第十三話 エルフ少女ルーンちゃん(107歳)

「紹介するよ。僕の弓の師匠で、友達でもあるエルフの女の子、ルーンだよ。」

「えへへー。よろしくねぇ。」

「よ、宜しくなのじゃ。」

「……よろしくおねがいします。」

「まあまあ、立ち話もなんだし、座って座って。」


 木製のテーブルを挟んで置いてある長いすに座った。


「妾はシルトの友人のフィリゼじゃ。このすぐ近くの山に住んでいるのじゃ。こっちは一緒に住んでいるルーヴ。まぁ妹みたいなものじゃ。」

「そうかそうかー。……ん? フィリゼちゃんってもしかしてドラゴン?」

「む?バレてしまったかの。妾は光竜種の竜人じゃ。どうして分かったのじゃ?」

「見た目は変えてても、強大な魔力量までは隠せないからねー。エルフはそういうのがなんとなく分かるんだ。」

「ほう、それは凄いな!」

「そっちのルーヴちゃんもただ者じゃない感じだけど、どんな娘なの?」

「……わたしは『しんろう』って言う種族……みたい。」

「そうかそうかー!二人とも随分珍しい種族なんだね。神狼なんて初めて見たよー。」


 ルーンは優しくルーヴの頭を撫でた。


「純血のエルフも結構珍しいと思うよ。街で見かけたとしても大抵ハーフエルフやクォーターエルフだからね。」

「昔は混血エルフって迫害や差別されたりしてたけど、最近はそう言うのほとんどなくなったしねぇ。最近の若いエルフは人里に降りて他の種族に混じって暮らしてる事が増えたよ。年寄り達は人族の住む所を嫌って秘境に引きこもっちゃったし……。この村も昔はエルフが沢山住んでたんだけど、アバンタージュ山脈のあちこちに鉱山が出来て、人族がいっばい引っ越してきたから、皆いなくなったんだよー。アタシは他の種族の住んでいる所眺めたり、街に出てみたりするの好きだから、一人でここに住んでるけどね。」

「……寂しかったりはしないのか?」


 ルーンは少し上を向き、遠くを見つめた。


「寂しくない……って言うと嘘になるかもだけど、アタシはこれでも満足してるよ。生まれたときから住んでる場所だし、今日みたいに意外な来客が来ることもあるしね。」

「……。」

「それにね、アタシ森が好きなんだ。耳を済ませば、木々が風にそよぐ音、鳥のさえずり、川の音。色んな音が聞こえてくる。春になれば花が咲き、夏になれば青葉が茂り、秋になれば実が実り、冬になれば雪が積もる。季節によって、どんどん変わっていく森の風景。とっても素敵だと思わない?」

「普段あまり気には留めなかったが……、確かに素敵なものじゃな。」

「わたしも……森好き。」

「おー!ルーヴちゃん、気が合うねぇ。うちの子になっちゃう?」


 そう言った途端にルーヴが泣きそうな顔になってフィリゼに抱きついた。


「……ご主人様。お願い、見捨てないで……。」

「よしよし、大丈夫じゃ。ルーヴは誰にもやったりしないから。」

「ごっ、ごめんよー。冗談だって……。」

「子供にそう言う冗談言っちゃダメだよ。」

「うぅ、本当にごめんよー。ほら、このキャラメルあげるから泣かないでー。甘くておいしいよ?」


 甘いキャラメルを口にして、ようやくルーヴは落ち着いた。そして暫くすると、フィリゼの膝の上ですやすやと眠ってしまった。


「……寝ちゃったね。」

「ルーヴはやけにに大人びた子じゃが、まだまだ幼い童じゃものな。一昨年の春に家に来たのじゃから……恐らく二歳半くらいじゃ。」

「「えっ!?」」

「ルーヴって……そんなに小さい子だったの?」

「年齢で言ったらそうじゃな。狼基準だと、十分大人じゃが……。」

「なんかフクザツだねぇ。」

「まあ、寝ちゃう気持ちも分かるよ。今日はいい陽気だし、なんだか心地いい。」

「そうだねぇ……ふぁぁ。アタシも眠くなって来ちゃったよ。あーもうダメ、おやすみぃ。」


 ルーンは机に突っ伏して寝てしまった。


「ありゃりゃ、寝ちゃった……。って、ん?」


 フィリゼがもたれ掛かってきたので振り向くと、彼女ももう夢の中だった。


「みんなおねむですか……。」


 ふと、フィリゼの寝顔を見つめる。


「気持ちよさそうに寝ちゃって……。可愛いな。」


 フィリゼから仄かに漂う良い香りが、ふいに鼻腔をくすぐる。


「……っ///」


 僕の肩に寄り添い、子供のように寝ているフィリゼ。つい『そういう』意味で意識してしまった。


「これ……ちょっと恥ずかしいな。でも、なんというか……幸せだ……。」


 暖かな陽射しとそよぐ風。隣には仲のいい友達がいる。


「ふぁぁ、僕も少し……寝よう……かな。」


 僕の意識はすぅーっと眠りに吸い込まれていった。


「へっくちゅん!うう、寒いのじゃ……。」

「うーさむさむ。あれ、もう日が暮れてる。おーい、ルーン。おきろー。」

「むにゃむにゃ、なんだぁ。肉も美味しいじゃん……。」

「おーい!!」

「はっ!なにごと!……ああ、そっか。お昼寝してて……。すっかり日が暮れちゃったねー。あ!そうだ。もしよかったら夕飯食べてく?」

「おお!それはありがたいのじゃ。今から帰って作ると遅くなってしまうからな。」

「ありがとうね。ご馳走になるよ。」

「いいよいいよ。いつも作ってる分がちょっと増えただけだから。さて、ここが私の家だよ。入って入って。」

「わぁー。すてきな木の家じゃな。」

「昔は村に大工のエルフもいたんだよ。特殊な魔術がかけてあるから、夏は涼しいし冬はあったかいよ。それに、とっても丈夫なんだよ。アタシの産まれる250年くらい前に建てたらしいから、もう築350年くらいになるね。」

「それは凄いのじゃ。」

(……なんか今さらっと年がバレる発言してたが、気にしないでおこう。)

「僕に出来ることがあったら、何か手伝うよ。」

「妾も手伝うのじゃ!」

「ありがとう。……じゃあ、シルトはオーブンを200℃まで温めておいてー。あんたの店のピザ窯と仕組み大体一緒だから。」

「了解!」

「フィリゼちゃんはアタシとジャガイモとタマネギ切るよー。」

「……あの、わたしも……手伝う。」

「おー!ありがとねー。じゃあ、テーブル拭いて、スプーンとフォーク出してくれる?あの棚に入ってるからね。」

「……分かった。」

「さて、まずはジャガイモの皮を剥いて、少し厚めに切ります。」

「4個か。結構入れるんじゃな。」

「次は玉ねぎを切ります。量は半玉くらいかな。ちなみに、皮を剥いた後に温熱魔法で少し加熱しておくと、切るとき目にしみないよ。」

「本当じゃ!凄い。」

「んでもって、タマネギを短冊切りにしたベーコンと一緒に、バターで炒めます。」

「了解じゃ……ってえ!?エルフって肉や乳製品食べないはず……。」

「いやー。昔、街に出たときに試しに食べてみたら、スッゴい美味しくて、ハマっちゃったんだー。エルフの料理も不味くはないんだけど、なんか薄味だし、野菜や穀物、キノコとかしか使わないから、ちょっと物足りないんだよねー。」

「ほう、そうじゃったのか……。」

「最近の若いエルフは結構何でも食べてるよ。年寄りのエルフ達は肉や乳は残虐で汚らわしいなんていうけど、そーいうのアタシはおかしいと思うね。植物も動物も同じ命なんだからさ、動物だけ残虐だなんだって言うのはただのエゴじゃん。」

「確かにそうじゃな。どんなものでも、命に感謝して食べなくてはな。」

「さてさて、耐熱皿を出してっと……。ここに熱をある程度加えておいたジャガイモを並べます。そして炒めた玉ねぎとベーコンを投入!」

「なんかジャーマンポテトみたいな見た目じゃな。」

「そして、生クリームを1カノールラ(200ml)回しかけて、フィランスのサヴァワ産ルヴロションチーズを薄切りにして乗せます。」

「ルーン、オーブン温まったよ。」

「お、ちょうどよかった。あとはチーズがとろけるまで大体20分くらい焼きます。」

「わくわく。」

「いい感じに焼けたよー。」

「はい!フィランス、サヴァワ地方の郷土料理、『タルティフィレット』の完成だよー!」

「グラタンみたいじゃな!」

「バゲットにチーズをつけてもおいしいよ。」

「じゃあ、手を合わせて。」

「「いただきまーす!」」

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