第二十二話 オータムフェスタ編(その7) ピザは空飛び兄来たる
今はお昼前のお客さんが少ない時間帯。喫茶シルリィは昨日よりお客さんも少なく、しばしの休憩時間となっていた。
「ふと思ったんだけど、シルトはピッツァの生地をクルクル回すアレは出来るのかい?」
「あー。……一応出来るけど、カウンターの中が狭いのと、普通の生地だとすぐ破れちゃうからあんまりやらないかな。」
「そう言えば兄さん、昔お父さんに習って練習してましたもんねー。」
「うーん、覚えたはいいものの、僕は麺棒の方が延ばしやすいしなぁ……。」
「ピザを回す……どういう事なんじゃ?」
「あぁ、リタリアではピッツァの生地を延ばすとき、円盤状の生地を回転させながら放り投げて薄く伸ばす事があるんだよ。」
「なんと!それは凄そうじゃな……。」
「……見てみたい……かも。」
「じゃあ、実際にやってみようか?」
「それは嬉しいのじゃ!是非見せてくれ!」
「了解。ちょっと待っててね。」
寝かせてあったピッツァの生地を魔冷庫から取り出し、打ち粉をした台の上で軽く伸ばし、麺棒である程度形を作りながら円盤状に整えていく。軽く伸ばした生地を手に取ったら、両手に交互に叩きつけ更に薄くする。
「流石と言うか何と言うか……手際が良いの。」
「そんなに難しい事じゃないから、毎日やってれば自然と馴れるよ。」
「いや、兄さんは特に上手いですよー。私も何度か試しましたけど、パンやパイとはまた勝手が違っててけっこう難しかったですね……。」
「よいしょっ。とりあえず広い所に行って……それっ!」
シルトが右手で生地を回し軽く飛ばすと、ピザ生地は遠心力で広がりながら宙を舞った。
「おお!ピザが飛んだのじゃ!」
「かっこいい……。」
そして、左手でしっかりキャッチ。それを3回程繰り返すと、ピザ生地は普通のピザに丁度良い位まで広がった。
「……っと、こんな感じかな。これ以上も伸ばせるんだけど、生地が破れちゃうし魔導窯に入りきらないからここまでね。」
「うん、凄かったよ!これ、一度見てみたかったんだ。シルト、ありがとう。」
「思ったんですけど、兄さんのピザ回しをお客さんの前でやってみたらどうですか?『職人技!マスターのピザ回しショー!』……みたいな感じですよー。きっとお客さん喜んでくれると思いますよー?」
「……ピザくるくる。……凄く……面白かった。」
「そうだなぁ……夜のバータイムは飲みのお客さんが多いから、もっとディナーで食べに来てくれるように、ピザ回しショーやってみるかな……。あとは、簡単なフレアバーテンディングとかなら出来るかな。」
「その……ふれあなんちゃらって何なのじゃ?」
「フレアバーテンディング。曲芸をしながらカクテルを作るパフォーマンスだよ。昔父さんに教えてもらったんだ。あんまり難しいのは出来ないけど、基本的なのは出来るよ。」
「おお!それは凄いな。……と言うか、なんでそんなに凄い事出来るのに、妾と飲んだ時は見せてくれなかったのじゃ……?」
「ごっ、ごめんね。隠してた訳じゃないんだけど、まだ完璧に出来る訳じゃないから……。ショーをやるとしても、失敗した時の為にリリィに飛翔魔法でバックアップしてもらわないとね。お酒は結構高いから、割ると痛いんだよね……。」
「すっ、すまない……この前うっかり落として割ったワイン、高い物だったんだろう?」
「だっ、大丈夫だよ。そんなに高い物じゃ……無いこともないんだけど……。まっ、まぁミルトがケガしなくて良かったよ。それだけはお金に変えられないからね。」
「……シルトは本当に優しいな。ありがとう。」
「……ミルトニアは割れ物を持つと落とす呪いでも掛かってるのじゃろうか……?」
さて、時間はまもなくお昼時。ランチを食べに、お客さんが沢山来る忙しい時間帯だ。
「いらっしゃいませー!あっ、ペノさん!」
「こんにちはー!今日はこの間のカルボナーラが凄くおいしかったので、姉達を連れてきちゃいました!」
「ああ、パノとピノを……って、お兄様!?」
「やあ、ミルトニア。パノ達がミルトニアが働いてるお店に行くと聞いたから、僕達もご一緒させてもらおうと思ってね。」
「おー、可愛い制服だね。一度ミルトニアが働いている所を見てみたかったんだよ。」
「なっ、なんで兄様達が……来られるならちゃんと言ってくれないと!」
「ふふっ、それだと色々と気を使わせてしまうと思ってね。……おっと、失敬。自己紹介がまだでしたね。私はミルトニアの長兄、ルークス・レア・ルエルと申します。」
「同じく、ミルトニアの次兄、イグサム・レア・ルエルです。妹がいつもお世話になっています。」
「私はルークス様の専属メイド、パノ・フラットと申しますわ。うふふ。よろしくお願いいたしますね。」
「私はイグサム様の専属メイド、ピノ・フラットと申します。……以後お見知りおきを。」
「えとえと、パノとピノは私の姉でして、三姉妹でそれぞれルークス様、イグサム様、ミルトニア様にお仕えしているんです。本当にすみません、大勢で押しかけてしまって……。」
「あぁ!ミルトニアのお兄様方でしたか。こちらこそ、ミルトには本当に世話になってます。狭い店ですが、ゆっくりしていって下さい。ささ、お好きな席にどうぞ。」
「ふふっ、お気遣いありがとう。でも今日はパノ達の昼食に付いて来ただけのただの客ですから、あまり気を使わないで結構ですよ。それに、父上の行きつけの店と聞いていて、前から一度来てみたかったんです。」
「ミルトニアの働いている所も見てみたかったし、噂のシルト君に合ってみたかったからね。」
「噂?僕がですか?」
「ああ。ペノがミルトニアと君の事を色々と話していてね。ミルトニアにもようやく春が来たと、母様も喜んでいるよ。シルト君、どうか妹をよろしく頼むよ。」
「にっ、兄様!?///」
「えぇ、こちらこそ。ミルトニアは僕が責任持ってお預かり致します。」
「……だってさ。良かったな、ミルトニア。」
「うぅぅ……!とにかく兄様達はそのニヤニヤした顔を止めて下さい!!///」
「ふふっ、すまないね。……さて、まずはお昼だ。とりあえず僕達はペノにお任せするとするよ。元々ペノの誘いだしね。」
「ここの店は、どういう料理が美味しいのか?
「そうですねー!リタリア系の料理が中心なので、パスタなどはとても美味しいですし、チーズがとても美味しいので、ラザニアやマカロニグラタン、カルボナーラが絶品です!あとは、魔導窯でサクッと焼き上げる、本格的な窯焼きピッツァは外せません!あと、私は食べたことが無いのですが、シルトさんが山で狩ってきたクロツチイノシシやエダツノシカの肉料理も美味しいらしいですよー!」
「うふふ、カルサ城の名誉味見係のペノがそこまで言うなら、きっと間違いないでしょうね。」
「確かに。食べる事なら右にでる者の居ない、食いしん坊歴16年のペノの舌は伊達じゃないわ。」
「……それ、誉めてるんです?」
「もちろん誉めているわよ!ペノは一口食べた料理は、材料から隠し味まで全て分かってしまうんですもの。」
「あとはその味覚を料理に生かせれば満点だけどね。ペノはもう少し、食べる以外の事も覚えたら?」
「うぅ……一応練習してるんですけど、料理の方はまだ苦手で……。」
「まぁまぁ……ペノもよく頑張ってくれているよ。今日は私の奢りだから、好きなだけ食べなさい。」
「いやいや、兄上だけに出させる訳にもいかないし、俺も出すよ。パノもピノも遠慮しないでいっぱい食べるといい。」
「わぁぁ!ルークス様!イグサム様!ありがとうございますー!」
「まぁ、お気遣いありがとうございます。」
「ご配慮、痛み入ります。」
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