第十四話 シルトとゆかいな旧友たち
「お!いらっしゃい。久しぶり。」
「ふっ……久しいな、我が盟友(アライズ)よ。俺に宿る『邪なる二足竜(イーヴァルワイバーン)』も喜んでいる。」
こいつは僕の学生時代の友人、ヴァインド・ダーシュ。なんかギザギザしてる黒いベルト付きコート(闇魔法教会の制服)にダメージジーンズ(お気に入り)、真っ赤な髪(地毛)に赤い瞳、右目には眼帯(魔眼の制御の為)を着けている、見た目がなんか凄い奴だ。彼は闇魔法の教会に所属する神官で、闇魔法を悪用するものを始末したり、人に害をなす闇の精霊や妖精、悪魔などを倒す仕事をしている。
因みに彼が使う闇魔法は、洗脳や記憶改ざん、拷問や暗殺などに使われる恐れがあるため、高位の闇魔法は教会に所属するものにしか教えられず、他言や悪用をすると即座に追手が放たれ始末されるらしい。
彼は生まれつき闇の眷属(闇魔法を司る精霊の一種)を従えることが出来る体質を持っており、『邪なる二足竜(イーヴァルワイバーン)』を左手に宿して、人知れず悪と戦っている。ちなみに本人は隠しているが、彼がひっそり呼んでいるワイバーンのニックネームは『ヴァルくん』だ。
見た目や口調はまあ……アレだが、根は優しくて良い奴だ。
「エスプレッソを一杯……なんて言わなくてもお前なら分かるか。」
「勿論、忘れてないよ。はい、お待たせ。」
「ふっ、懐かしい味だ。」
(……プルプルしてる……無理しないでミルク入れればいいのに。エスプレッソただでさえ濃いんだから……。)
「シルト、レイルの奴はまだか?」
「レイルは仕事が終わってから来るって手紙に書いてあったよ。なんでもリギリスに2年間留学して、鉄道とか言う乗り物の技術を学んできたとか。ドゥオキデム中央政府の鉄道建設プロジェクトで主任技術者をやってるらしいよ。」
「ほう、それは初耳だな。奴も選ばれし者(チョーズン・パーソン)と言うわけか。」
「18歳で主任技術者なんて、大出世だよねー。」
「まあ、ある意味あいつらしいな。昔から大の機械マニアで、オタクで、物知りで、いつも学校の成績はトップで。しかもエロい事大好きで。なんとも変わった奴だった。」
「ああ……そうだった。初等学校に成人向けの雑誌持ち込んだりしてたね。本当に……なんというか。」
「『バカと天才は紙一重』とはああいう奴の為にある言葉なんだろうな。まったく。」
「んんー?誰かバカだってー?」
「!?いつの間に。遅かったじゃないか。」
この薄い金色のブロンドヘアに、黄色の瞳、ワイシャツとベージュのベストを着た癖っ毛頭が僕の学生時代の友人(二人目)のレイル・ハドソンだ。
「ごめんごめん。お詫びはコレで勘弁してね。ジャジャーン!本場リギリス産スコッチウイスキーです。」
「おお、凄いね。ヴァっちゃんはお酒飲める?」
「酒はそれほど得意じゃないが、せっかくだ。今日ばかりは飲もう。」
「おっけー。皆飲み方はどうする?」
「俺は薄めのハイボールで頼む。……それと、こいつにも飲ませてやりたいんだがいいか?」
ヴァインドの左手に魔法陣が浮かび上がり、子犬程の大きさのワイバーンが召喚された。
「主ノ、盟友ノ方々。我ハ主ニ仕エル闇の眷属。以後オ見知リオキヲ。」
「うお!喋った!」
「俺の使い魔、『邪なる二足竜(イーヴァルワイバーン)』だ。こいつは酒と肉が好物でな。」
「じゃあ、その子の分も平たい皿か何かに注ごう。うーん、僕もハイボールにするかな。レイルはどうする?」
「じゃあ、オン・ザ・ロックでお願い。キンキンに冷やしてね。」
「了解。」
カウンターで皆の分の酒を作る。いつもやっていることだが、客が昔の友人達だと、いつもとは違って感じる。
「こうして皆でお酒を飲める日が来るなんて、考えたことも無かったよ。」
「ちょっと前まで中等普通学校で学生やってたと思ったら、もう成人だもんね。(ドゥオキデム王国では18歳で成人)いやー。仕事も大忙しで大変だよー。」
「お前は鉄道技師だったな。……そもそもの話なんだが、鉄道ってなんだ?」
「えっとね、二本の鉄の軌条、つまりレールの上に、フランジっていうつばのついた車輪で走る乗り物だよ。鉄道の凄い所は、馬車や荷車より少ない力で一度に大量の荷物や人を運べることなんだ。鉄製の車輪は変形が少ないから路面抵抗がとっても小さいんだよ。」
「へぇ、便利な乗り物なんだね……。はい、お待たせ。飲み物できたよ。おつまみはドゥイツ産ソーセージとチーズの盛り合わせだよ。」
「おっ!ありがとう。美味しそうだね。」
「ほら、お前の好きな肉と酒だ。ゆっくり食べるといい。」
「主、感謝スル。」
注がれたウイスキーから、ふわりと独特の香気が漂う。
「ふぅ、いい香りだね。ウイスキーなんて久しぶりだよ。」
「でしょでしょ。本番のスコッチウイスキーは、ピート(泥炭)のスモーキーな香りがしっかりして美味しいんだよ。この香りは好き嫌いが分かれるから、ドゥオキデム製のウイスキーは香りを抑えて飲みやすくしているみたいだけどね。」
「そうなのか。俺はこの香り……嫌いではない。」
「……ウマイ。」
「ところで、皆は最近どうなの?」
「俺はいつも通りだ。闇の力を悪用する輩を始末したり、厄介な悪魔や精霊なんかを倒す。もっとも最近は大分平和になってきて、仕事も減ったがな。」
「……うーん、僕らには想像も付かない世界だね。」
「なに、こいつがいてくれれば、決して負けることは無い。頼もしいものだ。」
「フスー。」
「シルトは最近どう?親父さんいなくなって大変でしょ。」
「うちは妹とバイトさんがいるから平気かな。いつも、助けられてるよ。」
カウンターにいるミルトニアと目が合う。ミルトは少し恥ずかしそうに目を逸らした。
「……それにしても、綺麗な人だな。蒼い髪に白い肌。絵画のような美しさだ。」
「あの娘、カルサ領主家のご令嬢なんでしょ?なんでシルっちの店でバイトしてるのさ。」
「えっと、うちの父さんと領主様は古い知り合いで、ちょくちょくお忍びでうちの店に来てるんだ。父さんが旅に出る少し前に領主様がミルトニアを連れてきた事があってね、うちの店が気に入ったみたいで、働いてくれることになったんだ。」
「ほう、そんな事が……。」
「領主様行きつけの店なんて、シルっち凄いじゃん。」
「いやいや、僕が凄いんじゃなくて、父さんが凄いんだよ。父さんの知り合いって本当にいろんな人がいるよ。前連れてった戻り谷のエルフのルーンも、父さんが紹介してくれたんだ。」
「ああ、昔合ったシルトの師匠か。レイルが速攻で口説きにかかって轟沈してたな。」
「『28点。ムードが足りない上、自分から名乗らなかったのがNG。お姉さんを口説くには、まだまだだねぇー。』とか言われてたよね。」
「100年の経験の差は凄かったよ……。」
(……実はルーンは告白されてちょっと嬉しかったらしいが、レイルが調子に乗りそうなので黙っておこう。)
「と言うわけで、青髪の娘にちょっくらアタックしてきまーす!」
「あっ、こらレイル!」
「懲りない奴だな。ある意味レイルらしいが。」
そう言うなり、カウンターの方へ駆けていったレイルは早速ナンパを始めたが、まともに取り合われなかった。なおもしつこくしたため、ミルトは流れるような動きでレイルの首筋に真剣を突きつけ撃退した。
「気持ちはありがたいけど、私はしつこい男は嫌いだ。」
目を細め、威圧感たっぷりに睨み付ける。
「ひいっ……。ごめんなさい……。」
レイルはそそくさと退散した。
「ごめんよ、ミルト。僕の友達が迷惑かけて。」
「別に、構わないさ。こういう男もたまにいるからね。」
「ミルトはすごく可愛いからね。声をかけるのも分からなくはないよ。」
「かっ、可愛い……か。ありがとう。///」
「ん?どうしたの?顔真っ赤だけど……。」
「なっ、何でもない。気にしないでくれ。」
「……うーん。なんというか。」
「……シルトもシルトだな。しかも天然なのが恐ろしい。」
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