第7話 出会い

 振り返ると、一人の女の子が立っていた。年は自分と同じくらいか、少し上に見えた。綺麗な金髪の長い髪をツインテールでまとめている可愛らしい女の子だ。俺より少し背も高いかな。

 普通の女の子と違ったのは、腰にショートソードを携えており、何かを覚悟したような目をしていた。

「連れていって、ってどうしたんだい、お嬢ちゃん」

 アルスはその目をみて真剣に話しかけていた。

「私はルミナと申します。昨日ギルドであなた方がゴーレムのクエストを受けると話していたので、ここで待たせて頂きました。私にも手伝わせてください」

「手伝うって言ってもこれはC級クエストだよ。大怪我するかもしれない、場合によっては死ぬ可能性だってあるんだ。そう簡単に連れていけない。何か理由があるのか?」

 アルスは厳しく突き放しているようだ。

 それはそうだろう。小さな女の子をわざわざ危ない場所につれていく大人がどこにいるだろうか。アルスもそこまで馬鹿じゃない。

 ルミナの表情が少し暗くなったと思ったら、理由の全てを説明してくれた。

 ゴーレムの討伐に向かったC級のパーティーの中にルミナの父がいるということ。

 出発して三日以上経っており、失敗し、生存している可能性も低いだろうということ。

 生きていないにしても、遺体を持ち帰りちゃんと奉りたいということ。

 何よりこの国を守ろうとした父の意思を継ぎクエストを達成したいということ。

 最後の方は我慢できなかったのか泣きながら話してくれた。確かに付いてきたいという気持ちは分かる。どうするのかとアルスを見てみるとルミナ以上に号泣していた……

「そうか、そうか辛かったねぇ。でも本当に危ないんだよ。ルミナちゃんはその剣を使えるのかい?」

「私これでもC級冒険者です。C級のクエストも既に十回以上達成しています。必要ならばステータスも教えます。戦力にはなると思います」

「「えっ」」

「ちなみにルミナさんの年はおいくつですか?」

 俺はたまらず年齢を聞いてしまった。

「十三歳ですが」

 これには驚いた。冒険者になれるのは十二歳からなので、少なくとも二年以内でC級まで上がっている。自分は昨日C級に上がったので半年たらずで達成したことになるが、これは百回の転生能力あってのもの。それがなければ五年たっても辿り着けるかどうかの領域である。

 アルスはそれを聞いて、悩んだあげく付いてくる事を了承した。

 道中、年も近いこともあり様々な事を話した。母親も冒険者だったが病で亡くなっていること、サンドラではB級以上のクエストが滅多になくC級に留まっていること、父がクエストに出掛けた日は高熱が出て付いていけなくなったこと、料理が好きだということなど。

 その間、アルスも話に入りたそうにしていたが、子供同士の会話になかなか割り込めず、つまらなそうにしていた。


 しかし、ルミナのステータスを聞いたのだが驚愕した。

ルミナ

LEVEL:51

HP:2010

MP:800

攻撃力:620

防御力:620

魔力:620

俊敏性:650

運:60


 なにこれ……天才ですね。

 十一歳にしてアルスに匹敵するとまではいわないが、B級でやっていくだけの能力は十分にある。アルスはステータスだけ見ればS級並みらしいし。ちなみに自分のステータスは運以外を二十分の1程度にして教えた。これでも一般的には高いほうなんだけどね。

 ちなみに俺はこの世界に転生してから一レベルも上がっていない……まぁ、このレベルでゴブリンやスライムをいくら倒しても上がるわけがないのだが。天才が目の前にいるのに、俺まで天才なわけないよなぁと少し落胆してしまった。

 まさかこのルミナとの出会いが今後の俺の人生を大きく左右することになるとはこの時は思いもしなかった。


 ルミナと色々と話しながら歩いていると遠目にオアシスが見えた。三時間の道のりが、あっという間だった。それほどルミナと話すのが楽しかったのだ。自分は断じてロリコンと言うわけではないし、見た目の好みはお姉さん系のスレンダーな女性である。まぁルミナが将来そのような女性になるかもしれないが……

 オアシスに近づいていくとゴーレムの姿も、明らかになってきた。

「なんか、でかいな…」

 アルスがつぶやく。確かにまだオアシスまで距離はあるが、明らかに大きいことは分かる。

 遠くからオアシスを見ていたときは建物のようなものがあるなと思っていたが、それがゴーレムだったのだ。

 ゴーレムは人間よりは大きいがせいぜい二、三メートルほどである。しかしこいつはその倍近くありそうだ。

 俺達は足を止め、作戦を話し合った。幸い、まだゴーレムには気づかれてはいないようだ。

「でかいとはいえ相手はゴーレムだ。できるだけ近づいて、水魔法で一気に倒すぞ。ルミナちゃん、水魔法は何か使えるかい?」

「はい。魔法はあまり得意じゃないですが、中級魔法のウォーターボールなら大丈夫です」

「よし、中級なら大丈夫だろう。ルクスも使えるよな?」

「うん、僕も中級までだけどねー」

 本当は水魔法だったら究極まで使えますけどね。

「よし、じゃあ俺は上級のウォーターランスでいく。じゃあ、一気に近づいて気づかれる前にぶちかますぞ」

「「はい」」

 三人でゴーレムに向かって一直線に走り出した。

 ゴーレムが俺達に気付き動き出そうとしたその瞬間、

「ウォーターランス!」

「「ウォーターボール!!」」

 三つの魔法が同時にゴーレムに直撃した。激しい水しぶきが周囲を覆っている。

「やった」

 とルミナが喜んだ瞬間、無傷のゴーレムが水しぶきが消えた中から現れる。

「え、なんで……」

 ルミナが動揺して立ち尽くしている。ゴーレムは太い腕をゆっくり振り上げて地面を殴った。

「まずい!避けろ!」

 アルスが叫んだ。

 割れた地面の固まりが高速で飛んでくる。やばい、ルミナが反応できていない。

「ちっ、しょうがない」

 俺はルミナを押し倒して、なんとか攻撃を避けることができた。

「あ、ありがとう」

 ルミナは顔が赤くなっている。

「集中しよう。あいつ普通のゴーレムじゃないよ」

「うん。ごめんね」

 顔を赤くしたまま、立ちあがって服についた砂を払っている。

 それにしても、水魔法が全く効いていない……ゴーレムを観察してみると薄い膜のようなものが体を覆っている。あれが魔法を防いでいるのか。しかし、水魔法が効かないゴーレムか。とてもC級クエストじゃないな。しかもあのサイズ……亜種なのか。A級クエスト並みかもな。

 元々物理攻撃にはめっぽう強く、攻撃力も高い。ただ水に弱すぎる。それがゴーレムのはずだ。そのゴーレムが倍のサイズになり、唯一の弱点が消えた。

「まずいな……」

 アルスもゴーレムの異常さに気づいているようだ。

 アルスも元々はA級冒険者だ。A級のクエストは何度も達成しているはずだ。しかしそれはパーティーを組んでの結果だろう。普通三~四人のパーティーを組み、盾役、物理攻撃、魔法攻撃など役割を分け魔物を討伐する。A級の冒険者でもソロで達成できるのはせいぜいB級までだ。

 アルスの決断は早かった。子供達を間違っても死なせるわけにはいかないという判断だろう。

「逃げるぞ、撤退だ」

「「はい!!」」

 俺達はゴーレムに背を向け走った。

 攻撃してこないかとゴーレムの様子を窺いながら走っていると、手を合わせている。何をする気だろうか。すると合わせていた手を離して、前方にかざした。すると逃げている方向に巨大な土の壁が出現し、ゴーレムと俺達を土の壁で囲った。

「なるほど、逃がすつもりはないってことね」

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