第10話 王太子はツンデレ令嬢を包囲する
「…父上……」
史実を聞いたフェリクスは、自分にもサーラの血が流れていると思うと、なんともいたたまれない気分になった。
「みなまで言うな、フェリクス。私も初めて聞いたときは、この血を呪った」
「「………」」
なんとも言えない空気が二人を包む。
「確かに、史実は隠して物語にしたくなったご先祖様の気持ちは理解できます……始祖のサーラは、ローラそのものですね」
黒髪に黒い瞳、強大な魔力、アレクシスへの恋心。ケンタウロスを従えて魔王を討伐し、化け物じみた力を見られたくないという乙女心まで瓜二つだ。
「そうだな。黒髪に黒い瞳、ローラは私の血を引いていないと、口さがない連中が騒いでいたが、黒こそが王家の血を引いている何よりの証だ」
王は金髪に碧眼、王妃は栗色の髪にヘーゼル色の瞳だ。黒髪に黒い瞳の王女は、その出生が疑われたが、顔が王にそっくりだったため、先祖返りということで落ち着いた。
「ローラは始祖の血を色濃く受け継いだのであろう。まさか行動までもが始祖と同じとは思わなかったがな。皆を守りたいとう気持ちが今回の行動を引き押したと思うが、アレクシスに魔王を倒す姿を見られたくないものあるだろう」
王は苦笑いだ。
「ローラの気持ちにお気付きでしたか?」
フェリクスも一緒になって笑う。
「当然だ、あの子はとても分かりやすいからな。今回のローラの行動は、アレクシスやリディアナの気持ちを思えばとても褒められたものではないが、始祖の血のせいだと思って許してやってくれ」
さっき同じようなことをローラに言ったなと、フェリクスは思った。サーラの血より、父の血の方が濃く感じたフェリクスは、少しだけ気持ちが浮上した。
「もちろんです。アレクシスもリディアナもわかってくれると思います。ですが、アレクシスの心中は複雑でしょう」
「そうだな、守るべき王女に守られたのでは男としての面目が立たないからな。それが好きな女ならなおさらな。両想いなんて、娘を持つ父親としては複雑だがね」
王はちょっぴり悲しそうだ。
「アレクシスの気持ちもお気付きでしたか? でもあの二人は互いの想いには気づいていませんが」
「魔力なしでローラの元へ行こうなどと、いくら王家に忠誠を誓った者でも、愛する気持ちがなければできないだろう」
ローラが単身で魔王に戦いを挑もうとした時、アレクシスはその身が滅びることも厭わず、ローラの元に転移しようとしていた。
「確かに、あの行動でアレクシスの気持ちに気づかないのは、ローラぐらいなものですね」
「ローラは陰謀渦巻く貴族社会で生き抜くには、少しばかり純粋すぎる。だからこそ、ローラの力は悪用されないように隠し通さなければならない……ローラの真の力を知っているのは、アレクシスとリディアナとカインだけで間違いないな?」
王は、父の顔から王の顔に戻った。
「はい、その三人以外には知られていないはずです」
フェリクスは、そのことが知れ渡らないよう、幾重にも注意を重ねていた。
「アレクシスは心配ないだろう、カインは……たっぷり報奨金をやって、アレクシスの下につけよう。リディアナも心配はないが、そうだな…フェリクス、そなたはリディアナと恋仲だな?」
「それもご存知でしたか。はい、リディアナは私の愛する人です」
王はニヤリと笑う。
「王家の秘密を知ったからには、王家の一員となってもらおう! ローラ達が城へ帰還すると同時に、婚約を発表する。良いな?」
「もちろん、思ってもいない僥倖です。この機会にリディアナを狙う不埒な輩を一掃します」
フェリクスは黒い笑みを浮かべた。
「そなたも不埒な輩の一人であろう……その腹黒さがローラに少しでもあればなぁ」
腹黒な息子と、おバカな娘を持った王の悩みは尽きないのである。
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