【酒場】攻城戦終了後に

 大手のギルドになると攻城戦終了後に反省会などを開いたりするらしいのだが、GMWは行わない。そもそもメンバーのアクが強すぎて、反省しようにも出来ないという事情があったりする。根本的なことまで遡ると、キャラ消して作り直してこい、何てことになりかねないからだ。


 その代わり、狩りに行ったりなどはする。


「うーっし、今日はどこに行くよ。今、すっげえ暴れたい気分」

 狩りを仕切るのは、往々にして晴彦だ。ロランに並ぶGMWの古参のメンバーで、ギルドのムードメーカー的ポジション。知性INTが高い【魔術師】クラスのハズなのに、本人は極めて脳筋思考だ。

 見た目も知性的、という言葉からはかけ離れているように思われる。眩いぐらいに金ピカに染め上げた頭髪に、真っ黒なサングラス、それに暇さえあればタバコを銜えていた。そしてマントの下は無駄にマッチョだ。


ちなみに、外見がどれだけムキムキでも筋力STRのステータスに振っていないと意味がない。逆に、見た目はすごいヒョロヒョロなのにとんでもない怪力、なんてことも有り得る。


レベル七〇ボクでも行けるところなら行きたいかなって」

 ユーリは基本、一人を嫌う。ソロプレイが難しい、というのもあるが、どちらかといえば元からの性分的な部分が大きい。人見知りで、気が弱くて、寂しがり屋で。でも仲良くなると、人懐っこくて。入団して数ヶ月程度だが、ギルドには慣れたらしく今ではもうギルドのマスコット的存在になっていた。


 野郎の中には妹にしたい、と言う輩もいる。年季の入ったメンバーだと娘にしたい、という危険思想の輩もいた。ただ、ユーリが恐らく十五歳ぐらいで、ロランが十七歳なので、妹にしたい、という感覚はわからなくはない。

 背は低く、童顔で、目が大きくて。ブラウンの髪を後ろで結っており、動くたびに尻尾のように揺れる。小動物的な愛らしさがユーリにはあった。


「ふはは、某も今日は殴られ足りないでござるからな」

「やっぱり黒鉄ってドMよねえ。【守護騎士】選ぶやつなんて大体そうなんだろうけど、輪を掛けてっていうかさ」

「自爆マニアのアネモネ殿には言われたくないでござるな」


 体力HPお化けの黒鉄は、晴彦以上に体つきがゴツい。晴彦の筋肉がケンカで手に入れたヤンキー筋肉と評するのなら、黒鉄の筋肉は心血注いで作り上げた芸術的筋肉だ。本人も肉体美を意識してメイクしたらしく、その手の話題に触れると自慢げに脱ぎ出す。


 そんな黒鉄に自爆マニアと呼ばれる【工兵】のアネモネは、上半身の作業着を脱ぎ、黒のビキニのような下着――いや、服なのだろうか――を常に露出している。剥き出しのヘソの周りにはセクシーなベルトではなく、ずらりとダイナマイトが巻かれていた。綺麗な薔薇には棘がある、というが、美人にダイナマイトはあまりに過激すぎやしないだろうか。見目麗しいのに、近寄り難いと野郎共がよく嘆いているのを耳にする。


 晴彦、ユーリ、黒鉄、アネモネの他にもメンバーはもちろんいて、誰も彼もが負けずとも劣らない個性派ばかりだ。


 ロランたちが現在いるのは首都ルミナントにある酒場で、昔からGMWがたまり場として利用している場所だ。特定の建物は一定料金を払うことで借りることが出来る。この酒場もまたそうだった。

 木造の酒場には、薄っすらとオレンジ色の淡いランプの光が灯り、静かな音楽が流れている。店主のNPCがカウンターの奥におり、黙々とコップを拭き続けていた。


 そこに総勢十五名、『Going My Way!!』のメンバーが集結している。晴彦の話に耳を傾けずに酒を呷って泥酔しているやつもいれば、楽器を打ち鳴らすもの、部屋の隅っこで気配を消しているものもいた。とても自分勝手で、自由で、うちのギルドらしいと言えばギルドらしい。

 それがロランにはたまらなく尊く、微笑ましく映った。


「おいロラン! なぁに一人でニヤニヤしてんだよ、気持ち悪ぃ」

「えっ、ウソ。笑ってた?」

 咄嗟に口元を隠すが、もう遅い。晴彦の発言のせいで、皆がロランを見ていた。

 かあ、と顔が紅潮していくのが自分でもわかる。なぜだかそんなロランを見て、今度は皆がにやにやと笑みを浮かべ始めた。

「……そ、そんなに面白いものじゃないでしょ」

「いやあ、随分とからかい甲斐があって面白いよ」

「やめてくださいよ、アネモネさん」

「ロランが照れてるところ、可愛い~」

「……ユーリまで」

 いたるところからメンバーの笑い声がこぼれてくる。


 GMWは、落ちこぼれやはみ出しものの集まりだ。パーティーを募集しているところに行けば、狩りに行くまでもなく追い出されてしまうやつだって、このギルドにはいる。同じはみ出しものという共通認識があるからこそ、メンバー同士の仲は良かった。

 それを他所のギルドのやつらは根暗のくだらない仲間意識だ、何て言うかもしれないが、それでもロランがこの場所が大好きだった。


 一頻り笑った後、晴彦が、

「んで、ロランも行くだろ? 狩りによお」

 と話題を戻す。

「ああ、もちろん行かせて――」

 もらうよ、と言い終わるよりも早く、脳裏に女の子の声が割って入ってきた。


『ピンポンパンポ~ン。あーあー、テステス。はろはろ~、アリスちゃんだよぉ。ロランお兄ちゃあん、ちょっと空中庭園まで来てもらってもいいかなあ、お話があるんだ。それじゃあ、そういうことでよろしくねっ! じゃねっ』


 言いたいことだけを言うと、そのまま声は途切れてしまった。突然動作の止まったロランを、晴彦が訝しげな表情で窺う。

「どうかしたか?」

「……アリスから個人チャットが飛んできた。空中庭園まで来いってさ。言いたいことだけ言ってさっさと切っちゃったみたい」

「……あんのクソアマ、好き勝手やりやがって」

「ごめん、そういうワケだから、僕はパスで。皆、楽しんできてよ」


 外行き用の外套を取り出すと、手早く鎧から装備を変更し、酒場の出入り口へと歩いていく。

 ロランが不参加と聞いて、酒場の熱が下がる。ちぇー、つまらねえのー、と不参加を嘆いてくれるものまでいた。

(……テンション下げることしちゃったかな)

 罪悪感を抱きつつも、しかし、アリスからの誘いを断るワケにもいかなかった。

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