第3話 初クエスト
猪狩りのクエストランクは一番下のF級である。
だいたいF級からE級は、採取クエストや人に危害を加える動物などの討伐だ。D級からC級にかけては魔物の討伐や商人の護衛などが主になる。魔物は動物と比べ知能が高く、力も強い。中には魔法を使いこなす魔物もいる。動物と比べ危険度はかなり上昇するのだ。
B級以上になると、貴族や王族の警護や用心棒、戦争の助人などもある。A級、S級にもなればドラゴンやレジェンド級の魔物の討伐などもあり、常に死と隣り合わせのクエストばかりだ。
ただ普通に暮らしていく分にはD級やC級を繰り返しこなしていければ十分に生活は潤う。B級以上を目指す冒険者は莫大な金と名声の為、もしくはまだ見ぬ強者と戦い自分の強さを証明する為、クエストに命懸けで挑んでいく。
暫く森を歩いていると、三匹の猪が歩いていた。今回のクエストの達成条件は、三匹以上の討伐となっていたので丁度いい。このあたりは運のステータスによるものだろうか。
「お父さん、どうする?」
「よし、二匹は俺が片付けるから、一番小さい猪を一人で狩ってみろ」
いきなり十二歳の子供に一人で猪と戦わせるかね。まぁそれだけこの装備が優秀なのだろう。
「さっきも言ったが、その装備なら猪ぐらいに負けることはないから安心して戦いなさい」
「がんばります!」
初めて戦うはずなのに全く怯まないので、アルスは少し驚いているようだった。少しはためらった方がよかったか。
三匹の内一番小さな猪の前に立った。野生の勘なのか、小さな猪は危険を感じ、引き返して逃げようとした。
「まてっ!!」
猪が背を向けたところで俺は一気に距離を詰め、小さな剣で切り裂いた
猪は鳴き声をあげながら一撃で絶命した。
ちょっとやり過ぎたかなと少し後悔したが、逃がしてまた森を散策するのは面倒だった。
恐る恐るアルスの方を見ると、ものすごい笑顔で拍手しながら、
「さすがは俺の子供だな!いやぁ、才能あるな。よくやったぞ」
と褒めてくれた。単なる親バカでよかった。そこでまさかの事態に気付いてしまった……
「あっ!!」
「どうした、ルクス?」
「お父さん、他の二匹は?」
「あっ!!!」
アルスは俺の戦いを見るのに集中しすぎて、その間に逃げられたようだ……
「すまん、ルクス……逃げられたようだ……」
アルスはステータスこそ高いが、抜けている所が多いようだ。全く情けないなぁ。
結局あと一時間程森を散策することになり、無事に初クエストを達成することができた。
初クエストを終え、討伐した三匹の猪を持ってギルドにクエスト完了の報告に向かった。討伐クエストは、討伐した証拠を提示する必要があるらしい。
大きい動物を運ぶのは大変だが、魔力をある程度持つ者は、ボックスと言う魔法を使うことができるのだ。ボックスは別空間に物を収納することができる便利な魔法である。この魔法は下級魔法に分類され比較的誰もが使うことができるのだが、その容量は使用者の魔力に依存するのだ。ちなみに生きているものは入れることができない。
普通は数キロ入れるのが精一杯だが、アルスは百キロはある猪を二匹もいれている。本気をだせばドラゴンでもいけると笑っていた。
俺も小さいといっても六十キロはあるだろう猪を余裕でいれていたが、アルスは俺の息子だから当然と気にしていなかった。まぁ俺の魔力ならば、入らないものなどないのだが……
アルスと俺はアスール国で二番目に大きい町、プラシアで暮らしておりその町にあるギルドに所属している。プラシアは水の豊かな町で、水路や川が町中を巡っている美しい町だ。人口もアスールの中では多い方だが特に犯罪者が多いというわけでもなく日々平和な町だ。それもそうだろう。犯罪を取り締まる国の騎士も多く、町中を見張っており、冒険者も比較的多い。こんな中でわざわざ悪いことをするやつもいないのだ。
ギルドに入り、職員のいるカウンターに向かうと
「ルクスちゃん、おかえりー」
と元気な声で話しかけてくる女の子がいた。
彼女は美人というよりも可愛らしいといった感じで、茶色の髪を肩まで伸ばした女の子だ。小さくていかにも妹キャラであるが、れっきとしたギルド職員であり、俺が冒険者となる際、登録の手続きをしてくれた方だ。名前はシャルルと言うらしい。
「ただいま、シャルルちゃん」
「シャルルちゃんじゃなくて、シャルルさんかせめてシャルルお姉さんでしょ。ルクスちゃんより、四つも上なんだから!」
シャルルちゃんは頬を膨らませて怒っていた。かわいい……
「シャルルちゃん、うちのルクスとイチャイチャするのもいいけどクエスト報告いいかな?」
ニヤニヤした表情で、アルスがはいってきた。きもちわるい……
「アルスさんまで……それにイチャイチャなんてしていませんし。えっとクエスト報告ですね。了解しました」
またちゃん付けされた、とブツブツいいながら手続きの準備をしていた。シャルルちゃんは十六歳である。この世界では十五歳にもなれば立派な大人として認められるので、もう子供扱いはされたくないのだろう。
でも無理。だって可愛いんだもん。
「えっと、F級クエストで猪三匹の討伐ですね」
アルスと俺はカウンターの隣にあるただ広いだけの部屋に猪を並べた。
「たしかに猪三匹確認しました。では報酬の一万ピアです」
この国では大人一人が三十日を普通に生活するのに、約十万ピア必要らしい。F級にしてはなかなかの稼ぎである。
「猪の買い取りはどうします?」
討伐した動物や魔物はギルドで買い取ってくれるのだ。動物は食料や服に魔物は武器や防具の素材にできるからである。
「じゃあ、大きいのを二匹だけ頼む」
「では、二匹で二千ピアですね。ありがとうございます」
「お父さん、あと一匹はどうするの?」
「ん?食べるんだよ。今日の晩飯に決まっているじゃないか」
えっ……まじか……
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