Recycle of the life #4

「本当に面白いですわ!」


 このみは何度目かわからないセリフを発した。


「会話自体は一週間くらい同じようなことやってるんだけどな」

「それでも面白いですわ。由樹さんは物知りですのね」

「…ま、それほどでもねーよ」


 俺は少し照れてしまった。このみには悟られただろうか。

 話題をそらすことにしよう。


「お前は…五億人に一人の病気だと言ってたな。さすがに俺も知らないんだ、どういう病気なんだ?」

「わたしは…急性微衰弱病、という病気らしいですの」

「聞いたこと、ないな」

「そうでしょうね。なにせ1年前の学会で初めて発表された病気ですから」


 急性微衰弱病。

 体が少しだけ衰弱し、一定の期間を経て突然死する病気らしい。

 今までは謎の突然死だったが、『命』の研究によって病気であることが判明した。

 ときに心臓の発作を伴うという。


「昔から病弱ではありましたが、まさか14歳にして死を迎えるとは思ってもみませんでした」

「そこで俺の出番ってわけだ。俺は望み通り死ねて、お前は生きられる」

「いいえ、それには及びませんわ」

「…というと?」

「わたしは…世間知らずと言われると腹が立ちますが、それでも言い返せませんの。だってわたしは病弱で、学校に通えたことなんて一度もありませんでしたから。結果、わたしはペットボトルすら知らない有様です。そのまま14歳になった世間知らずが、天原グループを継げるわけないでしょう」

「まあ、なあ」


 そうは言ったものの、天原グループの経営がどんなものかは想像できない。

 このみの父である宗一郎は時折テレビで見かけた気がする程度だ。


「でも、お前の両親はお前に生きてもらいたいと思ってるんだろ?」

「そのようですわね。でも、なんでこんな穀潰しなんかを助けたいと思うのか、不思議ですわ」

「穀潰しってなぁ…親っつーのは子供をなんとしてでも助けたいって思うもんなんじゃないのか?俺が最初に来たあの日、おっさん言ってたろ?『何億、何兆でも払う』ってさ。お前にはそれくらいかけてもいいって思ってんだよ。いい親じゃん」

「それはそうですけども…」


 このみがそう言った直後、部屋の時計がアラームを鳴らした。

 5時、面談終了だ。


「あら…時間が経つのは早いんですのね。残念ですわ」

「気にするなって。明日だってあるだろ。じゃあな」

「少しお待ちになってください」


 呼び止められた俺は、ドアを開ける直前で振り向いた。


「明日からは、『お前』じゃなくて『このみ』と呼んでくださいませんか?」

「…わかった。じゃあな、このみ」


 俺は明日ではなく、今この瞬間から呼んでやった。

 このみの少しだけ驚いた顔が見れたので、満足だ。

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