【騎士】ロラン

プレイヤー:ロラン・ロマン


『――申し訳ない、某も突破された! 我が守りが鉄壁と見るや、一目散に駆け抜けて行ってしまった! 面目ないことに、追い付けそうもない!』


『ごめーん、お姉さんも。出会い頭の自爆に巻き込めなかったや』


『俺のカウントダウンはまだあるし、応援には行けなさそうだわ』


『うう、ボクもまだ生き返れそうにない。ごめんねロラン』


「うん、了解したよ。黒鉄さんにアネモネさん、晴彦にユーリもお疲れ様。後は僕のほうで何とかしてみるんで、あんまり期待しないで待っててください」

 ギルドメンバーたちの報告を砦の最奥で受けたロラン・ロマンは、玉座から立ち上がり、部屋の扉のほうまで移動する。


 一歩踏み出すたび、鎧が擦れる音が耳朶を打つ。重装備を着込むようになって久しいが、いまだに慣れない。腰の脇を見やると、そこにはすらりと長い剣が提げられている。柄に手を添えるも、やはり何かしっくりとこない。

「さて、今回も何とか乗り切れるかな」


 メガネを押し上げようと、籠手ガントレットに守られた指先を伸ばす。しかし指は縁には触れず、虚空を切った。

 そういえば、メガネを外してからもしばらく経つんだったと思い出す。染み着いたクセは中々に抜けないらしい。

 はあ、とため息を一つこぼして、気恥ずかしさを誤魔化すように髪をかきむしる。短髪が籠手の隙間から入り、肌に触れた。手の平を眼前に持って来、まじまじと見つめるも、やはり甲冑に守られるそれは見慣れなかった。

「……でも僕がマスターの代わりにならなきゃいけないんだ」

 決意を秘め、拳を握り込む。


 アイテム欄を操作すると、何もなかった空間から盾が現れ、左手に装備された。

 後は敵がやって来るのを待つばかりだ。

「……来たかな」


 最奥へと続く唯一の大扉が震え、ギギギ、と錆付いた音と共にゆっくりと開かれていく。

 先陣を切るリーダー格の男は、肩で息をしながら、待ち構えていたロランを睨み付ける。

 敵意に応じるようにしてロランは鞘から剣を抜き、臨戦体勢に入るが、



「アンタんとこのギルドメンバーどういう教育してんだっ!!」



「へっ?」

 思わぬ怒号に、戦意が殺がれる。


「火力極振りの【魔術師】がいたかと思えば、一切攻撃出来ない【猟兵】! 俺たち初心者でも囲んで叩けばあっさり倒れちまったぞ! かと思えば、防御力と自動回復に特化しまくった【守護騎士パラディン】が出てきて! 全然ダメージが通らないし、通ったとしてもすぐに回復していくから逃げようってなったら、装備が重すぎて追ってこれねえし! 挙句、曲がり角出たら自爆してくる【工兵メカニック】だよ! 何がしたかったんだあの人は! 俺たち顔すら見てないからな!?」


 胸に溜まっていた鬱憤を一気に吐き出したリーダー格の男は、再びぜーぜーと肩で荒い呼吸を繰り返す。唾が変なところに入ったのか、ゲホゲホと咽た。思わず敵であるロランが大丈夫ですか、と声をかけそうになってしまう。

 まだ言い足りないのか、顔に滲む汗を拭うと、空気を大きく吸い込み、叫んだ。

「アンタらゲーム舐めてんのかっ!? もっとマシなステータス振りとかプレイスタイルがあるだろうがよっ!!」

「う、うーん……散々言われてきたセリフなんですけれど、初心者ニュービーに言われると堪えますね。アレでも皆、至極真面目にゲームをやっているんですけど……なんていうかその、すいません」

 はは、とロランが苦笑を浮かべる。


 それが彼の怒りの琴線に触れたのだろう、

「どうせアンタも人の良さそうな顔して、意味わかんねえステ振りだとか、謎プレイスタイルなんだろ!? もううんざりだ、ちくしょう! とっととこんな砦落としてやる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る