第二十一話 オータムフェスタ編(その6) 酒の余韻は二日酔いと共に
カラーンカラーン。カルサ城の鐘楼から鳴らされた、優しい鐘の音が街に朝を知らせる。カーテンを空けると、登り始めた朝日が眩しい光を放っていた。
「うぅーん……はぁ。流石に結構眠いなぁ……。まぁ、昨日は楽しかったから、仕方ないか。」
昨晩は、お酒を飲んで寝てしまったフィリゼとミルトを喫茶シルリィまでつれて帰り、フィリゼはルーヴと同じ客室(元両親の寝室)のベッドに、ミルトはリリィのベッドに寝かせておいた。そのせいもあって、今朝は若干筋肉痛なのだが……。自分の部屋を出ると、部屋から出てきたリリィと合った。
「あっ、リリィ。おはよう。」
「兄さん!おはようですー。」
「ミルトの方は大丈夫だった?お酒は初めてだし、そんなに沢山は飲ませなかったけど……。」
「ミルちゃんは大丈夫ですよー。とっても気持ち良さそうに寝てましたね。寝顔が可愛かったですー♪……ふふっ、今ベッドで寝ているので、兄さんが起こしてあげたらどうですかー?」
「そうだね。ミルト、入るよー。」
リリィのベッドには、ミルトが穏やかな表情で眠っていた。いつものミルトなら見せないような緩んだ寝顔は、子供のようでとても可愛かった。
「おーい、ミルトー。もう朝だよー。」
「うっ……うぅん……シルト?」
「あっ、起きたね。おはよう、ミルト。」
「……お、おはよう。……そうだった、昨日はフィリゼとシルトと私でお酒を飲んだんだったね。つい楽しくなっちゃって……頭がふわふわしてきて……それでシルトに……はっ!?///」
「どうしたの?顔が赤いけど……。」
「なっ、何でもないよ。さっ、さあ。もう起きたから、早く出ていってくれ。///」
「ミルト?どっ、どうしたのさ?」
「いいから、早くっ!///」
「えぇ……。」
「私としたことが……あんなに恥ずかしい事を……。うぅぅ……。///」
せっかく起きたのに、ミルトは布団を被って丸まってしまった。まぁ、とりあえず起きたようなので、部屋を後にする。
「ミルちゃんどうでしたー?寝顔可愛かったですよね?」
「うっ、うん。でも、起こしたらなぜか追い出されちゃったよ。」
「あはは、ミルちゃんも照れ屋さんですねー。……あっ、ちなみに昨日も、寝言で兄さんの事呼んでましたよ?」
「なんで僕の事?」
「さぁ?何ででしょうねー。」
「むっ、リリィ何か知ってるでしょ?」
「兄さんにはおしえませーん。自分で考えて下さいー。」
「むぅぅ……何だろう?」
二階に降りて、洗面所に行くと、フィリゼとルーヴが起きていた。
「おっ、フィリゼ、ルーヴ。おはよう。」
「……おはよう……です。」
「おお!シルト、おはようなのじゃ。昨日は寝てしまったみたいで、色々とすまなかったの。」
「いや、別に大丈夫だよ。今日は二日酔い大丈夫なの?」
「ふっふっふ……。こんなこともあろうかと、今日は二日酔いの薬を作って持ってきたのじゃ!頭痛、吐き気や胸のむかつき、記憶抜けも一瞬で治るオリジナルの飲み薬じゃよ!妾はお酒を飲むと、どうも飲んでいた時の事を忘れてしまっての……。じゃからこの薬を新しく作ってみたのじゃ。では早速……。」
フィリゼは丸いポーション瓶に入った、オレンジ色の薬を飲み干した。光魔法が発現し、光のエフェクトが発生する。
「ふぅ、すっきりしたのじゃ!昨日の記憶も……記憶も……はぅっ!?///」
「ん?どうしたの?」
「いっ、いや。昨日の事を色々思い出してきての……。うう……あんなに子供っぽくはしゃいで……思い返すと、色々と恥ずかしいのじゃ……。///」
「……ご主人様……だから飲み過ぎないでって……いつも言ってる。」
「うぅ……すまないのじゃ……。」
「あはは……。まぁ、自分の為にも、飲み過ぎには気をつけようね。」
「……お酒は飲んでも、飲まれちゃダメ。」
「面目ないのじゃ……。」
皆が起きたところで、まずは朝食だ。今日の朝食は、リテラ姐さんの所の美味しいパンとゆで卵サラダ、ベーコンエッグとカフェオレだ。
「このパンはリテラ姐さん……あっ、お隣のパン屋のお姉さんなんですけど、その人から貰った物なんです。昨日、パン屋さんを手伝ったので、お礼に頂きましたー。」
「おお、お隣さん同士で助け合えるのは良いことじゃな。妾のお店は山の中じゃから、お隣さんが居ないのじゃ。そこは少しうらやましいの。」
「……パン……もちもちしてる。」
「リテラ姐さんの所のパンは、本当に美味しいよね。行列が出来るのも納得だよ。」
「……うん、すごく美味しいよ。その、シルトのカフェオレにも良く合ってる。」
「そうかな?ありがとう。」
朝ご飯も食べ終わり、制服に着替えたらお店の開店準備だ。オータムフェスタも二日目で、今日も忙しい日になりそうだ。
「……フィリゼさんはこの後どうしますかー?」
「うーむ、これといって特に用事は無いの。……そうじゃ!もしよかったら、喫茶店のお手伝いをさせてくれんか?シルト達には色々お世話になったから、何かお返しがしたいのじゃ。料理や皿洗い、配膳位なら何でもするぞ。」
「……お手伝い……する。」
「わー!それは嬉しいですー!あっ、それだったら良い物がありますよ。ちょっと取ってきますね……。」
店の更衣室兼物置に入っていったリリィが持ってきたのは、大小二着の喫茶店の制服だ。
「あー、それまだ取っておいてたんだ。懐かしいね。」
「えっと、これは私が小さい頃着ていて、今では小さくなってしまった制服のお古なんですけど、たぶんルーヴちゃん位だとピッタリだと思って持ってきましたー。これ、着てみませんか?」
「んっ。」
ルーヴは元気に頷いた。
「フィリゼさんは私の制服の予備があるので、これをどうぞー。多分フィリゼさんも着れると思いますよー。」
「ありがとうなのじゃ!じゃあ早速着替えてくるのじゃ。」
「いってらっしゃい。」
先に帰ってきたのは、ルーヴだった。子供サイズの制服を着て、少し嬉しそうに胸を張っている。
「わー!よく似合ってますよー!」
「本当にお人形さんみたいだ。とっても可愛いよ。」
「……むふー。」
「あっ、ドヤ顔してる。」
「昔の制服とっておいて正解でしたねー。」
そして、少し遅れてフィリゼがやってきた。
「おっ、お待たせなのじゃー。これ若干だぼっとしちゃってるのじゃが、大丈夫じゃろうか……?」
シルリィの制服を着てきたフィリゼだが、フィリゼの方が少し身長が低いせいか、少し大きかったみたいだ。でも、それ程違和感は観じない。
「……いや、特におかしくは見えないかな。すごく似合ってるよ。」
「えへへ、ありがとうなのじゃ。……この制服、シンプルじゃけど、レースが少しフリフリしてて、なかなか可愛いの。」
「ここの制服は、リリィが仕立てた物なんだ。私もすごく気に入っているよ。」
「そうですかー?なら、作った甲斐がありましたねー。特にミルちゃんはスタイル良いから、よく似合ってますよー!」
「そっ、そうかな?ありがとう。」
「まぁ、あとは左腰に物騒な物下げてなければ、最高だと思うんだけど……。」
「うっ……す、すまない。昔からの癖で、どうしても剣を持ってないと落ち着かなくて……。」
「まあ、それはしょうがないけど、虫が出たときにリリィと一緒にパニクって、店内で真剣振り回すのだけは勘弁して欲しいかな……。」
「ううっ……本当に申し訳ない。」
「でもあの虫、素早くカサカサ動き回って、本当に怖かったんですよー!」
「あぁ……あそこの壁の刀傷、そう言うことじゃったのか……。」
「……虫さんは……森に住んでれば……慣れる。」
「……あはは。……今度修理しないとなぁ。」
喫茶シルリィの開店は朝7:00からだ。店のドアの看板を裏返し、一番客を迎え入れる。
「「いらっしゃいませー」」
「おや、見ない子が。君たちはお手伝いかね?」
「今日だけお手伝いさせてもらっている、フィリゼ・ミレニアなのじゃ。よろしくお願いするのじゃー!」
「おやおや、元気が良いね。結構結構。」
「……フィリゼ、うまくやってるね。元々お店やってるし、慣れてるのかな。」
「そうですねー。あっ、ルーヴちゃんは、お店出るのがちょっと恥ずかしいみたいなので、ミルちゃんと奥で洗い物してますよー。」
「はぁ、人手が多いと本当に楽だよ。新しく誰か雇うかなぁ……。」
「新しい人……良いですねー!そうすれば兄さんの負担も少し減るでしょうし。」
「リリィも、いつも苦労かけてごめんね。」
「……苦労だなんて、思ってませんよ。兄妹で助け合うのは当たり前です。兄さんこそ、いつも一人で抱え込んで無理してるんじゃないですか?……最近、いつもより疲れてるの、ちゃんと知ってるんですからねー?私が居るんですから、ちゃんと頼って下さいー!」
「……ははは、リリィに隠し事は出来ないね。ごめん。……あと、ありがとう。頼りにしてるよ。」
「任せてくださいー!」
「……あれ?そういえば、誰がお皿洗ってるって言ってたっけ……?」
「……ルーヴちゃんとミルちゃんですねー?」
「「あっ……。」」
\ガッシャーン!!(お皿の割れる音)/
「ミルトぉーーーーーー!!!!」
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