第二話 魔法とウサギと薬草入門
僕はその日、空を飛んだ。
ものすごい速度で風を切り、眼下に山々を見下ろし、雲を超えてゆく。
「どうじゃ、初めて空を飛んだ気分は。気持ちいいじゃろう?」
「凄い!凄いよ!空を飛んでる!」
僕は大空を飛んでいる事に興奮して、年甲斐もなくはしゃいでいた。
「お主、はしゃぐと子供っぽくなるんじゃな……。」
「はっ、はしゃいでなんかないよ……。」
「ぷふっ……。ぷははははは!そんな見え透いたウソを言いおって。お主、面白いな!嫌いじゃないぞ。」
「わっ笑わないでよ……。」
ちなみに純白のドラゴン……もとい、フィリゼは一般的なドラゴンと違って、体を覆うのは鱗ではなく毛皮なので、フカフカで乗り心地は最高だ。例えるならば、毛並みの良い猫の胸の毛のような、ふにふにでフワフワな、頬ずりしたくなるような最高の感触だ。
「そう言えば、リリル山までどのくらいかかる?」
「20分もあればつくじゃろう。まあ、飛翔竜ほど速くはないが、妾とてドラゴンじゃ。それなりに速く飛べるのでな。しっかり掴まっておれ!」
フィリゼは大きく翼を羽ばたかせ、大空を飛んで行く。
リリル山には本当に数十分で到着した。山の中に着陸し、僕が背中から降りるとフィリゼはドラゴンから少女の姿へ変化した。
「……やっぱり本当にフィリゼなんだね。」
「そうじゃ。まだ信じられんか?」
「うん、少しね。でも凄かった。ドラゴンか……。」
目の前に立っている可愛らしい少女がドラゴンなんて……。やはり、まだ実感が湧かない。
「さて、ここに来た目的を忘れてはおらんじゃろうな?」
「うん。リリルカゼウサギを狩るんだよね。弓術には自信があるし、任せて!」
そう言うと、背中に背負った弓を取り出し、構えて見せる。
「いやお主、矢を防がれた上に吹っ飛ばされておったじゃろ?」
「うっ……。まっまあ、リリルカゼウサギだったら、大した魔法は使ってこないから大丈夫だと思うけど……。」
「本当か?」
「うん。たぶん。恐らく……。」
そう言われるとなんか、どんどん自信がなくなって行く……。
「そこは男らしく『僕は大丈夫さ。任せておいて。』って言う所じゃろうが……。まあ、いざとなったら妾が魔術で助けるから大丈夫じゃ。気楽に行こうぞ。」
そう言ってフィリゼは優しく笑ってくれた。……どうやらフィリゼは魔術に自信があるらしい。ドラゴンともなれば凄い魔術が使えたりするんだろうか?
「あれ?そんなに魔法に自信があるなら、最初からフィリゼ一人でウサギ位狩れないの?」
「うーむ、妾が攻撃系の魔術を使うとウサギが木端微塵になってしまうからの……。素材どころじゃないのじゃ。」
フィリゼの魔術ってなんか、随分と物騒だな……。
「じゃあ、僕の腕の見せ所ってわけだね!よし。やるぞ!」
「うむ。頑張るのじゃぞ。ああ、言い忘れておったが、万が一妾が危ない魔術を使う時は、一声をかけるからすぐ逃げるのじゃぞ。逃げないとウサギと一緒に肉片(ミンチ)になるからな。」
「怖っ!フィリゼの魔術怖っ!!」
そうして、僕ら二人はリリル山の奥へ進んでいった。
リリルカゼウサギは案外あっさりと見つかった。夏毛のはずだがフワフワしていて非常に可愛い。狩るのが可哀想になってくるが、ここは心を鬼にしなければ。
すまぬ、ウサギよ。と、やはり相手は野生の動物、ウサギがこちらの気配を察知し、慌てて逃げ出した。
だが、
「甘いっ!」
フィリゼは草木魔術で近くに生えていた蔓を操り、ウサギの後足に絡めた。そして僕は風魔術で強化した弓を放つ。
弓は胴体に直撃。ウサギはしばらく暴れていたが、失血ですぐに力尽きた。
「でかしたぞ!さて、早速……。」
仕留めたウサギは沢で冷やしてから解体する。フィリゼは手慣れた手つきでナイフを使いウサギを捌いてゆく。
肉は美味しいので、その場で焼いて食べることにした。枝を削った即席の串に、ウサギの肉を刺して、フィリゼの温熱魔法で焼いてもらう。
「……僕ごと焼かないでね?」
「お主、妾を悪魔か何かと勘違いしておらんか?」
フィリゼの掌に小さい魔法陣が現れ、炎のように光る温熱魔法の高熱が吹き出した。肉がジュワジュワ音を立て、あっという間に火が通ってゆく。
「よし、出来たぞ!」
「うん、若干焦げてるけど……。まあいっか。いただきまーす。はふはふ……うん!少しクセはあるけど美味しい!」
「そうか!妾にも少しくれ!はむはむ。おぉ、これは旨いな。野性的な味じゃ。」
残った内臓は温熱魔法で焼いて、深い穴を掘って埋めた。足としっぽ、それから毛皮は丸めて持って帰る。
「さて、リリルカゼウサギの足も手に入ったことじゃし、少し野草でも取って帰るかの。この辺りにいい薬草が取れる場所があるのじゃ。」
「薬草って山に結構生えてるものなの?」
「うむ。希少な物や温室がないと育たないものは妾の畑で育てているが、ほとんどは山で摘んだものじゃな。」
「そうなんだ。よく山に入るから、知識として知っておきたいし、僕に薬草について教えてくれないかな?」
「構わんぞ。薬草のストックが足りなくなった度にいちいち摘みに行くのも大変じゃから、お主が山に入った時についでに摘んできて貰えたりすると助かるのじゃ。」
「分かった。今度また山に入った時にフィリゼの店に寄ってみるよ。……あっ!そう言えば今まで聞いて無かったんだけど、フィリゼの薬屋って東カルサ山の場所的にはどこなの?」
「えっとな、山の西側の山道の途中に精霊が出る沢があるじゃろ。そこを少し上ったとこじゃ。分かるか?」
以外にもフィリゼの店はよく通る山道のすぐ近くにあったようだ。僕がソルサングリエに倒された所からも、かなり近い。
「近くはよく通っていたけど、全然気づかなかったよ。」
「そうかの?むぅ、看板でも建てたほうが良いかもしれんの。」
軽く雑談をしながらフィリゼが良く来るヒャクセンという薬草の群生地にやってきた。
「これがヒャクセンの花じゃ。名前の由来は繁殖力がとても強いので、百も千も生えるだろうと言うことにちなんでおる。これの根っこを煎じると滋養強壮、体力回復の効果がある。ただし、ものすごく苦いから、茶なんぞにして飲んだ日にはしばらく舌がしびれるぞ。」
「へぇ。これがヒャクセンか。この紫色の花は、確かに山でよく見かける気がする。」
「ただ、そこらに生えているヒャクセンは薬効が薄くての。草魔力が強い所に生えているやつほど効果が大きいのじゃ。……お主も魔法を使うなら魔力泉のことは知っているじゃろ?」
「うん。魔力が吹き出す魔力の泉のような所……だよね?」
「その通りじゃ。魔力は一種の栄養のような物じゃから、ヒャクセンも魔力泉の近くの魔力が肥えた土地で育ち、たくさん魔力を吸ったやつの方が薬効が強いのじゃ。魔力は薬効に深く関わってくるからの。解ったか?」
植物も生き物だから、魔力をたくさん蓄えたやつの方が効能がいいらしい。
「うん。薬草はどこに生えてるやつでもいいわけじゃないんだね。ここに生えてるやつはそんなにいいの?」
「うむ。妾が見てきた中で一番いいヒャクセンが取れるぞ。この辺りは良質な草魔力で溢れておるからの。」
フィリゼは腰につけたポーチから小さいスコップを取り出してヒャクセンの周りの土を掘りだした。
「ヒャクセンはの、根が深くまで張っておっての、掘り出すのも一苦労じゃ。ほれ。お主も手伝わんか。」
そうして僕とフィリゼで根っこの周りを掘り進める。
ヒャクセンの根はとても深く、僕の膝から下がすっぽり入りそうなほど掘ってようやく引っこ抜けた。
「うむ。いい根っこじゃ。思ったより深かったが、これだけあればしばらくは足りるじゃろう。さて、そろそろ帰るとするかの。」
そうしてまた、ドラゴンの姿に変身したフィリゼの背中に跨り、一緒にフィリゼの薬屋へ戻った。
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