第38話

演奏会は終わった。

私たちの1年間を全て出し切った演奏会が終わった。

感動はしたし、これからの「もう部活動はお終い」に寂しさもあるのだけれど今は唯々演奏会が大成功した喜びに心を震わせている。


葛西くんは一足先に機材を運んでくれていたので今この舞台袖にはいない。

葛西くんに早く会いたい。会ってこの演奏会の話をしたい。


「先輩!」

「ん?おつかれー山下」


「私、先輩とご一緒出来て幸せでした」

そう言って山下は泣いた。


「うん、私も山下が後輩でよかったよ」

私はつられて泣いてしまった。


「橋本先輩もですよ!」

すぐ近くでその様子を傍観していた橋本にまで山下は声をかけた。


「うん、私も二人にはだいぶ助けられたよ。ありがとう」

そう言って橋本は私たちを抱きしめてくれた。そうやって私達には顔を見せないで橋本も泣いているのだろう。それが私たちが3年間で築いてきた関係だ。




「で、浦野。僕たちは筒井さんを呼んでくればいいんだな?」

「頼む!」


「わかった。任せろ」

僕たちには演奏会が終わった後に重大な作戦が残っていた。

ここには新庄も合流してくれた。


「善は急げだ」

そう言ってノリノリの新庄が舞台袖に入っていく。


舞台袖には吹奏楽部の安堵感と感動で充満していた。

北野さんが橋本さん達と抱き合っている。その光景に僕まで感動してしまう。

友情って素晴らしいなって思う。そうしていたら北野さんが僕のことに気づいてくれた。

僕には言いようのない緊張が走った。


「葛西くん!お疲れ様!」

「うん!お疲れ!最高だったね」

「うん!最高だった。それでね、」


「あ、ちょっと待って今から筒井さんを呼び出すから手伝って」

「そうか!そうだった!わかった今行く」


僕たちは低音パートの人たちと話をしていた筒井さんを見つけると「ちょっと一緒に来てくれないか?」と話をして舞台袖から連れ出した。


筒井さんは訝しがりながらもこの集団に北野さんも山下さんも橋本さんもいたので渋々納得して付いてきてくれた。




「なんなの?一体?」

「まぁまぁちょっと駐車場のことで確認したい事があってね」


「は?今更?」

「そうそう」


そう言って葛西くん達は筒井を駐車場に連れ出した。

面白半分で山下と橋本も付いてきている。


「なんですか?これから告白ですか?」


そう小声で尋ねてきた山下を人差し指で制し、事態の推移を見守る。


私たちはみんなで駐車場にいた。そこに浦野くんが登場する。

目配せをして筒井を残して立ち去る。

二人の行方が見える場所に身を隠し見守ることにした。


「あれ?浦野?みんなは?」

「うん、どこに行ったんだろうね?・・・それはそうと、今日はお疲れ」


「え?あ、うんありがとう。て言うかこちらこそお疲れ様」

「大変だったけど、楽しかった」


「ほんとそれ、全く何でこんなに楽しい事はこんなに大変な事と一緒になってるんだろうね」

「うーん、きっとそれが人間なんだよ」


「は?何?どう言う事?」

「いやいや、人間ってね、きっとそうやっていろんな事があって色々と知っていくんだよって事」


「確かに。そうだね、こんな事がなければ浦野達とこんなに仲良くなる事はなかったもんなぁ。ところでみんなはどこ?早く合流して打ち上げしたいな」


「その前にちょっと待って、話したい事があるんだ」

「え?何」


ついに浦野くんが話し始める。こちらまでドキドキしてきた。葛西くんの方を見た。葛西くんも視線に気づいて目があった。二人で苦笑してしまった。


「あのね、筒井・・・さん・・・俺は前から筒井さんの事が好きでした!」


浦野くんがついに告白した。流れる沈黙。


「あ、ごめんなさい」


またしても流れる沈黙。


「あ、うんそうだよね、ごめんなさいだよね。うんうん大丈夫大丈夫」


「ごめん、私は浦野の事そう言う風に考えられなくて、なんかなんて言うか仲間?みたいに思ってたし、北野と葛西の事を見守ってる仲間と思ってたし。なんかそう言う風に考えられない」


「うん、いいんだいいんだ。しょうがないよ」

私たちも落胆していた。告白は失敗に終わった。凄く悲しい気分になった。


「だからさ、友達からでもいいかな?」


「え?ほんと?それでもいいの?」


「うん」


「ありがとう、本当にありがとう。一生、大事にするよ」

「いや、友達だから、勘違いしないでよ」

「そうだよね、でもそれでも嬉しい。とっても。頑張ったら良い事があったな」


私たちも胸を撫で下ろした。凄く嬉しい。凄く嬉しい。友達からでいい、それでいいんだ。


 浦野くんは泣いていた。ちょっと驚いたけれど、おめでたい。私達は浦野くんのもとへ向かい「おめでとう」を言いに行った。

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