第4話 帰宅

 家に帰宅すると、母のアメリアが向かえてくれた。

「おかえり、ルクス。ケガはない?」

 優しく微笑んでいた。

 母は美人である。身長は百七十㎝ほどあり、体型も引き締まっている。黒髪のショートカットで、カッコいいという感じもある。母も、昔は冒険者だったようだ。アルスとは同じパーティーの仲間だったようで、アルスの猛アタックで結ばれたらしい。

 正直アルスには釣り合わないと思っていたが前に、

「お父さんのどこが好きなの?」

 と聞いたら

「全部好きよ」

 と顔を赤くしていたので、何も言うまい。特に強いくせにドジで失敗ばかりするアルスをほっとけないらしい。母性本能というものか。人を好きになる基準は分からないものだ。

 ちなみに母はA級だが、ステータス的にはアルスより劣るらしい。アルスは実力的にはS級並と母は言っていたが、持ち前のドジさでクエストを失敗して、ランクが落ちているようだ。

 ん? ということは、実質S級の父と、A級の母の子供ってことは転生能力なくてもかなり優秀だったんじゃ…

 九十九回の転生を繰り返しても、これまでなぜか例外なく俺は才能の欠片もなかったのだ。周りの奴らが簡単に上がる場面でも俺のレベルは全く変わらなかった。今までは才能の違いと諦めていたが、今回はもしかしてと思い、少しだけ今の人生が楽しみになっていた。

「ただいまーお母さん、猪倒せたよー」

「そう、ルクスはすごいのね。えらい、えらい」

 母は頭を撫でながら、喜んでくれていた。

 それを見ていたアルスは、

「パパも頑張ったんだけどなー」

 となぜかアピールしてくる。

「はいはい、パパもがんばりました。えらい、えらい」

 と呆れたようにアルスの頭を撫でていた。

 このオヤジは……

 アルスは上機嫌になり、

「おみやげがありま~す!今日の夕食は猪です」

 と、持ち帰った死体の猪をいきなりリビングで取り出した。

「何やっているの!そんなものいりません!」

 さっきまでと違い怒りの声でアメリアが言い放つ。

「えっ、昔はよく食べていたじゃないか」

 アルスは予想外の展開だったのか動揺しているようだ。

「冒険中は、食べ物は限られるからわがまま言わないけど、なんで家でも食べなきゃいけないのよ。野生の肉は苦手なの!」

「っていうか、家の中で動物の死体なんて出さないでよ!汚れたじゃない。早く売って、お金に変えてきなさい!バカアルス!」

 相当お怒りのようだ。さっきまでの優しい母と同じ人物とは思えない。

 聞いていた俺もブルっと身が震えるほどだった。

 アルスは小さな声で、

「ごめんなさい」

 と言って、猪を持って家から出ていった。

 俺は夕食に猪を食べる事を回避した。猪や熊などの肉が好きな人もいるだろうが、アルス家では、父以外は苦手であった。

 ナイス、アメリア!

 ドンマイ、アルス……


 そしてこの初めてのクエストから半年たち、俺はD級となっていた。


 この半年間は様々なクエストを達成してきた。野生の狼や熊などを狩りまくった。時には採集クエストを行いながら、アルスが野草やキノコなどの知識を教えてくれた。知っている事ばかりだったが、そこは父親をたててあげていた。


「すごーい」とか「物知りだねー」


 この半年間は様々なクエストを達成してきた。野生の狼や熊などを狩りまくった。時には採集クエストを行いながら、アルスが野草やキノコなどの知識を教えてくれた。知っている事ばかりだったが、そこは父親をたててあげていた。

「すごーい」とか「物知りだね」とか「さすがお父さん」とか言うとアルスはとても喜ぶのだ。チョロイ男だ。

 動物では相手にならないと言ってアルスは俺に魔物と戦わせることを決めた。最近はD級クエストで、ゴブリンやスライムといった一般的な魔物を討伐していた。一般的な魔物といっても、常人ではとても敵う相手ではない。ゴブリンのパンチは野生の熊ぐらいならば、一撃で死に追いやる力がある。スライムが体に張り付いたならば相手を溶かして捕食するまで離さない。魔物とは恐ろしい生き物なのだ。

 そんな魔物を俺は最低限の力で討伐していった。本気を出せばデコピンで倒せるような相手だが、後ろでアルスが見ている。ゴブリンのパンチを紙一重でよけ、剣で反撃する。反撃も一撃で終わらぬように、ものすごく手加減する。

 たまに相手の攻撃を受けてやるときもあったが、その後のアルスの心配ぶりがうっとうしいので、あまりやらなかった。


 今日もいつも通りギルドの中にあるテーブルで、ジュースを飲みながらアルスが受けてくるクエストを待っていた。クエストはいつもアルスが選ぶ。俺の力に見合ったクエストを選んでいるのだろう。

 いつもより戻ってくるのが遅いので受付のカウンターを見にいくと、アルスとシャルルちゃんが揉めていた。

「アルスさん、このクエストはまだ早いと思います!あなた一人だったら大丈夫かもしれませんが、ルクスちゃんもいるんですよ。なにかあったら……」

「いや、ルクスはきっとこのクエストも達成できる。毎日ルクスを見てれば分かる。あの子は天才だ。俺よりも才能がある。だから大丈夫。いざとなったら俺が命にかけて守る。だから信じてくれ!」

 いつもふざけているアルスが真剣に話している。それを聞いたシャルルちゃんはこれ以上の説得は無理だと悟ったのか、しぶしぶクエストを了承していた。

「ありがとう、シャルルちゃん」

 礼を言うアルスはいつものアルスに戻っていた。

「だから、ちゃん付けはやめてください!」

 シャルルちゃんはまだ怒っているようだった。それだけ心配してくれているのだろう。ありがたいことだ。

 アルスが受付を終えて振り返ると後ろの方で立って待っていた俺と目が合った。

「ルクス、狩りにいくぞー」

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