第16話 少年はアナコンダに遭遇する
目を覚ますと、結界の周りには死屍累々と魔物が倒れていた。
とりあえず腹ごしらえだと、俺はカバンにあったパンを食べた。
魔物の死骸に囲まれ、淡い光の球体に包み込まれた少年が、眠たそうにパンを頬張っている。なんともシュールな光景だと客観的に思うなど、俺も一晩で大人になったものだ。
「アレク様、そろそろ試練が終わる頃だよな……って、アレク様の心配してる場合じゃないか。結界の効力がなくなっても困るし、魔物がいないうちに、こんな危険な洞窟さっさと撤収しよう!」
俺は長い独り言をしゃべった。それに反応する魔物がいないことを確認して、急いで洞窟を脱出した。
洞窟の中では分からなかったが、すでに日が高かった。
「もうこんな時間かよ。アナコンダ探しは諦めて帰ろう。結果より過程が大事! 俺は頑張った!」
そうと決まったら、こんな危ない所は早々に撤退だ!
歩き出そうとしたその時、ガサガサっと大きな音がした。
「ぎゃあ! アナコンダ! このタイミングで現れるのかよっ⁈」
そこには体長五メートル程のアナコンダが、いいご飯を見つけたとばかりに舌を出しながら、じりじりと俺との距離を詰めていた。
まずい! 非常にまずい!
なぜならほとんど魔具を使い切っている。
「えーっと、攻撃できそうなのは……あった! 雷だっ! いいの残ってんじゃん!」
てい!っと、俺はアナコンダに魔具を投げつけた。ピシャーンという音と共に、アナコンダの頭上に雷が落ちる。
「やった! ドンピシャ! 俺ってば投てき能力は高いんだよねー」と、ピーピー口笛を吹いていると、アナコンダがギョロリとこちらを向いた。
「げっ⁈ 今までと威力が違う⁈ ばあさん雷だけ手抜きかよ! なんだこの紙? 説明書だ!」
俺は急いで取り扱い説明書に目を通した。
「えーっと、この魔具は新人魔法使いが担当しました。セール品につき、効力は保証いたしかねます……って、セール品持たせるんじゃねーよっ!」
とにかくまずい、なんとかしないと。手元に残ったのは、治癒魔法と睡眠魔法だった。
「ここは一発眠らせて、その隙に逃げる!」
てい!っと再び魔具を投げつける。
すると、あろうことかアナコンダの傷がみるみるうちに塞がっていった。
「ぎゃあ! 回復した⁈ これ睡眠って言ってたよねっ⁈」
カーラ様なんて言ってたっけ?
『これは炎、そっちは雷、あっちは結界、こっちは治癒だったか? あと、これは……睡眠魔法だったか?』
「そうだ! 治癒魔法と睡眠魔法だけ疑問形だった! あのババアーーーー!」
元気百倍となったアナコンダは一気に俺との距離を詰めた。
「ぎゃーーー」と悲鳴をあげると同時に、アナコンダが俺に巻き付いた。
「こいつ! 俺を締め上げて殺す気だ! 助けてーーー!」
俺はこんなところで、蛇に殺されるのか⁈
「助けてーーーー! アレク様ーー! 姫様ーーーー! 俺はまだ死にたくなーーーい!」
力の限り叫んだその時、スバっという音と共に、俺を締め付ける力が緩んだ。
目の前には、アナコンダを斬ったアレク様の姿があった!
「アレク様ーーーー! やっぱりヒーローはピンチに登場した! ステキぃ! 抱いてーー!」と、俺はアレク様に抱きついた。
もう女でなくても惚れるだろう。姫様が同じシーンに出くわしたら、悶絶死することだろう。
後でアレク様がどれだけ俺をかっこよく助けたか、姫様にじっくり話そう!
そんな悶える俺をアレク様はぎゅっと抱き返した。
……えっ? アレク様も俺のことを⁈
姫様ゴメンなさい!
母さんゴメンなさい!
俺は大人の階段どころか、イケナイ階段を駆け登ります!
俺は心の中で姫様と母さんに、それぞれ五十回ずつ土下座した。
「怪我がなくて良かった。可哀想に…怖かっただろう? カインにアナコンダ退治だなんて。可愛い子には旅をさせろというが、カーラ様の教育も考えものだな」
はぁっとアレク様がため息をつく。
おおう! アレク様は俺の抱いて発言を文字通り受け取ったのか!
勘違いで十三歳にして危ない橋を渡るとこだったぜ。
「アレク様! あのババ……カーラ様がアナコンダ殺ってこいなんて、俺に言いつけたのに、不良品掴ませたんすよ!」
ブーブー抗議していると、アナコンダがゆっくりとまた動き出した。
「うげっ! まだ動けるのかよ。尻尾切り離されたのにしぶといなぁ。さっ! アレク様! さっさと殺ちゃってください!」
俺はグイグイとアレク様の背中を押した。
「そうだな。魔力も上がったし、少し試してみよう」
アレク様はその力を試すべく、集中して魔力を高めた。膨大な魔力が大地を震わせる。
「我は汝の友 汝に魔力を捧げる者なり 大気に集いし雷の力を我が剣に纏わせ その力を解放せよ サンダー・バースト!」
アレク様が剣を天高くかざした瞬間、ドォーーーンという轟音と共に雷がアナコンダに落とされた。
アナコンダは炭の塊と化し、風が吹き抜けるとさらさらと消滅していった。アナコンダがいた大地には深い穴が空いていた。
「す、すげえ……さっきのポンコツ雷とは雲泥の差」
アレク様は自分の手のひらを眺め、その威力に呆然としていた。
「ここまで魔力が高まるとは……これまでの倍以上だ……」
「アレク様も世界を滅ぼせるんじゃないんですか………って! なんて事してくれたんすか⁈ アナコンダの肝がーーー!」
「あっ! す、すまない。ついやってしまった」
アレク様はそうだったと言わんばかりに頭をかいた。
「アレク様、俺はもうダメです。魔物に襲われ、アナコンダに殺されかけ、足がプルプルでもう動けないので、転移魔法でさっさと帰りましょう!」
足はプルプルじゃないけど、もうゴメンだ!
俺は帰りたい!
するとアレク様は、俺の前で背を向けてしゃがんだ。
「ほら、おぶってやるから、アナコンダを探しに行こう。もう怖い思いなんてさせないから」
やだっ! もうなんなのっ⁈
鼻血出そうなんですけど⁈
アレク様は俺に道を踏み外させる気なの⁈
俺の心の乙女化が止まらない。
戻ったら、俺の持っているあらゆるスキルを使って女子になろうかしら。なんて考えが頭をよぎる。
とりあえず心の声に従って、俺はおとなしくアレク様におぶさることにした。
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