第九話 ルーヴちゃんは甘党

「いらっしゃいませ。あっ、フィリゼじゃないか。よく来たね。」

「こんばんわなのじゃー!遊びに来たぞー。ルーヴも一緒じゃ。」

「こん……にちは。」

「おー!お久ぶりですー。」

「シルトなら仕入れに出かけていて、今は店にいないから少し休んでいくといいよ。ゆっくりしていってね。……なんて、私の店じゃないんだった。」

「ははは。あんなのでもちゃんと店主じゃものな。さて、ルーヴ、何かおやつでも食べるか?」

「! ……食べたい。」


 普段からあまり表情を変えないルーヴだが、少し頬が緩んだ。


「本当にフィリゼさんとルーヴちゃんは姉妹みたいですよねー。髪色も白と銀色で少し似てますし。」

「そうかの?あまり意識していなかったが、言われてみればそんな気もするの。」


 すると、ルーヴは少しムッとした顔になった。


「……ご主人様はお姉さんじゃなくて、わたしのご主人様。わたし、……気がついたらこの体になってて、どうしていいのか分からなかった。……だけど、ご主人様が拾ってくれた。ご主人様は優しくしてくれた。……だからご主人様なの。」

「ふふ、可愛いこと言いおってー。まぁ、ルーヴは半分精霊じゃから、立場的に使い魔みたいな関係になっているのじゃ。妾も別にルーヴを使役しとるわけじゃないがの。頑張って店を手伝ってくれてるから、たまにはこうやってご褒美でもしてやらんとな。」

「えっ!?ルーヴちゃんって精霊なんですか?初耳ですー。」

「私も、てっきり狼族か何かだと思っていたよ……。」

「ルーヴは神狼という種族での。幼い子狼が死んだとき、たまに精霊が憑依して神狼になる事があるのじゃ。ルーヴもそうやって生まれたのじゃと思うぞ。まぁ、神狼になった時に前世の記憶なんかは消えてしまうみたいで、詳しいことはルーヴにも分からんらしいがの。」

「……となると、この子は精霊の力で生き返ったことになるのか。なんとも不思議だね。」

「うーん……?なんだか複雑ですねー。」

「……?」


 ルーヴが少し心配そうな目でフィリゼを見つめた。


「ふふふ、そんな顔するでない。ルーヴがどんな子でも、妾の可愛いルーヴじゃ。なにも変わらん。……食べるものも体も人族とほぼ変わらんしな。さて、おやつじゃおやつ。なに食べるか?」

「……甘いのがいい。」

「それだったら、当店おすすめ『スペシャルビッグチョコパフェ』なんかどうですか?これ、けっこう食べ応えありますよー?」

「……!」


 魅力的なワードにルーヴの目が輝く。


「おっ、それ美味しそうじゃな。それにするか?」


 ルーヴは元気に頷いた。


「よし。妾はこの『べりーそーすのふわふわぱんけーき』というやつを。飲み物はコーヒーとミルクティーを頼む。」

「承りましたー。」


 すると、カルサ南商業区の市場に食材を仕入れに行っていたシルトが帰ってきた。


「ただいまー。ミルトー、リリィ。ちょっとこれ運ぶの手伝ってー。……ってあれ?フィリゼ来てたんだ。いらっしゃい。」

「おーシルト。お邪魔してるのじゃ。……なんか凄い荷物じゃのう。」

「基本的にお店で使う食材なんかだよ。しばらく買い出しに行ってなったから、だいぶ多くなっちゃった。取りあえず魔冷庫に入れとこう。」

「よいしょっと、それにしたってちょっと買いすぎじゃないですかー?もー、無駄遣いは良くないですよー。あっ!リンゴのドライフルーツだ!」

「リリィそれ好きって言ってたからね。たまたま見つけたから、買ってきたんだよ。」 

「覚えていてくれたんですね!!えへへ、嬉しいです♪」

「ミルトはこれ。大通りに最近できたショコラティエのガナッシュ(生チョコ)。チョコ好きでしょ?」

「……わっ、私も貰ってしまっていいのかい?」

「もちろんだよ。いつもお疲れ様。」

「なんだ……その、ありがとう。///」

「初めて入った店だから、味はどうだか分からないけどね。少し開けて食べてみなよ。」

「そうだね。少し食べてみるよ。」


 赤いリボンで包まれた黒い紙の箱を開け、ガナッシュを一欠片口に運ぶ。


「うん、……すごく美味しいよ。」

「……僕、そういうお菓子詳しくないしさ。ミルトみたいなお嬢様の口に合うか分からなかったけど、美味しいなら良かったよ。」

「君がくれたものだ。まずい訳がないさ……。あっ!いや、なんでもない。気にしないでくれ。」

「……あ、リリィ。悪いんだけど、この冷凍肉切ってくれる? 」

「任せてくださいー!……風よ、切り裂け。ウインドカッター!」


 リリィが呪文を唱えると、黄緑色の光を纏った風の刃が冷凍肉を切り分けた。


「リリィの魔法はいつ見ても凄いね。どんな魔法なんだい?」

「これは魔法じゃなくて、魔術ですよー。風の中級基本魔術、ウインドカッターです!」

「……ふと思ったのだが、魔法と魔術の違いってなんだ?私は小さい頃から剣一筋だったから、魔法についてはさっぱりで……。」

「そうですねー。そうだ!それなら今日お店を閉めてから、私が魔法の事について教えますよー。今日はバータイムがお休みの日ですし。」

「そうじゃったのか?知らんかった。」

「土日は鉱山が休みだからお客さんが少ないんだよ。だから、バータイムだけお休みなんだ。」

「……そうだね。じゃあ仕事が終わったら、私は一度城に帰って支度してから、またここに来ることにするよ。」

「ウェルカムですよー!」

「あのー、すまん。もしよかったら、妾も魔法講座に参加してよいか?妾がいつも使ってるのは光竜独自の竜魔術じゃから、普通の魔術も中級までは使えるが詳しくないのじゃ。」

「いいですよー。大歓迎です!」

「僕も狩りに使う魔術位しか使えないからなぁ。この機会に、ちゃんと勉強しておきたいな。」

「じゃあ、今日はみんなでお勉強会ですねー!」

「じゃぁ、よろしくお願いします。リリィ先生。」

「先生なんて、ちょっと恥ずかしいですねー。///」

「似合ってると思うよ?リリィせ・ん・せ・い。」

「もー!ミルちゃんまで何ですかー!」

「ははは、楽しみだね。……さて、おまたせ。ミルクティーとスペシャルビッグチョコパフェ、ベリーソースのフワフワパンケーキです。召し上がれ。」


 大きいパフェを目にしてルーヴの目が爛々と輝いた。ふさふさのしっぽを大きくゆっくりと振っている。


「……いただきます。……!///」


 余り表情を変えないルーヴだが、思わず頬が緩んだ。とても美味しそうに食べている。


「ご主人様も……。少しあげる。」

「いいのか?……あーん、うん。とっても美味しいぞ!妾のパンケーキも食うか?あーん」

「……あーん、はむ。……すこし……酸っぱい。」


 ルーヴは顔をしかめた。あまり美味しくなかったみたいだ。


「ベリーソースはルーヴにはちょっと酸っぱかったかの。ほれ、クリームの所食べるのじゃ。」

「……はむ。……美味しい。」


 ルーヴの顔が明るくなった。


「ふふふ。良かったの。おっと、ほっぺにクリームついてるぞ。」

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