第6話 職員、困る
「やっとついたー、三日も馬車に乗っていたら体が鈍るぜ」
アルスは馬車を降りると、背伸びして体を伸ばしていた。まぁあんたは何もしてないからそうでしょうね。
「僕はヒヤヒヤだったよー、盗賊なんて初めてだったし」
「嘘つけ。かなり冷静だったぞ。人を切るのに躊躇いもなかったし。我が子ながら、ほんと末恐ろしいよ」
本当は内心怖くて必死だったと言っても信じてくれなかった。さすがに戦いに関しては、誤魔化されないか。少し自重しなくては……
「さぁまずはギルドにいくか。盗賊も引き渡さなきゃならんし、クエストの詳しい内容も聞かなきゃだしな」
サンドラのギルドはプラシアと比べて規模はかなり小さかった。大きさは五分の一くらいだろうか。赤レンガを積み重ねて作ったような建物だが、所所穴も空いており汚れも目立っていた。
ちなみにプラシアのギルドは白を基調としているが、汚れなどはほとんどなく清潔感に溢れている。中には食堂や仮眠室や医務室があり、冒険者をフォローしている。同じギルドでも国や町で大きく違うものだ。
アルスと俺はギルドに入り職員に、ゴーレムのクエストを受けに来たら道中で盗賊に襲われ撃退したと事情を説明し、引き取ってもらった。
「いやぁ助かりました。こいつらには手を焼いていて困っていたのですよ。ありがとうございます」
メガネを掛けた、太ったギルド職員が汗を拭きながらペコペコしている。
「うわっ、汗が飛んでいるからやめて』
とは言えず我慢している。あぁ、プラシアにはシャルルちゃんがいてよかった。
どうやらあの盗賊達はC級クエストで依頼されていたらしい。それなりにサンドラでは有名で、強い盗賊団だったようだ。ちなみに盗賊は殺しても問題なく、捕らえても罪の重さ次第では死刑になる。そうでなくとも強制労働か牢屋で一生を過ごすことになるのだ。
やべぇ、そんな強いやつら一蹴しちゃったよ……アルスの方をチラッと見るが、特に表情を変えず職員の話を聞いていた。意外だな、また何か言ってくると思ったが……
「では盗賊団の討伐と捕獲により、このC級クエストは達成にしときますね」
「「えっ」」
予期せぬクエスト達成で、C級冒険者となった。
「じゃあルクスもC級になれたし、お金も入ったから、依頼キャンセルして観光して帰りますか」
「そうだね、楽しみ~」
と二人でやりとりしていたら、
「ちょ、ちょっとまってくださいよ」
とギルド職員が慌てて割り込んできた。
ギルド職員の話を聞くと、本当に困っているらしい。
話をまとめると、
・サンドラの人々はオアシスの水を使って生活している。
・オアシスから町へ配管を通して水を供給しているが、ゴーレムがその配管を壊してしまい供給が止まってしまった。
・ゴーレムがいるオアシスはサンドラで一番大きなオアシスになっており、ここが使えないといずれ他のオアシスが干からびてしまう。
・この国唯一のC級冒険者パーティーが三日前に討伐に向かったが戻ってこない。
そういった理由から隣国のアスールに依頼を出したのだが、馬車で三日もかかる上に観光名所も特にない国、ギルドも貧乏なので報酬も安いとなると中々クエストを受けてくれる冒険者がいなかったようだ。
たしかに危機的状況である。しかもアルスはB級冒険者。こんなチャンスはもう無いと、ギルド職員は必死に食い下がってきた。
「しょうがないな~、今回だけだからな」
「だね~、僕達がやらないと大変そうだからね」
俺達は恩着せがましく言ってみた。まぁ元々キャンセルすると失敗扱いになるから、やるつもりだったけど。
「ありがとうございます」
ギルド職員は深々と礼をするが、また汗が飛んできた。もう動かないでください……
「じゃあ今日はもう遅いから、宿と飯を用意してもらおうかな。あっ、肉料理が食べたいな。デザートはもちろんマンゴンね。あと風呂にも入りたいな」
「かっ、かしこまりました」
ギルド職員は顔がひきつっている。
さすがに調子に乗りすぎだよ、アルス。水が無くなるかもって言っているのに風呂を望むなんて……父の姿にあきれてしまった。
「いやー食った、食った」
アルスは大きく膨れた腹をさすりながら満足しているようだ。ギルド職員の奢りだからってこんなになるまで食べなきゃいいのに。ただでさえ、最近太りぎみだというのに……
「ルクスはもういいのか?いっぱい食べないと大きくなれないぞ」
「もうお腹いっぱいだよ。ご馳走様でした」
ほんとはもっと食べたいが、子供の体ではすぐ食べられなくなる。食事はとても美味しかった。特に名産のマンゴンは甘くて絶品だった。アメリアにもお土産として持って帰ろう。
「よし、明日はいよいよゴーレムの討伐だな。まぁ、ルクスが本気でやれば大丈夫だろう。俺はサポートに回るからな」
アルスは何かに勘づいているようにニヤリと笑みを浮かべていた。
やっぱり今まで本気だしてない事に気づいているな……と察しながらも、
「ゴーレムは初めてだから、少し怖いなぁ」
と怯えてみせた。
「まぁ弱点も分かっているし、所詮はC級だからな。ルクスなら大丈夫、大丈夫。今日は早めに寝て、明日の朝出発だ」
「うん、わかった」
アルスの言う通りに、今日はいつもより早く寝ることにした。ここ三日間移動で野宿だったこともあり、フカフカのベッドですぐに寝付くことができた。
次の日の早朝、窓から差し込む朝日の光で目が覚めた。スッキリした良い目覚めだ。隣ではアルスがイビキをかいて気持ちよさそうに寝ている。
「お父さん、起きて!ゴーレムの討伐いくんでしょ」
「うーん、あと五分……」
全くどっちが子供なんだか。
結局あと五分を繰り返し、三十分経ってようやくアルスも目を覚ました。
「いやーすまん。昨日緊張して中々寝付けなくてさ」
「お父さん……昨日僕より早く寝てイビキかいていたよ」
「……すいませんでした」
気を取り直して、装備や持ち物を確認して宿を出発した。この国はとにかく暑い。しかもオアシスは四十度を越える砂漠の中にあり、歩いて三時間ほどかかるので、大量の飲料水が必要となる。魔法で水を出すことはできるのだが何故か飲料水には向かないのだ。高確率で腹を下してしまう。
そこで先に飲料水を購入するため、道具屋に向かった。
「一本で千ピアかぁ、相場の十倍だな」
アルスが水の入った瓶を持って驚いている。
「申し訳ございません。オアシスからの水が少なく価格が高騰しているんですよ」
店主も困っているようだった。
「しょうがない、では八本くれ」
「まいどあり」
片道1人1本あれば足りるだろうが.道中何があるか分からない。クエストに挑むときは多めに準備しておくのが常識だ。
お互い四本ずつボックスの中に入れ、町を出ようとした時後ろから声をかけられた。
「すいません、私も連れていってください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます