第二十三話 オータムフェスタ編(その8) 不思議な友達と打ち上げ花火
「……はぁ。兄様達がやっと帰ってくれた……。なんだかとても気疲れしたよ……。」
「確かに、知ってる人がお客さんだと、ちょっと変な感じですよねー。私も魔法中学の授業参観にお父さんが来たときは緊張しましたよー。」
「……さて、そろそろ良い時間だし、お店を閉めてお祭りの方に行こうか。今日はどこへ行く?」
「……そう言えば17時くらいに、カルサ城に居る魔導砲兵隊が高射砲で花火を打ち上げると聞いたよ。もし良かったら、皆で見に行かないかい?」
「……こうしゃほう?なんじゃそれ。」
「空を飛ぶ敵を撃墜するための大砲だよ。翼竜兵や観測気球を攻撃できるように、高い仰角が出せたり砲塔の旋回速度が早かったりするよ。時限信管によって空中で榴弾が炸裂して、広範囲に攻撃するんだって。」
「うぅ……。そんな恐ろしい物に撃たれたくはないのう。」
「そうだね……。私は花火で皆を喜ばせる方が、良い使い方だとは思うよ。」
「花火ですかー!良いですね!どこで見ましょうかねー?この辺りは人通りが多くて、ゆっくり見れなさそうですし……。」
「……うーん。あっ!それなら、いい場所を知ってるよ。僕の知り合いがやってる魔法用品店なんだけど、バルコニーから花火がよく見えるんだ。」
「ああ!ウィスピャさんのお店ですね。私もたまに買い物に行きますよ。」
「こんな大人数で、押し掛けて大丈夫なのか?」
「喫茶店のカーテンとか大きい洗濯物干すとき、バルコニーを貸してもらったこともあるし、多分上げてもらえると思うよ。とりあえずさっさと片付けちゃって、花火を見に行こう。」
「そうするのじゃー!」
そのお店はカルサの西側、道具屋通りから一本入った裏通りにある。老舗の魔導書店や、魔法用品店が集まるこの路地を、魔女の黒猫小路という。
その昔、魔法が技術や化学ではなく、まじないや信仰、呪術としてエルフなどの一部の種族にだけ伝わっていた時代、一匹の紅瞳の黒猫を連れた天才魔女が、この通りに構えた研究所で魔術の研究を行ったという。その魔女は実用的な治癒魔術を数多く開発し、魔術医療技術を大いに発展させた。その魔女は遠い昔に亡くなったが、魔女が飼っていた黒猫の子孫は今も魔女の黒猫小路に住み続けている。因みに、この小路で魔女の黒猫の血を引いた紅瞳の黒猫を見れた人には、幸運が訪れると言われている。
さて、先述の魔法用品店に到着した。少し煤けた白煉瓦の壁にセイヨウキヅタ(アイビー)の蔦が張り巡り、オシャレな金色の取っ手が付いた木のドアには、三日月の模様が描かれたペンタクルに『ストレンジ魔法用品店』と文字の入った看板が掛かっている。
「こんばんはー。ウィスピャちゃん居ますか?」
「ぅうん、お客さん?……あっ、シルト♪ひひっ、ぇへへへへ……おひさぁ。」
店の奥のカウンターで店番をしている女の子は、僕の元同級生であるウィスピャ・ストレンジちゃんだ。髪はセミロングの青紫の癖っ毛で、同じく青紫の瞳は四白眼でいわゆるギョロ目と言うやつだ。背丈は僕より少し小さく、大体首が左右どちらかにやや傾いている。……初めて会ったときはその見た目と言動に驚くが、ちょっと変わってはいるものの、魔法が得意な普通(?)の女の子だ。
「今日は友達を連れて来たんだけど、オータムフェスタの花火が見たいから、バルコニーに上がらせてもらってもいいかな?」
「いひっ。……いいよぉ。使って……自由に。」
「ありがとう。じゃあ、お邪魔するね。」
「お邪魔しますなのじゃ。初めましてじゃな。シルトの友達のフィリゼ・ミレニアじゃ。よろしく頼むぞ!」
「ルーヴ……です。……よろしくお願いします。」
「同じくシルトの友人のミルトニア・レア・ルエルです。よろしくお願いします。」
「ぅん……ひひっ。ともだち……沢山……よろしくねぇ♪」
「ウィスピャちゃん!久し振りですー!」
「ぅあ……リリィ♪最近、来なかったから……。ひひっ……嬉しい。」
「……それにしても、凄いお店じゃな。大した品揃えじゃ……。」
店内は天井が高くなっており、図書館の本棚のように並ぶ大きい棚には、様々な魔法用品が並んでいる。スクロールや魔力結晶、魔法陣や魔導書用特殊インクに蝋燭、薬釜にアルコールランプ、古代魔法言語辞典に、大きなフクロウの置物まで……。
と、何かに気づいたルーヴが、棚の一点を見つめる。
「グルルルルルルゥ!!」
「どうしたのじゃ、ルーヴ?」
すると、棚に置いてあったフクロウの置物が、大きく翼を広げた。
「うわっ、びっくりしたのじゃ!」
「この子、本物の鳥だったのか……。動かないから置物かと思ったよ。」
「ひひっ……その子は、モフモフクロウの『ヨカゼ』……だよぉ。うちの……使い魔。凄く……長生きで、物知りなんだよ。」
ウィスピャが腕を出すと、ヨカゼがバサバサと羽ばたいて腕に留まった。
「ひひひ、良い子。はい、あーん。」
「あっ、その餌って……。」
「いひひっ……ネズミの肉だよ。血抜きしてない肉じゃないと……栄養が足りない……から。」
「……さすがは猛禽類じゃな。妾は生肉、あんまり好きじゃないのじゃ。」
フィリゼがヨカゼの頭を撫でると、ヨカゼは何かに気がついたようで、首をぐるっと回して、ウィスピャへ話しかけた。何を話してるのかは全然分からないが、何となく会話していることは分かる。
「……そう、やっぱり。ひひっ、いひひひひ。嬉しい。」
ウィスピャは満面の笑みでフィリゼの肩を掴むと、顔をグイッと近づけた。……ちょっと怖い。
「……あなた、ひょっとして……ドラゴン?」
「なんと!バレてしまったの。……その通り、妾は光竜種の竜人じゃ。」
「……ヨカゼは昔、ドラゴンに会ったことが……あるらしい。……あなたと同じ……光竜に。」
「ほぅ、それは偶然じゃな。まぁ、ドラゴンである事を除けば、普通の女の子じゃ。仲良くしてくれ。」
「ぇへへへへ。……こちらこそぉ。」
ウィスピャのお店のバルコニーは三階の半分で、いわゆるルーフバルコニーと言う奴だ。このあたりの建物の中では割と高く、空がとてもよく見えた。
「あっ、始まるみたいですよ!」
カルサ城の方から、白い光の筋が放たれ空を駆ける。それはカルサの街の空高く舞い上がり、夜空に大輪の華を咲かせた。続いて、カルサの街を囲む城壁の至る所から次々に花火が放たれ、カルサの空を彩ってゆく。赤、青、黄色、橙、緑、桃色、紫。空に七色の光の華が咲き乱れる。
「うわぁ……!綺麗だね。」
「ですですー!」
「凄いのじゃ!一応毎年見ていたが、ここまで綺麗に見えたのは初めてじゃ。」
「……凄い、きれい。」
「とても……美しいね。なんだか、夢のようだ。」
空を彩る花火、周りには親しい友達。こんな夢のような時間が、ずっと続きますように。……なんて、思ってみたり。
「ん?ウィスピャは何をやっているの?」
「……うちも、ドデカいのを……一発。」
ウィスピャは床に大きな魔法陣をチョークで描くと、魔力を注ぎ込み、魔術を発動させた。すると、大きな光弾が大空へ打ち上がり、とびきり大きなフクロウの花火になった。
「おぉ!ウィスピャちゃん、凄いです!じゃあ、私も……!」
リリィが少し長めの呪文を唱え、腰に付けた携帯用の小型ロッドで黄緑色の光弾を打ち出した。空に打ちあがった光弾は蔦のように空へ広がり、光の粒子になって弾けた。
「おお!凄いな。じゃあ、妾も・・・・・・。」
今度はフィリゼが上を向き、大きく口を開けると、空気を振動させながら白い光のエネルギーを凝縮する。やがて臨界に達したエネルギーは轟音を轟かせ爆風を生み出しながら、白い光の光線〈ブレス〉となって空高く放たれた。そして、天頂に到達したブレスは弾け飛び、無数の煌めく光の筋となって街に降り注いだ。
「うわぁー!綺麗ですねー!」
「ちょっ!やりすぎじゃない?流石にバレちゃうよ。」
「……ふふっ、でも綺麗じゃないか。ほら、弾けた光が流れ星みたいだよ。」
「まぁ、確かに……。凄く……綺麗だ。」
「じゃろう!」
フィリゼのブレスに釣られたのか、街の至る所から誰かが打ち上げた、思い思いの花火が空にあがる。魔導砲兵隊の打ち上げた花火のような、計算された美しさではないが、とても賑やかで、この街らしい美しさだ。
「……たまにはこんな花火も、悪くないかもね。」
……そうして夜は更けていき、カルサの街の賑やかなオータムフェスタは幕を閉じたのであった。
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