第十話 リリィ先生の魔法講座(前編)
「遅くなってすまない。ちょっと城で引き留められてしまってね……。」
「いらっしゃいですー。」
「こんばんはなのじゃ!」
「父様に『若い娘が夜遅くに出歩くのは危ない』とか言われてしまったよ。父様はどうも心配性なんだ。」
「良いじゃないですか。それだけ大事にされてるって事ですよー。」
「それはそうだけどね。……でも、流石にこれはやり過ぎじゃないか・・・なっ!」
「「!?」」
ミルトは突然腰に下げた剣の鞘で天井を強く叩いた。
「わっ!?うひゃあ!」
すると、……喫茶店の天井板と一緒に女の子が落ちてきた。
「うっ、いててて……。」
「まったく、護衛は要らないとあれほど言ったじゃないか。しかも他人様の天井裏に忍び込むなんて……。」
「すっ、すみません。ヴィクトール様のご命令で……。」
「えっ?状況がよくわからないんだけど……。」
「ガルルルルルゥ!!」
「これ!ルーヴは威嚇するでない!」
「……すまない。彼女は私の従者のペノと言う者だよ。どうやら父からこっそり私を護衛するように言われたらしい……。」
「あのあの……勝手に天井裏入ってすみませんでした!本当にごめんなさいです!」
「えぇ……。まっ、まあミルトの知り合いならいいけど。……ただ、天井裏に潜むのはちょっと勘弁してもらいたい……かな?」
「本当にすみませんでした……。」
「過ぎたことはいいですよー。あっ!ペノさんも何か食べていきませんか?」
「そっ、そんな!とんでもないです!(ぐぅぅぅぅ)あっ……。///」
「……時には遠慮しないのも礼儀だよ。」
「すみません頂きます。///」
「……じゃあ、まずは夕飯にしようか。」
今日の夕食はカルボナーラのパスタと、石窯焼きのピッツァ、サニーレタスとルッコラ、ミニトマトのサラダだ。
「急だったので、立派な食事じゃないですけど、召し上がって下さいー。」
「おお!いただきますなのじゃ。……この麺料理はどうやって食べるのじゃ?」
「こうやってフォークに少しずつ巻き付けて食べるんだよ。慣れないうちはスプーンも使うといいよ。」
「そうじゃったか。くるくるー。あむっ。うん、これ口を汚さず食べれていいな。」
「おー。ルーヴちゃんも上手ですよー。」
「……。///」
「!? このカルボナーラ、お城で食べたものよりおいしいかもしれません!」
「でしょ?私もたまにリリィに料理を習っているんだ。このカルボナーラは目標の味だね。」
「これは豆知識だけど、カルボナーラはリタリア語で『炭焼き職人風』って意味なんだよ。理由は諸説あるけど、炭焼き職人のオーダーから生まれた料理だったとか、黒胡椒を炭の粉に見立てたとか言われているんだ。」
「へぇ、そうなんですかー。」
「焼きたてピッツァも、おいしいです~。ここは喫茶店なんですよね?なんで魔導石窯があるんですか?」
「この窯は、僕の両親がこの店を開く前から何故かあったんだよね。多分、前に住んでいた人の手作りじゃないかな?液化温熱魔力で動くから結構便利なんだよ。」
「魔導レンガは魔導効果のある特殊な鉱石の粉末をレンガに練りこんであるんですよー。そこに液化魔力を流すと、温熱魔法が発現して窯が熱くなるんです。そのあたりの仕組みも色々お勉強しましょう!」
「さて、夕食も食べ終わったことだし、お待ちかねのリリィ先生の魔法講座の時間だ。」
「宜しく頼むのじゃー。」
「宜しくね。」
「えへへ、なんだか照れちゃいますね。」
「……あのー、私も混ぜてもらっても良かったのですか?」
「勿論です!……と言っても教えられることは基本的なことだけですけどね。」
「いえいえ!とても嬉しいです!」
「じゃあ、初めましょう。」
「「ぱちぱちぱちー。」」
「まずは魔法とはなんぞや?と言うことですね。これは初等学校で習ったはずですよー。では兄さん!お答えください。」
「えっと、特定の現象を起こす特別な力……だっけ?」
「正解です!生き物は普段生活している中で、周りで起こる現象から生まれた、現象を起こす力の源『魔力』を吸収して身体に貯めています。魔力は水や空気、食べ物なんかにも沢山含まれているので、食べたり飲んだり、触れた物なんかからも魔力を吸収しています。その魔力を使い魔法を発現すると、現象に戻るのです。」
「ふむふむ。」
「少し実演してみましょう。まず、この水を飲みます。んっんっ、ぷはぁ。目には見えませんが、今飲んだ水……難しく言うと『湿』の現象の一部が湿魔力になって私の身体に吸収されています。そうしたら……水よ、霧となれ!ウォーターミスト!」
リリィの手元が淡い光を発して霧状の水が吹き出した。
「初級魔術のウォーターミストです。こうやって吸収した魔力を使って魔法を発動するんですよー。」
「凄く分かりやすいです!勉強になります。」
「えへへ、良かったです。じゃあ続けますね!魔力は生き物にとって栄養のような存在です。魔力が不足したり、魔力属性が偏ったりすると体調を崩したりしちゃいます。そう言うときは他の人から魔力を分けてもらったり、食べ物や環境から魔力を摂取しましょう!」
「そのあたりは妾も詳しいぞ。魔法薬学の基本は自然治癒力を高めたり、魔力や栄養を取って身体の調子を良くすることじゃからな。因みに、魔力は食物連鎖によって濃縮されるから、生態系の上位の生き物の方が魔力の回復量は多いぞ。」
「へぇ、知らなかった。」
「それと、治癒光魔術による即時治癒は、使いすぎると身体にあまり良くないのじゃ。傷を一瞬で再生するわけじゃから、体に負荷がかかるのじゃな。」
「確かに治癒魔術使った後って、少し身体がだるくなりますよね……。」
「さて、次は魔法の属性についてです。魔法は起こせる現象の種類毎に魔法属性があります。本当は現象の種類の数だけ魔法属性はあるはずなんですが、大半はその属性の魔法の使い方が発見されていないんですよねー。その中で一般的に使われている12の魔法属性の事を『基本12属性』と言います!ここ、テストに出ますよー!」
「なに!?テストか?」
「まぁ、それは冗談です!でも、覚えておいて損は無いですよー。まずは熱を司る、温熱魔法と冷熱魔法ですね。温熱魔法は温度を上げる力を持っていて、冷熱魔法はその逆の力を持っています。温熱魔法は炎魔法と呼ばれる事もありますねー。」
「魔法が発動する時の光が、炎そっくりじゃからな。」
「へえ、あれって火を出してるんじゃ無いんだ……。」
「これは余談ですが、最近の研究で温熱魔法と冷熱魔法の境目は、およそ18℃であることが分かってきました。地下水の温度と同じくらいですね!」
「へぇ……。なんとも不思議だね。」
「次は光魔法と闇魔法です。この二つの属性はまだまだ謎が多くてですね、光や闇って付いてますけど、光の強弱以外にも様々な効果を生み出せるんですよね……。」
「治癒や解毒、隠密や幻術。……本当に便利な魔法属性じゃな。」
「次は湿魔法と乾魔法です。様々な物に含まれている水分に関する魔法属性ですねー。湿魔法は水魔法とも呼ばれます。湿魔法はちょっと水が欲しい時や、空気が乾燥しているときに便利なんですよねー。」
「私は乾魔法を洗濯物を部屋干しする時によく使ってます。あれを部屋に使うと、本当によく乾くんです。……そう言えばお嬢様が幼い頃、洗濯物に直接乾魔法かけてボロボロにしてしまったことありましたよねー。それはもう、奥様に怒られて……。」
「そっ、そんな昔のこと言わないでくれ。恥ずかしい……。///」
「まぁ、服は完全に乾燥させてしまうと、傷んでしまいますから気を付けましょうー。」
(次話へ続く)
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