Recycle of the life #5

 私は、LES仙台の施設玄関にいる由樹を見つけ、声をかけた。


「由樹君」

「ん?どーした望月。話ならこのみのとこから帰ってきてからで良いか?」

「そのことなんだけどね…」


『ごめんなさいね、体調を崩しちゃって、ごほっ、ごほっ』

「だ、大丈夫か?無理するなよ?」

『はい、ありがとうございます…』


 由樹は受話器を置いた。


「てなわけで、今日はお休みだ。ついでだが、面談いいか?」

「まあいいけど。聞きたいことは何だ?」

「気持ちの変化について、かな。今もまだ、死にたいかい?」

「…まあな。でも、このみと話すのが嫌いってわけじゃない。むしろ楽しい。でも、どっちが死ぬにしろ、結局話せる時間は有限だろ?それが終わったあとの自分ってのが想像できない。だから、死にたい」

「…なるほどな。天原さんのことが、大切な存在になったってことだな」

「そうかもしれないな。自分でも気づかないうちにだが」


 由樹は照れながら答えた。


「わかった。じゃあ面談はこれで終わり。行っていいよ」

「行っていいっつっても、何やっていいのかわかんねーよ」

「PC室あるからネット見れるよ」

「マジ?助かった、話すネタ尽きてどうしようかと思ってたんだ」


 そう言って由樹は駆けていった。


「転ぶなよー」

「わかってるって」


 私は由樹を見送ると、一度深呼吸をした。


(由樹の精神状態は、大丈夫だろうか)


 間違いなく、由樹はこのみに恋をしている。

 別に恋は悪いことじゃない。2人が命をやり取りする関係ではなければ、だが。


(だからLESって、批判受けることもあるんだよな)


 LESは言わば国営マッチングサービスだ。実際のところ、合わせた2人が恋に落ちることはある。それは仕方ない。

 しかし、この恋は生きたい者と死にたい者の恋。当然、すぐに終わりが来る。

 命のやりとりが行われようが行われまいが、結局どちらかが死んでしまうからだ。

 そして今回も、ご多分に漏れず『悲劇の恋』パターンだ。


(由樹…どうするんだ?)



 このみの不調は続いた。

 したがって由樹がこのみに会えない日も続いた。

 由樹は見るからに不機嫌そうで、朝食も半分ほど残した。


「なあ、望月」


 私は、由樹に呼び止められた。


「リミット、今日だろ。どうしてダメなんだ」

「…病院側の事情に、LESは干渉できないんだ」

「…クソが。名前呼びの約束してから、一日も行けてねぇじゃねえか…」


 由樹は悪態をついて去ろうとする。

 その瞬間、電話が鳴った。

 嫌な予感を振り払おうとしながら、私は受話器を耳に当てた。


「もしもし。LES仙台の望月です」

『私です!宗一郎です!娘が急に発作を起こして、危篤に…!』

「なんですって!?このみさんが発作を!?」


 私はわざと声に出した。

 その瞬間、狙い通り由樹は全力疾走で玄関に向かっていった。


「状況はどうなんですか!?」

『さっきまでは本当に危なかった。電話する暇もなかった。だが今はなんとか安定している…本当に、死期が近づいているのだな…』

「…由樹君がそちらへ向かいました。私も命交換機の準備をしてお伺いします」

『ああ、よろしく頼む…』


 私は電話を切ると、命交換機の準備をしに倉庫へ向かった。

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