Recycle of the life #2

 数日して、いよいよ面談の日になった。


「ということで、出かける準備をしてください」

「面談ってここでやるんじゃなかったのかよ」

「面談の場所は病院かサナトリウムがほとんどですよ」


 私は由樹を助手席に乗せ、車でその病院へと向かった。


「その、俺がこれから会う『生きたい側』ってのは、どんな人なんだ?」

「偶然にも、あなたと同世代の少女だそうですよ」

「へぇ…」


 由樹は興味がなさそうに呟いた。


「さて、到着しましたよ」

「近っ!歩いてこれるじゃん!なんで車使ったのさ?」

「2kmは歩ける距離ではありますが、近いというほどでもないでしょう」


 私は由樹を病院へと連れて行った。


 軽くノックをして言う。


「LES仙台の望月です。面談に参りました」


 すると部屋の中から慌ただしい音が響き、大きな音を立ててドアが急に開いた。


「お願いです!どうか私の娘を救ってください!お代はいくらでもお支払いします!何十億、いや何兆でも!医者は全て匙を投げました、もうここしか頼ることができないんです!」

「落ち着いてくださいお父さん!我々は運営費を賄うための数万円しか請求いたしません!それに、今はドナーもいるのですよ!」


 はっ、と気づいたように後ずさったお父さんは、腰を抜かしたようにして椅子に座り込んだ。


「す、すみません…それで…その、ドナーというのは…」

「俺だ」


 由樹が手をさっと挙げた。

 お父さんは目を見開いた。


「こ、こんな子供が、ドナー?」

「今はたまたま死にたい方がほとんどいない時期のようでして。3ヶ月もしたら出てくるかもしれませんが」

「さ、三ヶ月…?無理だ、娘の余命は一ヶ月もない…しかし、こんな子供に、命を提供しろと言うのは、あまりにも酷だ…」

「気にすんなよ。あの…おっさんでいいか?おっさん、俺は未来をなくして死にてーだけだからさ。おっさんの娘は生きれて俺は死ねる。Win-Winの関係だろ?」

「そうは言うが、しかし…」

「さっきから本人を抜きにして話を進めようとしないでくださいな、お父様」


 柔らかな声がやり取りに割り込んだ。

 声はそのまま続ける。


「はじめまして。わたしの名前は天原あまはらこのみ。天原グループ会長の娘で、五億人に一人の奇病で死にかけていますわ」

「俺は天見由樹。そのへんのクソ貧乏な家に生まれて、親父とおふくろが無理して俺に贅沢させようとして、クソデケェ借金抱えて俺に一万円札残して死んで、俺も生きている意味がなくなったんで死のうと思ってるところだ」


 病室にいた全ての人が、端的に語られた由樹のあまりの壮絶な人生に絶句していた。

 日本を牛耳るコングロマリットのトップには想像しようもない人生かもしれない。


「お父様、お母様…わたしなんかの命を救うより、彼を支援してあげたほうがよろしいのでは…?」

「いーんだよ、お嬢様。うちの親父とおふくろはただのバカだったが、悪い親じゃなかった。一応あんなんでも心の支えにはなってたんだ、それが折れちゃいくら金があっても仕方あるめーよ」


 口は悪いが、由樹は本当に親を想っていたのだと伝わってくる。

 それがわからない人は、この場にはいなかった。


「それに…お前らには想像できねーかもしれねーがな、この国にはうちより悲惨な家庭なんていくらでもある。その全部を支援できんのか?もっとも、そんなことしちゃ天原グループが潰れるだろうがな」


 皆の絶句は続く。

 由樹だけは言葉を止めなかった。


「つーわけで、安心して俺の命持ってってくれよ、お嬢様」

「…うーん…ええっと、あなたはLESの望月さん、と言いましたよね?」

「え?あ、はい、そうですが」


 急に私にお鉢が回ってきたので、思わず取り乱してしまった。

 このみは続ける。


「面談の期限って、いつでしたっけ?」

「2ヶ月か…もしくはあなたがお亡くなりになるまでです」

「それじゃあ、あと28日ですわね。検査で余命が細かくわかったんですの」

「そういうことになりますね」

「期限ギリギリまで、天見さんを毎日ここへ連れてくることって、できますの?」

「毎日?それはちょっと…」

「できるぞ。LESからここまでは2kmくらいだからな。毎日通うくらいは朝飯前だ」

「2km…それはそこそこの距離じゃありませんの?毎日歩かせるのは忍びありませんわ…」

「気にすんなって。メシ以外は案外暇なんだわ」


 由樹は軽い調子で言った。


「…それでは、お言葉に甘えることといたしましょう。できれば毎日午前中から来ていただきたいですわ。昼食はこちらで用意いたしますの」

「良いのですか?こちらとしても費用が浮くのでありがたい限りではありますが…」

「これでWin-Win-Win、ですわね」


 そう言って、このみはくすっと笑った。

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