第十一話 リリィ先生の魔法講座(後編)

「さて、次は『天空』に属する魔法属性と『大地』に属する魔法属性についてです。」

「ジャンルで分かれてるんだね。」

「はい!今までの魔法は二つの属性が真逆の効果をもっていましたが、今から教える魔法は対になる魔法属性が無いんです。これを単一魔法属性と言います。まぁ、魔法学校に行かない限り使わない単語ですけどね……。」

「……覚えた。」

「本当にルーヴは物覚えがいいのう……。」

「僕、そろそろ頭がパンクしそう……。」

「兄さーん?ルーヴちゃんに負けちゃってますよ?」

「うー、それはまずいな。頑張る。」

「ふふっ、頑張るのじゃ!」

「まずは天空の魔法属性についてです。一つ目は風魔法。気体の流れを操る魔法です。これは名前通りの効果ですね。」

「僕も狩りの時よく使っているよ。気流を安定させて弓を真っ直ぐ、そして強く射る事ができるね。」

「あと、この魔法をうまく使えば、風の抵抗を減らしてもの凄い速さで走れたりしますよ!」

「この前、フィリゼとルーヴがもの凄い速さで走ってたのってそう言うことだったんだ。」

「まあ、あれは力魔法との複合魔術じゃがな。」

「……ご主人様直伝。」

「剣術でも風魔法は使うね。正直魔法は不得手なんだけど、風魔法と力魔法は剣術に必要だから、なんとか習得したよ。」

「さて、二つ目は飛翔魔法です。飛翔って付いていますが、最近の研究では重力や加速度、遠心力なんかの力から切り離す魔法だと言われています。つまり、頑張れば誰でも宙に浮けるってことです!」

「わぁ、すごいね……。」

「妾も飛ぶときは飛翔魔法を使っているぞ。羽ばたきだけで飛ぶのはかなり無茶じゃからな。」

「確かにドラゴンって重そうだもんね……。」

「重い……じゃと?」

「シルト?女の子に体重のこと言っちゃダメだよ。女の子はみんな気にしてるんだから。」

「ごっ、ごめん。失言だった……。」

「むぅ……少しダイエットするかの……。」

「三つ目は雷魔法です。この魔法はあまり使い道が見つかっていない魔法なんですよね。大量の雷魔力を使って雷魔法を発動すると、雷が起こせることは分かっているんですけど……。効率はもの凄い悪いみたいですね。」

「なにか使い道は無いものかな……?」

「大昔の遺跡から、雷魔力を使って栄えていた文明の痕跡が見つかったらしいですね。大昔はもっと使われていたかもしれない……謎多き魔法属性です。」

「ロマンだねー。」

「次は大地の魔法属性です。一つ目は草木魔法です。この魔法、昔は草木を操る魔法だと考えられてきたのですが、最新の研究で生物全般の成長に関わる魔法であることが分かってきたんです!もっと研究が進めば、誰でもスタイル抜群の美人さんになれるかもしれませんよ!」

「おお!それはいいな。……光竜人族は余り身長が伸びない種族なんじゃ。そんな魔法が発明されたら良いの。妾はもっと大人っぽいお姉さんになりたいのじゃ。」

「……フィリゼはそのままでも十分綺麗だよ。無理に自分を変える必要は無いんじゃないかな?」

「なっ!?……もっ、もう。お主は口が上手いんじゃから……。///」

「……シルトは……その、背の低い人の方が好きなのかい?」

「別に……そんな事は無いかな。どうして?」

「いや、聞いてみただけだよ。気にしないでくれ。」

「じゃあ、次に行きますよー。次は力魔法です。その名の通り、力に関する魔法です。この魔法を使うと、力を強化したり、力の方向を変えたり出来ます。重いものを持つ時や、重い武器や鎧を付けて戦う人には必須の魔法ですね。」

「私のお祖父様が使っている剣術の撃鋼流は、この力魔法をとてもよく使う剣術なんだ。身の丈以上にもなる大剣を振り回し、群がる敵を一斉に斬り倒す。……すごい剣術だよ。」

「もの凄く豪快だね。男としては少し憧れるなー。」

「そして、最後の魔法属性は土石魔法です。単純に土魔法と呼ばれることもあります。この魔法は土や石、頑張れば岩なんかも自由に移動させることが出来ます。主に土木、建築や加工なんかに使われていますねー。さて、これで魔法属性は全部です。兄さん、ちゃんと覚えましたかー?」

「うん、何とか覚えたよ。」

「さすがです!さて、次は『魔術』について勉強していきますよー。」

「お願いするのじゃー。」

「魔術とは魔法を魔術式、呪文、魔法陣などを使って組み合わせたもののことです。単純な効果しか起こせない魔法で難しい事をするには、この魔術が必須になります。」

「ほうほう。」

「魔法は発動のイメージと魔力を流す量でコントロール出来るので、簡単に念じるだけで発動出来ます。ですが、魔術はなかなかそうはいきません。魔術は魔法をコントロール……難しい言い方をすると、『魔法を拘束する』する必要があるためです。あっ、別に念じるイメージでコントロールも出来るには出来るんですけど、魔術はコントロールが難しくてですね、使い手にかなりの集中力と想像力が必要になってしまいます。そこで!そのイメージを補完して助ける物として、魔法式を使います。魔法式と言うのは、魔法の発動具合や条件を指定する、魔法のレシピのようなものです。簡単な魔法式は、呪文を使う事が多いのですが、難しい魔術の場合設定しなきゃいけない事が多くて、どうしても呪文が長くなってしまいます。呪文が長いと覚えたり言ったりするのも大変ですし、何より発動に時間が掛かりますよね?そこで魔法陣や紙に書いた魔術式を使います!あらかじめ魔術式を書いておけば、魔力を流すだけで魔術が使えちゃうのです!ちなみに、魔法陣と言うのは、図形や模様のパターンが魔術式と同じ効果をもっている特殊な絵の事です。」

「文字で書くか、図形で描くか、ってことだね。分かりやすいね。」

「結局、魔法式は魔法を拘束する条件を意味していれば何でもいいので、思念や文字、記号や言葉、音でなんかでも良いんですよー。実際、願うだけで魔術を使う人や、楽器を奏でる事で魔術を使う人もいますよー。」

「へぇ……凄いね。」

「そして、魔術式や魔法陣が書かれた本の事を魔導書と言います。魔導書は一冊で一つの凄い魔術の事もあれば、沢山の魔術が載っている事もあります。私も魔法学校で貰った魔導書を、携帯ロッドと一緒にいつも携帯していますよー。ほら、これです。」


 リリィが取り出したそれは、皮表紙のとても小さい辞書のような魔導書だ。


「意外と小さいものだね。本当だ、細かい文字で色々書いてある。中級治癒光魔術や日常に使えるちょっとした魔術、簡単な護身魔術まで書いてあるね。ん?この折り目は……。」

「あっ!?そっ、そこは……!」

「『素敵な異性に出会えるおまじない』……ふふっ、リリィもそういうのが気になるお年頃なんだね。」

「もぉー!ミルちゃんに言われたくないです!///」

「凄いな!そんな魔術もあるのじゃな。」

「いや、それはただのおまじないだと……。」

「じゃあ、続けますねー。次は魔導についてのお話です。魔導とは、魔術を利用した技術の事です。魔導を使ったものは、魔力を使って様々な仕事をしてくれます。」

「うちの魔導窯も魔導を使ってるんだよね。」

「はい!その通りです。魔導は大きく分けて二つあって、魔導効果のある鉱石を使った単純魔導と、魔法式や魔法陣を組み込んで魔術を使えるようにした錬成魔法です。うちの魔導窯は最初の方ですねー。」

「最近は錬成魔導を使った魔導機械なんかも増えてきてるみたいだね。この間、城の井戸に『ポンプ』とかいう魔導機械が付いたらしいよ。なんでも、水を自動で汲んでくれる機械だとか。」

「あれ、けっこう便利なんですよね。井戸の水汲みって手でやると結構大変で……。」

「これからの時代、魔導機械による工業化がどんどん進んで行くと言われ、優秀な魔導機械設計士や魔術の研究者が必要とされています。私の出た魔法学校もとてもお金を掛けて魔導工学科を新設したみたいですね……。」

「いろんな街に機械化された巨大工場が次々に作られてるとか、喫茶店に来るお客さんの話で聞いた事があるよ。工場の機械を動かすのに使う魔力結晶や液化魔力、石炭なんかの需要が右肩上がりで大忙しなんだとか。」

「うーむ。時代は変わるものじゃな。」

「さて、これで魔法についての基礎的な勉強はおしまいです。最後に少しおさらいしましょう!」


 魔法とは:特定の現象を起こす特別な力

 魔術とは:魔法をコントロールして組み合わせた物のこと

 魔導とは:魔術を利用した技術の事

 魔力とは:魔法の発動に使う現象の源の力


「どうです?魔法について、少しは分かりましたかー?」

「よくわかったのじゃ。なかなか面白い話じゃったぞ。」

「とても勉強になりました!」

「お疲れ様、リリィ先生。」

「えへへ、良かったです。では皆さん、起立、気をつけ、礼!」

「「ありがとうございました!」」

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