【猟兵】ユーリ
『というワケで俺ちゃん死んじゃったから、次はユーリがんばってねん』
「がんばってね、じゃないよぉ! ハル知ってるでしょ、ボクがこういうの苦手なこと」
『知ってるけど、仕方ねぇべや。今じゃお前もうちの
「うぅ~、それは皆がいてくれたからで……って、今はそんなことどうでもいいんだよっ」
ユーリが声を荒げると、横に控えていた大狼がばうっ、と吠えた。
【
「うう、ステラ、ボクを励ましてくれるの?」
目を潤ませながら膝を折り、ステラを抱きしめる。そうすると、ここが仮想現実世界だとは思えない温もりが伝わってくる。微かに森の匂いも鼻腔をくすぐった。
ユーリの言葉を肯定するように、ステラは長い舌を出して顔を舐める。目尻に浮かんだ涙の粒が拭われ去った。
「ひゃっ、くすぐったいよステラ」
ステラの励ましもあって、不安に押し潰されそうだった心がゆるゆると解かれていく。
ここが戦場で、今この瞬間にも敵がこちらへ向かって来ていることなど忘れ去りそうになる。
『あー、お戯れのところ申し訳ねえけどユーリちゃんよお。そろそろ敵さん、そっちに着くぜ?』
脳裏に響く
遠方を【猟兵】のスキル、《千里眼》で見通して見ると、晴彦が言うように、五人の敵がこちらへと進軍してきていた。
「……ハル? ボクの目には一人も欠けてないし、ダメージが入ってるようにも見えないんだけどさ」
『そりゃそうよ。一発も魔法を打てないうちに死んだんだから』
「うううう、ハルの役立たず~! 火力にばっかり振ってるからそうなるんだよぅ! もっと真面目にステータス振ってよぉ!」
『ああ⁉ お前にはわからねえのか、この
「その詠唱が終わらないのが問題なんじゃないか、バカァ! それにボクは女だから、男のロマンとかよくわからないよ!」
『漢に性別は関係ねえ!』
「滅茶苦茶だよ~!」
姿の見えない晴彦と口論をしているうちに、敵はユーリの姿を目視し、臨戦体勢へと入る。
刃が鞘を滑るシュラリ、という音を聞いただけで、体が強張った。
「ひっ……」
反して、ステラは主を守るように前へと踏み出し、牙を剥き出しにして唸り声を上げた。
「……【猟兵】のクラスだ、罠と遠距離攻撃に気を付けろ」
【猟兵】もまた、防御力が低く、紙装甲と揶揄されるクラスの一つだ。【
なぜなら、
(どうしよう、ステラだけじゃ五人は相手出来ないよ~……!)
ユーリは何かを攻撃するということが苦手であった。それは対人のみに限らず、マップで徘徊しているただのモンスターに関してもだ。
中級者とされるレベル七〇まで到達出来たのもギルドメンバーの支えと、ユーリの代わりに攻撃を担ってくれるステラ、そして何かと気を使って狩りに誘ってくれるロランの存在が大きかった。故にユーリの背負う弓矢は飾りでしかない。
罠にハメようとも、対象を殺しきるだけの火力を有さないユーリ。対して、火力は低いがそれを補うだけの数の暴力を有する五人組。どちらが負けたのかは、想像に難くない。
「ひゃああ~!」
「ばうっ!」
死んでしまったユーリの傍らには、寄り沿うようにしてステラが横たわっていた。主人と最期を遂げられて満足だと言わんばかりに、安らかな寝顔をしている。
「……後味が悪い」
「……俺、フランダースの犬思い出しちゃった」
「やめなさいよ……私も思い出しちゃったけど」
「いや、もういい、行こう……」
自分たちよりもレベルの高いプレイヤーを倒したハズなのに、五人組の表情には嬉しさの欠片などは微塵もないようだった。
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