閑話① ムーフォンス視点


 私の名はムーフォンス·キング·ラディソン。


 このオーディフェンス王国の第一王子とて産まれた。


 小さい時からこの国の次代国王として厳しい教育を受けてきた。剣術、魔法、学力は常にトップクラスでならなけばならない。そう、一番ではなくトップクラスに。


 この国には優秀な人物は沢山いる。この国で最強と言えば、ダン·フィン·アンドリエ公爵候、今のこの国の宰相だ。




 今から23年ほど前に、カンチス王国が大規模な戦を仕掛けてきた。その激しい戦いは一年以上にも及び、両国にかなりの死者を出した。


 前国王、私の祖父になるのだが、余りにも過激な攻めにオーディエンス王国の存続の危機に晒されていた。国の存続を掛けて、民を守る為国王自ら戦場に赴いた。戦場は荒れに荒れ、前国王は敗れた。その時に前アンドリエ公爵候は祖父の国王を庇い死亡。祖父もその場で倒れた。


 既にオーディエンス王国は攻め落とされる寸前だったが、当時14歳のダン少年と数名の同級生達が颯爽と戦に赴き、戦場を逆転させたのだ。14歳の少年が剣を振り回しながら魔法を使い、まだ二万人はいた敵陣を完封なきまでに叩きのめしたのだ。特にダン少年は鬼気迫るものがあり、一人で一度に何千人も倒したとか。それでついた異名が『銀髪の魔王』。




 我が国の窮地を救った14歳の少年達は英雄になった。


 その少年達に褒美として大公爵の地位を与えたが、ダン少年だけアンドリエ公爵の跡を継ぐからと、固持して受け取らなかった。それではと、違う領土を与えた。




 因みにその少年達と、父は同級生。本当は自分も王太子という立場でなかったら、戦場に行って祖父の敵を討ちたかったと言っていた。




 ダン少年は15歳で歴代で最少となる騎士団の総督に就任して活躍し、数年前から父の片腕として宰相になって今にいたる。


 今も老若男女に人気のある、昔もモテまくってたダン宰相が選んだのは男爵家出身のミチルダ公爵夫人。見た目平凡。何故?という国民の声が後をたたず、暫くは話題になっていたという。




 まあ、とりあえず今の父王には優秀な人物がいると言うこと。




 だが私の代も安泰だと自負している。三才上にダン宰相の嫡男、次アンドリエ公爵候となるシャベールだ。彼もダン宰相に匹敵するくらいの魔力を持っていると聞く。剣術はダン宰相には劣るがなかなかの腕前らしい。


 シャベールと同じく両方兼ね備えているのが、キディングス公爵の嫡男ローランだ。こちらはどちらかと云うと剣術の方が得意のようだ。 


 その他にも、私と同級生であり親友のバーバスが側近としている。私も周りに恵まれたと思う。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 私も、もう少しで16歳になる。のらりくらりとかわしてきた花嫁探しをすると、母親で、王妃のフローラが意気込んでいる。




 「貴方はいつまで経っても花嫁候補連れて来ないから、再来月の貴方の誕生日に舞踏会を開くわ!そこで見つけるのよ!」




 「······。」




 やる気満々の母だ。母は出来れば政略結婚はさせたくないから、早く花嫁候補をみつけなさい!連れてきなさい!と、ことある事に言ってはきていた。




 私はまだ、今の気ままの状態を楽しみたいんだけどな。王太子と言う肩書きに釣られる者、私の容姿で釣られる者。自分で言うのもなんだが、女性好きする容姿だと思う。誘われれば蜜蜂のように、あっちの花、こっちの花の蜜を頂いている。最近では、若い女性は勘違いするものも多く、相手するのが面倒なり、もっぱら淑女のお相手をしている。






 この国の結婚適齢は男性は18~21歳までが多く、女性は16~20歳が多い。又、貴族の女性の場合は婚約が大体10~15歳までで決まる人が多く、12、13歳くらいから嫁ぐ爵位によって花嫁修業も兼ねて同居することもある。




 とうとう、妻を決めないといけないのか····。決まってもまだ後二年は自由にさせて貰おう。






 誕生日1ヶ月前、どうやら貴族の8~18歳までのご令嬢に招待状を贈り捲ったらしい。


 どれだけのご令嬢を相手にしないといけないのかと考えると、ちょっとウンザリする。




 そこで問題勃発した。どうやら来月の舞踏会が王太子の花嫁探しをすると聞きつけたらしい、ギィオリンク王国とローインデリア王国が舞踏会に参加させて欲しいと、書簡を送ってきたのだ。


 両国ともの魂胆見え見えだが、断ることは不可能の為、仕方なしに招待状を贈った。






◆◆◆◆◆◆◆◆




 舞踏会当日。




 とある部屋一室。




 「もう昼か。」




 ベッドから起き上がる。隣には何も身に纏ってない、とある伯爵夫人。その伯爵夫人を横目に


 明日からはこんなことは慎まないとな···。




 「さて、服を着替え王城に帰るかな。母上に煩く言われる。」




 私は急いで着替える。




 「あら、ムーフォンス殿下はもうお帰りですの?」




 「まあね。今日は私の誕生日の舞踏会があるからね。主役だから早く帰らないと。」




 「それは···殿下おめでとうございます。」




 伯爵夫人は裸体のまま私の背中に抱きつき豊満な胸を押し付けてきた。




 「また二人でお祝いしたいですわ。今度はいつ会えますの?」




 「魅力的なお誘いだけど、もう貴女とは会わない。」




 伯爵夫人はすがるように私にしがみついた。




 「何故ですの!?」




 「何故と言われても、貴女とは割りきった関係ですし、今日くらいには私の婚約者が決まりそうなんでね。火遊びは控えないと。」




 ニッコリ微笑んで、その場を後にした。






◆◆◆◆◆◆◆






 王城に帰ると、早速母上の説教を食らい、昨日既に二国の王女が着いていた。




 「面倒くさい···。」




 着替えて、ギィオリンク王国のジャンヌ王女様とローインデリア王国のルルカ王女に挨拶をした。




 二人とも、物語に出てくるような王女そのもので笑ってしまう。一言で言うなら我が儘。


 どうやら私を気に入ったようだ。二人で牽制し合っていた。




 後で父上に呼ばれ「あの二人のどちらかを正妃に選ばないといけまい。」と言われた。


 これは王族に産まれた以上、仕方ないことと諦めている。もっとも既に婚約者がいれば断られたのだが、婚約者を探さずにフラフラしてた自分の責任だと思っているので、異論は言えなかった。 




◆◆◆◆◆◆◆◆




 舞踏会が始まり、妹セリーナと最初にダンスをし、それを皮切りに私の周りをご令嬢方で埋め尽くされた。




 「ムーフォンス王子様、私は◯◯◯公爵の息女の◯◯◯と申します。本日はお誕生日おめでとうございます。」




 「ありがとう。」




 私が微笑んでお礼を言うとご令嬢方は頬を赤く染めていた。




·····。




 あとも挨拶が続くが、数も多く、家名名前などは覚えれない···と、言うか覚える気がほぼない。右耳から左耳へ聞き流し、お礼を述べる。




 早く終わらないかな···。私はウンザリしていた。




 ご令嬢のド派手は着飾りも、挨拶も、皆同じように思える。


 対応するのも辟易してきた。




 ふと、ある場所に目がついた。




 料理テーブルの所に小さな女の子が一人いるな····。


 全身ピンクに染めている。フリフリのピンク色のドレスに頭に大きなピンク色のリボン。かなり目立つ。しかも物凄い勢いで料理を食べていた。




 誰だろう?見覚えもない。多分こちらへ挨拶にも来てない気がする。




 ちょっと興味を持った。どんな娘だろう。




 「ご令嬢方、ちょっと失礼するよ。」






 私は急ぎ足でそこ娘の所に向かった。




 私が着いても全然気がつかず、まだばくばく料理を食べている。お世辞にも上品に食べているとは言えなかった。




 余りにも気づかないので話かける。




 「レディ、こんばんは。」




 彼女はびっくりしてこちらを向く。お間抜けな姿でボーゼンと私を見ている。




 すぐさま気を取り戻したのか、澄ました顔で挨拶をしてきた。




 「ムーフォンス王子様、初めてまして、ダン▪フィン▪アンドリエ公爵の四女のフレア▪フィン▪アンドリエと申します。『八歳』でございます。」




 なんか異様に年齢を強調したな。


 ダン宰相の末のご息女か。ダン宰相のお子さんの割には顔が普通···。ご子息のシャベールも綺麗な顔だちしているし、弟のギオレットは綺麗とは違うが精悍な顔だちをしている。ご息女達も綺麗だと噂に聞いている。一人だけ違う···ミチルダ公爵夫人に似たのか···。




 そのあと誕生日の挨拶をしてきたので嫌みを返したら、フォークと、料理がいっぱいのっている皿を両手で持ち上げて




 「美味しい!」




 と、言った。




 ·····面白い。他のご令嬢方とは違うな。しかもどうやら、私とは話をしたくなさそうにそわそわしているように見える。


 そんな娘は初めてだ。




 「是非、美味しかったとお伝えください。」




 フレアはこの場から離れようとしたので、王家特製のケーキを食べようと誘い国王と王妃の元へ無理矢理連れていった。




 国王である父上と王妃である母上にフレアを紹介する。父上は初めてフレアと会ったようだった。




 それからケーキを食べた。本当に美味しそうに食べていて、その幸せそうな顔を見るとほんわかした気持ちになった。




 『もっと一緒にいたいな···』


····そう思った自分にびっくりした。私はこの娘にますます興味を持った。




 フレアはケーキのお礼を言って去ろうとしたのでダンスに誘った。




 「ムーフォンス王子様、私あまりダンスは得意ではないんです。」




 断ってきた····初めて断られた。ちょっとへこんだが、またも無理矢理ホールへ連れていった。




 身長差があるからか、少し踊り難かったが、一生懸命私に附いてこようとしている姿が可愛くて堪らなかった。


 『なんか癒される。』




 今までご令嬢方にアプローチを受け、きらびやかなドレス、香油の匂い、女同士の探り合いなどとギスギスした所にいたから、私のこと等興味なさそうな、明らかに避けているのような所が全て新鮮だった。




 フレアは何故かダンスをしているのに、身体に隙間を徐々に拡げている気がする····。


 ダンスはもっと身体を密着させるものだ。


 私はそう思い、グイっとフレアを抱き寄せた。すると、香油の匂いなのか、はたまたフレアの体臭なのか、ふんわりといい匂いがする。


 ドクン!私の下半身が微かに反応した。


 ····え?···私はこの幼女に?豊満な胸もなく、いやまさしくペッタンコの胸に、色気など全くないこの娘に?




 自分が信じられなかった。確認するため、もっと抱き寄せようとしたが




 「曲が終わりましたわ!」




 フレアの一言で曲が終わったのに気付いた。


 まだ離れたくない。


 私はそう思い


 「もう一曲いかがですか?」


 と誘ったが、フレアは周りを指して待っている違うご令嬢を相手しろと言う。確かに周りを見たら待っているようだったし、まだ他国の王女とも踊ってないことをに気付いた。


  仕方ない····。


 「分かりました。では後ほどまた踊りましょう」


 私は早くフレアと踊るべく、ご令嬢達の元へ向かった。


 何とかある程度数をこなし、また誘う為にフレアを探したがフレアの姿は無かった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「次の土曜日にジャンヌ王女とルルカ王女の歓迎の夜会を開く」


 父王は言った。そして、どちらを妃にするか見定めよと···。


 今の私はフレアのことばかり考えていた。私の側近であり親友のバーバスが言うにはそれは恋だと。私は恋がしたことがない。女性との関係はただのお遊びだったからだ。


 父王の言葉が重くのし掛かった。






 夜会当日




 ジャンヌ王女と最初に踊り、次にルルカ王女。今日もフレアが来ると、ダン宰相は言っていた。王女を含め、ご令嬢たちを適当にあしらいながらフレアを探した。


 『いた!』


 やはり料理テーブルの所にいた。前回と同様美味しそうに料理を頬張っていた。それを見てクスリと笑ってしまった。


 そしてフレアの所へ行った。前回と変わらない反応で心の中でまた笑ってしまった。


 ダンスに誘うとパートナーがいるという。前回よりも着飾り、化粧もしていた。ドレスもかなりの品物だった。ムッとした。


 前回のことを盾にもう一度誘う。その時にジャンヌ王女とルルカ王女の邪魔が入った。心の中で舌打ちをした。


 そしてまた邪魔が入った。フレアのパートナーのローランだ。まさかローランとは···。彼は私にも劣らぬほど女性関係は派手だったはず。ここ数年は大人しくなっているが。フレアと踊らせろと打診するが却下された。あくまでパートナーは自分だと···。嫉妬した。今日はパートナーというだけでフレアとずっと一緒にいれるのだから。




 今度は四人目の邪魔者がきた。フレアの姉であるノーレン。噂通りの美貌だった。私より一つ下の15歳とは聞いているが、かなりの色気だ。王女たちに勝っている。胸部分がぱっくり開いた大胆なドレスを着ていた。母親に似て胸もかなり大きく、今にもこぼれ落ちそうになっている。いつの間にか三人で言い争っていた。気がつけばフレアとローランはその場から居なくなっていた。




 ノーレンと踊っている時に急に会場が騒がしくなった。周りが小さな女の子が倒れたそうよと噂をしていた。人だかりが出来ている所を見ると、頭ひとつ背が高いローランがフレアを横抱きに青い顔して誰かに話かけている姿が見えた。


 急いでその場に行き、フレアの倒れている姿を見て思わず「どうしたんだ!」と叫んでしまった。一体何があったのかとローランを睨む。ミチルダ公爵夫人は「大丈夫です」と言いフレアとローランを連れて帰って行った。


 それからの後はあまり記憶にない。複数の女性に夜のお誘いを受けたが、フレアのことが気になり全て断った。そして自分の気持ちを自覚し、決意をした。


 夜会は終了していなかったが父王と母上を別室に来てもらい、自分の心情を打ち明けた。




 「私はフレアを娶りたいです。正妃として。」


 「ムーフォンス、それは難しいぞ」


 「ジャンヌ王女とルルカ王女のことなら、ランベルトとリンクスのそれぞれの正妃として迎え入れればいいじゃないですか。」


 父王は渋い顔して


 「相手の気持ちもある。一応ダンには正妃、もしくは側室で打診する。それでいいな?」


 「···分かりました。」


 「それにフレア嬢にはリンクスも正妃に望んでおる。こちらは今朝ダンには言っておるが」


  リンクスもフレアを?何故?リンクスはフレアよりもひとつ上だし、学校も一緒だから面識あったのか?


 そのあと、父王はダン宰を呼び婚約の打診をしてくれた。






◆◆◆◆◆◆◆




 2日後、婚約の申し込みは断られた。リンクスと共に。


 代わりにノーレン嬢を側室どうかと言われたが断った。花嫁に欲しいのはフレアだから。この国では姉妹同時娶ることは出来ないのだ。


 諦めきれなかった。今度は自分から直接言ってみよう。


 そして急遽、何らかの報告があるからまた土曜日に夜会をすることが決まった。ちょうどいい。その時に直接プロポーズをしよう。






 夜会当日、それは叶えられなかった。ダン宰相が檀上に上がり




 「ローラン·サング·キディングスと、我が末娘のフレアがこの度、仮ではあるが婚約したことを報告する!」




 ローランとフレアが檀上に上がりお辞儀をしている。


 婚約···?フレアはローランと結婚するのか···。失意でその場を崩れ落ちそうになった。 


 「まだ仮ではあるが4年後には正式に婚約する予定である!それまでは温かく見守ってやって欲しい。」




 仮?正式ではないのか?仮だとしても婚約したと発表した以上、もう正妃の申し込みは出来ない。だが、側室ならできる。


 猶予期限は四年間。私は諦めない。




 君が好きなんだ···。


 君が欲しい····。


 必ず君を手に入れるよ。覚悟しておいてね。




 皆に祝福を受けている二人に、そっと心で呟いた。

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