第9話 クレーマー

 ある一室で三人の男と1人の女がテーブルを囲んで重々しい雰囲気の中対話している。

 魔法使いのような三角帽子とマントを羽織った老人。

 見た目はまだ若い青年だが二本の角が生えた男

 貴族のようなきらびやかで、高級そうな服に身を包んだ男性

 赤い露出の多いドレスを着て、細くスラッとした美しい女性

 の四人である。

「サンドラに送り込んだゴーレムがやられたみたいだな」

「うん、でもサンドラには奴を倒せるやつはいないはずだよ」

「たしかにあれはS級の冒険者でもかなり苦戦するはずだわ」

「たぶん、隣国のアスールから派遣されたのじゃろうて。あそこにはランカーも1人おったし」

「あんな小さな国の為にランカーが動くかなぁ」

「まぁいいさ。合成魔獣はまだ何体もいる」

「じゃな、このままアスールや同盟国を少しずつ潰して弱体化させるぞい」

「焦るなよ。他国の仕業と勘づかれたらやっかいだ」

「はーい。じゃあ次は何処に送り込もうかなぁ」


※※※※※※※※※※※※※※※※※


 俺達はサンドラの町に向かって歩き出していた。アルスとルミナがなにやら話している。

「そういえばルミナちゃんは、これからどうするんだい?」

 ルミナはその場に立ち止まり少し考えているようだ。

「私は冒険者です。まずは無難なクエストをこなして当面のお金を稼いでから、もっと強くなるために修行します」

「ソロでやるのかい?」

「私のパーティーは全員やられてしまいました。とりあえず臨時とかでどこかのパーティーにいれてもらいますよ」

「そうか……じゃあ俺達と一緒にパーティーを組もう。それがいい。ルクスにも同年代の仲間が必要だと思っていたんだ。いいよな、ルクス」

「そうだね。心配だしね」

「えっいいんですか?うれしい。ではまだまだ未熟者ですが、これからよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしく」

 俺はテンションが上がっていた。

 今までアルスと二人だけで毎日のようにクエストをこなしてきた。嫌というわけでもないが父親と一日中一緒にいるのはウンザリしていた。クエスト自体も全て簡単すぎてつまらないし。ルミナがパーティーに入ってくれればきっと今より楽しくなる。やっぱりパーティーには女の子という花が必要だ。

「よし、そうと決まればさっさとサンドラへもどるぞ」

 サンドラへ付くと、まずはギルドへ報告へ向かった。

「お疲れ様です。ゴーレムは倒せましたか?」

 なにも知らないギルド職員が聞いてきた。

 アルスは怒っていた。

「ふざけるな! あぁ倒してきたよ。でも奴はただのゴーレムじゃなかった。A級、いやS級でもおかしくないレベルだったぞ。C級クエストだと思って、この依頼を受けた冒険者は全滅するはずだ。この子の父親のように」

 アルスは捲し立てるように言いはなった。

 怒ったアルスは初めて見た。

 ギルド職員は怯えて声を震わせながら話した。

「も、申し訳ございません。このクエストは王宮からの依頼でして。難易度の方も王宮で決められましたので……」

 クエストは基本的にギルドが個人や商会などからの依頼に応じて難易度を決める。そしてその難易度により請求額を決めるのだ。しかし今回のゴーレム討伐依頼は国からであった。国からの依頼だけはギルドに難易度の決定権はないのである。

 この国は決して裕福ではない。むしろ貧乏な小さな国である。A級、S級となれば、請求額はものすごい金額になる。それを節約しようとC級のクエストとしたのだろう。もしくは詳しい調査をせず本当にただのゴーレムと思っていたのか。

「そうか国からの依頼か。それではしょうがないな。すまなかったな。怒鳴ってしまって」

 アルスも少し冷静になったようだ。

「いえ、ギルドの方も正確な情報を調べるべきでした。少なくとも彼女の父親達が帰ってこないのを不信に思うべきでした。この国では凄腕の冒険者だったのに。あなた方がこなければ、他にも犠牲者を増やすところでした」

 ギルド職員も反省しているようだった。

「もう大丈夫です。父も冒険者です。常に死は覚悟していたはずです。それに相手が強いと分かっていても国を守る為きっと戦ったはずです。それにもうお二人が倒してくれたおかけで国は救われました。父も天国で喜んでいるはずです」

 ルミナは笑顔を見せていた。

「そうだね、きっと喜んでいるよ」

 これで一件落着だな。

「いや、大丈夫じゃない!」

「「「えっ!!!」」」

 アルスが空気を読めない事を言ってきた。

「だから全然大丈夫じゃない。王宮へ乗り込むぞ。文句言ってやる」

 全然冷静じゃなかった……

「ちょっとお父さん、落ち着いてよ」

「俺は落ち着いている」

「全然落ち着いてないよ。王宮に乗り込むなんて犯罪者にでもなる気なの?」

 ルミナも俺とアルスのやり取りを見てオロオロと困惑している。

「いやいや、今回のことで少し文句を言うだけだ」

 逆にいやいやといいたい。いくら小さな国でも相手は王である。この世界にも王族や貴族がいる。平民が貴族に口出すなど聞いたことがない。もしそんなことがあれば最悪打ち首、良くても犯罪者として奴隷行きである。

 貴族相手でもこれなのに、今回は王族に文句を言いに行くという。バカなのかな、この人は……

「まぁ、今日はもう遅いし宿に戻ってご飯食べて、寝よう? 今日はつかれたよ」

 とりあえず時間を置けば落ち着くだろう。

「むっ、そうだな。確かに腹が減った。よし、乗り込むのは明日にしよう」

 この年でお尋ね者にはなりたくないよ、アルス……

 俺達三人は宿に着くと、まずは部屋を借りた。二部屋借りることにした。十三歳でもルミナは立派な女の子だ。別々がいいだろう。それと風呂付きにした。一日砂漠にいたので全身砂まみれだった。風呂は欠かせない。

 しかしまだ水の値段が高いので、一泊食事付で三万ピアもした。普通相場は五千ピアほどなのだが。これでも安くしてくれたらしい。

 まぁ今はお金には困ってない。ゴーレム討伐の報酬は三等分した。それでも一人当たり四十万ピアもあったのだ。この国に来たときについでに倒した盗賊が二人で五十万ピアであったことから、かなり色をつけてくれたようだ。さすがに遠慮したが、国を救ってくれたお礼と適正な難易度を設定できなかったお詫びが含まれているようだ。

 そうゆうことならもらっておこう。ルミナもこれからお金は必要だろうし、俺も新しい装備を買わなきゃだしな。

 俺達は風呂に入って着替えたのち食堂で待ち合わせをすることにした。

 今日は頑張ったご褒美に焼肉にした。飲み物はまだ酒を飲めないので、マンゴン百%ジュースにした。アルスも「うまい、うまい」と言って一心不乱に食べている。機嫌治ったかな。たしかに肉も飲み物もうまい。ルミナもよく食べている。いや、一番食べているんじゃないかな……少なくともアルスの倍は食べてるぞ。太らなきゃいいけど……

 腹一杯食べた。すると疲れからか、すぐ眠くなった。アルスとルミナも同じようで、それぞれ部屋に戻り寝ることにした。

「おやすみ、お父さん」

「おやすみ、ルクス」

「お父さん……明日王宮に乗り込んだらダメだからね」

 布団の中でアルスがビクッと体が動いた気がした。

 明日は全力で止めなくては……と企んでいると自然と寝てしまった。

「……いやぁよく寝たぁ」

 少し寝すぎたようだ。アルスのベッドを見ると、そこにはいなかった。食事にでも行ったのだろうか。起こしてくれればいいのに。

 とりあえず身支度を済ませ、隣の部屋に泊まっているルミナの部屋の扉をノックした。

「ルクスだけど、起きてる?」

「え、あ、ちょっと待ってくださいね」

 中でバタバタと音が聞こえる。少しすると静かになり、

「どうぞー」

 と聞こえてきた。

「失礼します、おはようルミナ」

 慌てて着替えでもしたのだろうか。ベッドの上にパジャマらしきものがある。パジャマ姿も見たかったな……

「おはようございます。昨日はありがとうございました」

 ルミナはそう言うとペコリと頭を下げる。

「昨日のことはいいよ。もう仲間なんだから。あ、それに俺の方が年下だから、敬語もやめてね。俺も使わないし」

「うん、わかった。これからよろしくね、ルクス」

 溢れんばかりの笑顔に不覚にも魅了されてしまった。

 顔が赤くなってないかと気にしながらもルミナに尋ねた。

「ところで、お父さんしらない?」

「今日はまだ会ってないよ」

 やっぱり食堂かなぁ……

「お昼まだでしょ。 一緒いかない?」

「うん、食べる」

 嬉しそうだ。食べるのが好きなんだな。アルスを、探すついでにルミナと食事をとることにした。

 食堂を見渡してもアルスがいない。何処に行ったのだろうか……

 しょうがないので二人で昼食をとることにした。今日は肉野菜炒めにしたが、ルミナは白飯がどんぶりに入っており、肉野菜炒めも自分の倍ほどある。

 昨日焼肉を食べているとき、もしやと思ったのだが……

「ルミナって、もしかして大食いなの?」

「えっ、そうなのかな? お父さんはもっと食べていたけど。だめかな?」

「いやいや、駄目じゃないよ。むしろ俺は食べる女の子の方が好きだよ」

 ルミナは良かったと言って、どんぶりご飯を片手に食べ始めた。

 お父さんはもっと食べていたって……。大食いって遺伝するのかな……

 二人共食事を終え何気ない話をしていると、勢いよく食堂の入り口の扉が開かれた。視線をうつすとアルスがそこに立っていた。

「ルクス、ルミナおはよう!」

 アルスが俺達のテーブルに座って、元気よく大声で挨拶してきた。

「おはよう、お父さん。どこ行ってたの?」

「え、あっ、いやちょっと散歩に……」

 アルスの目が泳いでいる、怪しい、いや確実に黒だ!

「お父さん、嘘つくお父さんは嫌いだよ」

 と俺が険しい表情で問い詰める。

「ちょっと王宮まで散歩に……」

「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「ルクス落ち着け。ちょっとお話したら、謝ってくれて、ちゃんと謝礼をくれたんだ」

 と、自慢気に金が大量に入った袋を取り出した。おいおい……これ三白万ピアぐらいあるんじゃないか……

「これは昨日のゴーレム討伐の謝礼だから、皆で分けよう。S級としては少なめだけどな。A級だったら十分だ」

 アルスはお金をテーブルの上で広げて分けだした。

「俺、いらない」

「私も……」

 俺達は悩むことなく断った。

「えっ! なんで!」

 怪しい金は受けとれない。いくら小さい国といっても一国の王がたかが平民の冒険者に謝るわけがない。しかもケチってC級でギルドに依頼した国がポンと三百万もの金を出すわけがない。犯罪者にはアルスだけになってもらおう。

「脅し取ったの? 盗んだの? 正直に話しなさい。楽になりますよ」

「信じてくれよ。ほんとに話しただけなんだって」

 うーん、嘘を言っている感じじゃないなぁ。実は話せばいい王様だったのか?

「わかりました。とりあえず信じましょう。でもそのお金はこの国の為に使います」

「えっ、全部?」

「そう、全部。そもそもゴーレムを倒したのは誰ですか? 誰かさんは寝たふりしていましたけど」

「うっ、わかりました。もっていけ泥棒!」

 と言って名残惜しそうにお金の入った袋を見ながら俺に差し出した。

「これでいいよね、ルミナ」

「もちろんです」

 お金はギルド職員に渡した。ゴーレムに破壊された物の修繕費や殺されてしまった冒険者の遺族への見舞金にあてるよう指示した。

「ありがとうございます」

 とギルドの職員は何度も頭を下げていた。だから汗が飛んでいるって。

 その後馬車を依頼し、プラシアに向け出発した。

 ん? 何か忘れている気がするけど……まっいいか。

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