王道の味

カクヨムはあんまり読んだことないですけど、よかったです。
いわゆる余命何日系というか、そういうやつなんですけど、まず世界設定がいいですね、死を望む少年と死を望まれない少女が命を受け渡すまでの話です。
命の譲渡が実用化されていて、いつ死ぬのか詳細にわかる世界で、借金を残して親に死なれた主人公は、生きていてもしょうがない自分の命を譲ることにする。それで、譲渡先に選ばれたのが同年代の難病のお嬢様。お嬢様は主人公に話がしたい、毎日来てくれと言う、という要素としては、定番な感じの話です。
とにかく、読んでいる時も、読後も爽やかさを感じられる作品だったと思います。主人公とヒロインも、それぞれの親も、職員も、基本的にいい人たちなので、こういう作品にありがちなイライラさせる展開がなく、それゆえに、誰のせいでもない無常感を感じることもできます。テーマとしては重くて、悲恋を描いてるんですけど、暗くなり過ぎず、前を向く強さを示してくれています。王道のど真ん中を大股で進んでいってくれるので読んでいる側としても心地よいです。
また、珍しいと思ったのは、主人公が命を譲るのか、という問題があることですね。こういうのは大抵ヒロインが死ぬと決まっているのですが、命を譲ってヒロインを生かすか、それとも心動かされて生きたいと思うのか、彼の選択次第で変わってしまうので最後までワクワクしながら読むことができました。定番にひと味加えて新鮮味を持たせる手腕に驚かされました。
というわけで王道ながら新しい切り口の作品でした。ぜひ読んでみてください。