めるが、その前にルミナは走りだしていた。アルスも慌てて追いかける。俺もアルスに続く。
「覚悟!父の仇だ!」
小さな体でゴーレムの足を切りつける。たしかに強烈な一撃だがアルスほどではない。続けて切りつけるが次の一撃がゴーレムの体に当たった瞬間キィィンと剣が音を立てて折れてしまった。
「あっ…」
ルミナの顔が青ざめる。
ゴーレムが拳をルミナに振り下ろす。ルミナは諦めたように、呆然と振り下ろされる拳を見ている。
「まずいっ」
慌ててルミナを助けようと魔法を唱えようとした瞬間、アルスがゴーレムとルミナの間に割り込み、まともにゴーレムの攻撃を受けた。
アルスは吹き飛び、近くの岩に叩きつけられた。慌ててルミナと共にアルスのもとに駆けよる。
「お父さん、大丈夫?」
「ごめんなさい。私が無理したせいで」
アルスは意識がない……が生きてはいるようだ。気絶しているだけか。
危なかった……アルスがいなかったらルミナを死なせていたかもしれない。いやアルスも下手したら死んでいた。
何をやっているんだ、俺は。確かに力を隠して平凡に暮らしたい。だが家族や仲間を失ってまで得る人生に何の意味があるのか。
俺は決断した。あのゴーレムは生半可な力じゃ倒せない。少なくともA級以上、いや仲間を守りながらだと相手を圧倒する力が必要だ。
「ルミナ、お願いがあるんだけど」
「え?」
「今から、見ることは内緒にしてほしい。誰に言わないでほしい。お願いします」
アルスは気絶している、もし力を見せても知られるのはルミナだけだ。
訳が分からないと言ったような顔をしているが、
「わかった、約束するわ」
と言ってくれた。
「じゃあ、あいつ倒してくるから、そこでお父さん守っていて」
「え、あっ、はい」
俺は手を合わせ魔法を唱えた。
「深淵より来りし黒き王よ、其れを闇の世界にいざない闇において自由を奪え!」
「エンシェントグラビティー」
グラビティーは重力魔法である。対象の重力を軽くしたり重くしたりすることができる。しかしエンシェントグラビディーは究極魔法だ。誰もが使える魔法ではない。普通のグラビティーと比べ数十倍の威力を発揮する。究極魔法を使いこなせる者など、世界に十人もいないであろう。少なくとも今までの世界はそうだった。
魔法を唱えた瞬間、ゴーレムを黒いモヤのようなものが覆う。そしてゴーレムはその場に押し潰された。なんとか立ち上がろうともがいているが、その体は全く動かない。
「動けないだろう。お前がなぜこんな所に住み着いているのか知らないが、倒させてもらう。俺の大切な人を傷つけたからな」
何度も転生しているが、どんな時でも親、家族、仲間というものはかけがえのないものである。失うと耐えきれないほどの悲しみが襲う。
しかも今は守る力がある。だからこそ守れなかった場合は自分の責任だ。今回は危なかった。だからこそ、本気で相手をする。
「じゃあな」
動けないゴーレムの前に立ち、持っている剣で縦に一閃した。ゴーレムは半分に割れ、黒いモヤが取れた後も動くことはなかった。
剣を鞘にいれようとしたが、あまりの力に耐えきれなかったのかボロボロと崩れ落ちる」
「あーあ、せっかく誕生日にお父さんが買ってくれたのにな」
しょうがないかと思いながら、後ろを振り返ると、涙を流しながら、ルミナが抱きついてきた。
「ありがとう!ほんとにありがとう!お父さんの仇をとってくれて。これでサンドラの国も助かります」
涙が止まらないルミナの頭をポンポンと叩いていると、
「ルクスおつかれさまー」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
アルスが立ち上がって満面の笑みをうかべている。なんで起きているの。さっきまで気絶していたじゃん。
「いつから起きてたの??」
「ルクスがグラビティーの詠唱してるときには起きてたよ」
ルミナが教えてくれた。
やっちまった……
「お父さんケガは??気絶してたじゃん」
「ん? あんな攻撃1発で気絶するわけないだろ? まぁ痛いちゃ痛いけど」
「なんで…」
「なんでって、お前がいつまでたっても本気を出さないからな。さすがに俺が戦闘不能になったら、まじめに戦うかなって」
「それにしてもお前、父さんがいないときは自分のこと僕じゃなくて、俺って言うんだな。いやー大切な人かぁー、父さんすごくうれしいぞー」
「うわぁぁぁぁぁぁ、やめてくださぁぁぁぁぁい」
次々と発せられるアルスの言葉で精神的ダメージが積み重なっていく。
アルスは前々からルクスが全く本気を出してないことに気づいていた。もはや、D級以下ではルクスの能力を計ることはできなかった。だからこそ、難易度の高いクエストを受けさせたかった。しかし今回のゴーレムは予想外だった。サイズは大きく、魔法が効かない、知能もある。今までに経験したことない魔物だったがルクスの力を計るにはちょうど良いと思った。おそらくこのゴーレムにランクをつけるならA級はあるだろう。ルクスでは敵わない可能性が高いだろうが、やられる前に自分が助けにいけばいい。本当の力を計ることはできるだろう。自分だったら苦戦はするだろうが、負けることはないという自信はあった。 なので、やられたふりをしてルクスを追い込んだ。しかし、目の前で起こったことは簡単には信じられないことだった。十二歳半になったばかりの息子が究極魔法を扱い、強度の高い体をひと振りで真二つにしていた。
今まで様々な冒険者や、魔物を見てきたアルスでも、ルクスの力の底が全く見えなかった。なぜこんな力を持ち、あんな魔法を使えるのか疑問がつきなかった。おそらく、いやおそらくでない。確実に自分より上だ。しかも圧倒的に。
さすがに動揺した。動揺を隠すようにルクスをからかってみたが思いの外効いたみたいだ。だがルクスは紛れもなく自分の息子だ。それは変わりない。いくら強かろうが関係ないのだ。
俺とアルスのやり取りを見てルミナも笑っていたが徐々に真剣な顔をして、
「アルスさん、ルクスくん、今回は本当にありがとうございました。自分の力だけでは倒すことはできませんでした。お二人方によって国が救われ、父もうかばれると思います」
頭を深々と下げた。
「どういたしまして。でも今回のおいしいとこは全部ルクスに持っていかれたな」
「おいしいとこって。今日はみんなの勝利だよ。ところでルミナのお父さんは?」
ルミナは首を横に振る。
「お父さんは見つかりませんでしたが、いつも身につけていた腕輪が落ちていました。これだけでも見つかってよかったです」
そう言って悲しいだろうに笑顔を作っていた。
強い子だな。しかし妙だ……ルミナの父親はパーティーを組んでこのクエストに挑んだはずなのに、遺体が一人もない。あのゴーレムが魔法で消し去ってしまったのか。
少し考えてこんでいると、
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
と、誰かの腹の鳴る音がした。
「よし、そろそろ帰るか。さすがに疲れたな。早く帰って飯にしよう」
やっぱりアルスか。ルミナじゃなくてよかった。
「はい、帰りましょう。僕もお腹すきました」
「ルクス……僕じゃなくて俺だろ。話しやすい話し方でいいからな」
ルミナが笑っている。そっか、もうばれたんだった……
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