第十九話 オータムフェスタ編(その4) マーケットは宝探し

 シルト達は、オータムフェスタのマーケット会場である東西通りに来ていた。東西通りはその名の通り、カルサの中心を東西に横断する大通りだ。元々は火災の延焼を防ぐために作られた幅の広い通りで、道の中央に植え込みと芝生のスペースがある。そこに各地から集まった商人や個人が店を出し、様々な商品が取引される大規模なマーケットが開かれるのだ。ドゥオキデム中、いや、世界中の様々な商品が売られるそのマーケットは、見ているだけでもとてもワクワクしてくる。


「今年もマーケットは凄い賑わいだね。人も多いし、物も多い。道具、家具、雑貨、武器。美術品や食品まである……。」

「本当に色んな物が売ってるんだね。つい、目移りしてしまうよ。」


 と、この巨大マーケットに蘭々と目を輝かせる少女が二人……


「なんと!天然もののギンユキゴケがこんなに入って1シルバーじゃと!?お買い得過ぎるのじゃ!」

「わぁー!!この布、凄く上質な生地ですよ!肌触りが最高ですー!!」

「この薬研、ミスリル合金製じゃな!?耐久性もさることながら、なかなかに手に馴染む良い造りじゃ……。これ、一個買うのじゃ!」

「この裁ちばさみ、切れ味が最高ですー!うちのハサミもそろそろ買い換えたいですねー。すみません、これ一個頂けませんか?」


 マーケットの人混みをものともせず、フィリゼとリリィは自らの買い物に没頭していた。


「まぁ、買い物好きにはたまらないよね。こういうマーケットって。」

「私はあまり買い物はしないのだけど、こうやってブラブラしながら掘り出し物を探すのも、なかなか良いものだね。」

「……おもしろい。」

「あっ、シルト。少しそこのお店を見ても良いかな?」

「うん、全然良いよ。」


 ミルトが見つけた青いテントの古武器屋は、店の中に斧や剣、メイス(殴打武器の一種)やハルバード(槍の先に斧が付いた武器)など、様々な武器が雑多に並べられていた。


「よう!お嬢ちゃんいらっしゃい!今日は何を探しに来たんだ?」

「ちょっと掘り出し物を探しにね。気に入った物があったら買うかもしれないよ。この辺の剣は、抜いてみていいかい?」

「おう!冷やかしでも良いからじっくり見てきな。」

「わぁ……凄い数の武器だね……。」

「……キラキラしてる。」

「……うん。ここの武器はよく手入れしてあって、保存状態がいいよ。刃もよく研げてる。これはご主人が研いでいるのかい?」

「おう!その通りだ。若い頃武器鍛冶で修行したことがあってね。うちの武器は俺が綺麗に研いでるぜ。」

「どうりで刃が綺麗な訳だね。反射して景色が写り込むくらい綺麗だ。少し鈍い光り方から見て、このブロードソードはオリハルコン系の合金鋼だね。年代は……50年程前、北東戦争の頃かな。材料からして当時はきっと高かっただろうね。」

「おっ、よく分かってるねぇ。そいつは刀身が若干痩せるくらい使い込まれちゃぁいるが、まだまだ丈夫な良い剣だぜ。」

「こっちは……ブルーメタルのレイピアだね。柄とナックルガードの装飾がかなり凝っているね。時代的には70年位前かな?当時の貴族とかが使っていたのかもしれないね。」

「おっ、嬢ちゃん。そのレイピアは止めといた方がいいぜ。なんか呪いがかかってるみたいで、いっつも足を引っ掛けて転んじまう……。立てておいても、いつの間にか動いて床に転がってるんだよなぁ。」

「なんだそのねちっこい呪い……。」

「……めんどくさい剣。」

「嬢ちゃんが腰に下げてる剣も中々上物に見えるな。ちょっと見せてみな。」

「この剣かい?この剣は私のご先祖が使ってた剣で、私が騎士団に入る時にお祖父様から貰った物だよ。長さ的にはショートソードとロングソードの中間みたいな剣なんだけど、騎士が良く使うから、仲間内ではナイトソードなんて呼んでるね。ただ、材質が見たこと無い素材で、丈夫なんだけど軽くて使いやすいよ。」

「……どれどれ……ん?おお!こりゃすげえぞ!!お嬢ちゃん、これは純フェルディウス鉱石の剣だ!250年前の魔族反乱戦争の頃に絶滅した、コボルトの金毛族のみが精錬の方法を知ってる幻の金属だよ。フェルディウス鉱石製の剣なんて、この世にもう数えるほどしか存在しない。とんでもない出物が有ったもんだな。」

「そっ、そうなのかい!?大分乱暴に使ってしまったが、そんなに貴重な物だったのか……。」

「うわぁ、凄い剣なんだね……。」

「……伝説の剣?」

「まぁ、フェルディウス鉱石は半端なく耐久性が高いのと、魔力をムチャクチャ良く通す。練習すれば、魔力を纏わせて魔法を発現させながら戦える。こいつは上手く使えばかなり優秀な剣だぜ。有効に活用してやんな。」

「そうか、見てくれてありがとう。大切に使うことにするよ。」

「今日は良いもの見せてもらったぜ。また来てな!」

「どうもありがとう。」


 その後マーケットを散策していると、見覚えのある姿を発見した。


「……あれ、ルーンかな?」

「知り合いが居たのか?」

「うん、僕の友達がお店出してるみたい。おーい、ルーン。久しぶりー。」

「おー、シルトとルーヴちゃん!……それにお友達さんかな。いらっしゃい!」

「・・・・・・エルフのお姉さん、久しぶり。」

「おー!元気にしてた?ハイタッチ、いえーい!」

「いえーい。」

「ルーンはここで何を売ってるの?」

「見ての通り、山で採れたキノコとか、ドングリ、ヤマブドウ、山菜なんかを売ってるんだよー。」

「おぉ、美味しそうだね。……ん?これは?」


 並べられた山の幸に混ざって、平べったい円盤状の様々な色のガラスに、金色の魔法陣が彫り込んである物を見つけた。


「あー、これかー。これはアタシ特製のアミュレット(お守り)だよ。おばあちゃんから教わった守護魔法がかけてあるんだー。うちの家に伝わる古代エルフ魔法だから、オリジナルの限定品だよー!」

「……綺麗。」

「これはなかなか、見た目も美しいね。」

「このアミュレットはどんな効果があるの?」

「んっとねー。このアミュレットは持ち主の魔力を、空気中の微小精霊たちにおすそ分けしてあげて、そのお礼に微小精霊たちがちょっとだけ味方をしてくれるんだよ。例えば、探し物が見つかりやすくなったり、虫に刺されにくくなったり、風邪をひきにくくなったり、ケガがちょっぴり治りやすくなったり、ちょっとした願い事が叶ったり。どの効果も完全な物ではないんだけど、ちょっとした良いことをもたらしてくれるよ。消費魔力も微々たる物だし、おひとついかが?」

「おぉ、それはいいね!色違いでみんなの分を買おうか。じゃあ、5つ下さい。」

「毎度ありー。お代は5カパーだよー。」

「はい、どうぞ。」

「ちょうどのお預かり。また来てねー。」

「……すまない、また買ってもらって。」

「全然いいよ。今日の思い出になるからね。」

「……シルト兄ぃ、ありがと。」

「どういたしまして!さて、まずは二人を捜さなきゃ。」

「いつの間にかはぐれてしまったね……。」

「ちょっと誰かに聞いてみるかな……。すみませーん。このあたりで茶髪で花の髪留めしてるツーサイドアップの女の子と、白髪で髪の長い女の子を見ませんでしたか?」

「あらあら、迷子かい?そんな感じの女の子なら、確かそこの角の絵画商の近くで見たねぇ。」

「ありがとうございます。行ってみますね。」

「ふふっ、お子さん多いと大変ね。夫婦仲良く頑張りなさいよ。」

「ふっ、夫婦!?///」

「あっ……彼女とは夫婦じゃなくて、友達ですよ。今日は友達と一緒にマーケットを見に来てたんです。」

「あらやだ!とってもお似合いだったから、てっきり夫婦だと思っちゃったわ。ごめんなさいね?」

「あはは……。ありがとうございました。」

「……しっ、シルト。その……私達は、お似合いの夫婦……に見えていたのかな?///」

「そっ、そうだねー。まあ、ルーヴもいたし、そのせいかな……。」

「……だっ、だよね。///」

「あっ、あはは……。」

「あー!兄さんいましたー!」

「おお!シルト。探したぞ。ん?二人ともやけに顔が赤いがどうしたのじゃ?」

「いや、何でもないよ。」

「うっ、うん。少し人ごみが暑かっただけだよ。」

「んー?変な兄さんとミルちゃんですー。」


 すると、オータムフェスタを歩き回った疲れが出たのか、ルーヴが眠ってしまった。


「あー。ルーヴちゃん寝ちゃいましたねー。じゃあ、私がシルリィまでつれて帰りましょうか?買い物した荷物も置かなきゃですし……。」

「それは申し訳ないのじゃ。ルーヴは妾がおぶって行くぞ。」

「いえいえ、大丈夫ですよー。フィリゼさんは兄さんとお酒飲みに行きますよね?」

「うむ……かたじけないの。じゃあルーヴをよろしく頼むのじゃ。」

「じゃあお先に失礼しますねー。」

「ありがとうね、リリィ。」


 リリィはルーヴを連れて、一足先に家に帰った。


「僕とフィリゼはこの後酒場でお酒飲むけど、ミルトはこの後どうするの?」

「じゃあ、私も付いていって良いかな?蒸留酒はまだ飲めないけど、ワインとかビールなら飲める年になったからね。私にお酒の飲み方を教えてほしいな。」

「分かったのじゃ。楽しみじゃの!」

「まぁ、お酒は人によって耐性とかが違うから、無理はしないようにね。」



 マーケットを後にして、酒場の集まっている西町の北の飲食店街へ向かうシルト達。祭りの夜は、これからだ。

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